アイドルゲームセット【ハムカツとウーロン茶】
参考ゲーム
アイカツ
アイドルマスター
プリティーリズム
「あ、ハムカツのおねいちゃんだー」
「ハムカツー」
「ハムカツー」
瑞穂が珍妙な挨拶をしながら女子小学生に手を振った。
「……お前、小学生にハムカツ売ってんのか?」
「違うわよ! ハムカツっていうのは女の子向けのアーケードゲームのこと」
「そういうゲームがあるのか」
とりあえずゲーセンへ寄る前に近所の肉屋でハムカツを買っていく。
ハムカツといえば紙のように薄いやつを連想するものの、
「ふとっ!」
とてつもなく分厚いハムカツだった。
トンカツ並みである。
これに辛子を添え、ソースをドバドバかけてかじるのがたまらない。
「ふぅ……」
食後のウーロン茶も格別だ。
「あ、あった。あれよ」
脂でギトギトになって指でビシッとゲーセンの筐体を指差す。
『ハムカツ 公式アイドル活動』
「アイドルゲーム? それがなんでハムカツなんだ」
「サブタイトルにあるでしょ。ハムカツっていうのは公式活動のこと。一定の成果を上げたら事務所にアイドルとして公認されるんだけど、公認バッジの『公』の字がハムっぽく見えるからハムカツって呼ばれてるのよ」
「へえ」
とりあえずネーミングセンスが最悪なのと、こいつが小学生に交じってこれをプレイしているのはわかった。
今は誰もプレイしていないので、筐体ではデモムービーが流れている。
『ハムカツ! ハムカツ!』
見習いアイドルたちが珍妙な掛け声を上げながらランニングしたり、ロッククライミングをしていた。
「……なんだこれ」
「え、ライブに向けて山籠もりしたり、滝に打たれるのは普通でしょ?」
「普通じゃねえ!」
このゲーム世界では二次元特有のぶっ飛んだ偶像が作られているようだ。
色んな宗教で偶像崇拝が禁止されている理由はこれかもしれない。
「あんたもプロデュースしてみたら? 結構いるのよ、ハムカツおじさん」
「誰がおじさんだ」
それにハムカツおじさんだと、食べ物のハムカツが大好きなおじさんにしか聞こえない。
「はい、これ」
カードを渡される。
いかにも子供が喜びそうな羽の生えた靴が描かれており、QRコードを読み込ませるとそのカードが使えるシステムだろう。
ファッションカードはトップス(上半身に着るもの)、ボトムス(下半身に着るもの)、シューズ、アクセサリの4種類。
アイテムにはポップやクールの属性があり、属性をそろえると効果を発揮するようだ。
ファッションアイテムはメーカーごとにデザインコンセプトが統一されており、メーカーをそろえるとさらに強力な効果を発揮するらしい。
最低でも属性がそろうようにコーディネイトしないと、イベントをクリアしにくいのだろう。
『問おう、あなたが私のプロデューサーか?』
主人公はアイドルではなくプロデューサーらしい。
主なコマンドはレッスン、オーディション、営業(仕事)、取材、休暇。
レッスンでアイドル見習いのパラメータを上げ、オーディションに合格し、仕事でファンを獲得して、アイドルランクを上げていく。
そういうゲームだ。
「まずはレッスンだな」
発声練習では楽譜が音ゲーの譜面になっており、タイミングよくボタンを押すとちゃんと楽譜通りの発声をする(あくまで発声練習なので、曲に合わせてボタンを押す仕様ではない)。
最初のレッスンなので難易度も低い。
ノーミスでクリアできた。
しかし、
『グッドレッスン』
「ん、ノーミスなのにパーフェクトにならない? ……というかパーフェクトまでポイントを貯めるには、どう考えても時間が足りんぞ」
「譜面の流れる速度はプレイヤーが調節できるの。早送りしないとパーフェクトにはならないわよ」
「あー、曲がないから早送りできるんだな」
発声練習だからこそできるシステムだ。
「ポチッとな」
ためしに早送りしてみる。
DABCBACDBCDACBD
「速い!?」
すぐに早送りボタンを離した。
曲がないとはいえ基本システムは音ゲーだ。
難易度を上げるとどうしてもこうなるらしい。
無難にグッドレッスンでまとめた方がいいだろう。
まだ先は長いのだ。
「撮影会にファッションショー、雑誌の取材。いろいろあるな」
撮影会はカメラ目線になるミニゲーム。
1から4までのカメラがあり、各カメラにボタンが割り振られている。
1 B
2 C
3 D
4 A
たとえば3カメを指示されたらDを、1カメを指示されたらBを押してカメラ目線にならなければならない。
指示が出されるカメラの順番はランダムであり、撮影中はカメラとボタンの表示も消えるので、カメラ配置を覚えなければならない。
発声練習と同じポイントシステムなので、高得点を狙うなら短い時間でカメラを記憶する必要がある。
ファッションショーも似たようなシステムだ。
ミニゲームとしてもなかなか面白い。
「公認じゃなくても普通にアイドルしてるな。公認される意味あるのか、これ?」
「公認されたらユニット組めるのよ。非公認でもイベントで共演はできるけど、一度共演したらしばらく共演できないし……。ソロでも売れる人間でないとアイドルとして認められないんだから」
意外に厳しい世界だ。
『無名のキャラを人気ユニットに加入させてランクを上げる』という方法は使えそうもない。
『新しいコーデが作れるようになりました』
ゲームを進めていくと、オリジナルのコーディネイトができるようになった。
細かいデザインは変えられないが、既存のファッションの色や柄をいじれるらしい。
オリジナルコーデが完成すると、
ガガガッ
さっそくカードが出てきた。
「ん? 俺のオリジナルなのになんでカードが出てくるんだ?」
「その場でオンデマンド印刷してるのよ」
「いま刷ったのか!?」
「最近のゲームを甘く見ないことね。集めるだけがカードじゃない、これからは作る時代なの!」
……アイドルゲームおそるべし。
小学生が夢中になるのもわかる。
「そろそろライブをやりたいところだが……。オーディションをクリアしないといけないんだよな」
オーディションも他のミニゲームとおおよそは同じ。
歌・ダンス・ファッションの審査員がおり、各ボタンがそれぞれの審査員に対応している。
オーディションは3次審査まであるものの、途中で落とされることはない。
1つの審査につき9回のアピールチャンスがあり、3次審査までに獲得した星の数でライバルたちと合否を争う。
一番の曲者は独特な点数制度。
オーディションの種類によってジャンルの優先順位が異なり、たとえば1歌2ダンス3ファッションの場合、優先順位の高い歌のアピールポイントで『3位以内』に入ると星が5つもらえる。
2のダンスでは3つ、3のファッションでは2つ。
つまり1つの審査で獲得できる星は最大で10個。
最下位になると星が1つ減る。
順位によってもらえる星が変動することはないので、無理して1位を狙う必要はない。
むしろ全てのジャンルで3位を狙うという戦略もある。
アピールチャンスは9回。
とりあえず全ジャンルに3回ずつアピールしてみる。
『4位』
『3位』
『3位』
「ぐ」
「優先順位1位のジャンルに4回、2位に3回、3位に2回がセオリーよ。それと誰がどのジャンルにどれだけアピールしてるか数えていれば、もっと3位入賞しやすくなるから」
「なるほど」
しかし2次審査でも4位3位3位の星5つ。
1次・2次で流行ジャンル(合わせて星10個)を取れなかったのは痛い。
「この星じゃ合格するのはかなり厳しそうだな」
「『ジェノサイド戦略』の出番かしら」
「ジェノサイド?」
「流行ジャンルにはアピールが集中するでしょ? アピールが集中したり、連続して同じジャンルにアピールすると審査員のテンションが下がって、途中で帰っちゃうの」
「帰ったら星がもらえなくなるだろ」
「それどころか星がなくなるのよ」
「は?」
「3次審査だけじゃなくて、1次・2次の審査で獲得した星もなくなっちゃうのよ。ようするにわざと連続アピールして、自分の取れなかったジャンルを潰すの」
「……なるほど、皆殺し戦略だな」
3連続でアピールして流行ジャンルを潰し、浮いた1回を優先順位3位に回して、無事2つのジャンルで3位入賞。
流行ジャンルはなくなってしまったので、事実上の満点だ。
なんなくオーディションに合格する。
待望のライブだ。
ライブはシンプルな音ゲー方式。
歌のリズムに合わせてボタンを押せばいい。
ただ1つ気になるのは、
『ハムカツジャンプ!』
「……なんだこれ?」
「トリプルアクセル」
「なんでアイドルがライブでアイススケートしてるんだよ」
「昔のアイドルだってローラースケート履いてたじゃない」
「……たしかに」
完全には納得いかなかったものの、ジャンプの演出そのものは悪くない。
むしろタイミングよくボタンを押していくと、実際のアイススケートのようにジャンプが繋がって気持ちいい。
このゲームでは現実とは逆に3回転→トリプルアクセル→4回転と回転数が上がっていく上に、競技アイススケートでは禁じられているバク転などもある。
全てのジャンプを完ぺきに成功させるとアンコールが起こり、曲が終わった後も追加ジャンプができてスコアを伸ばせるらしい。
このライブ映像を保存しておけばいつでも鑑賞でき、スクリーンショットを撮ればそれを印刷してオリジナルのカードも作れる。
エンターテイメントとして計算されている。
正直かなり面白い。
『やったね、ハムカツできるよ!』
「おお、公認された!」
これでユニットが組めて、さらにゲームの幅が広がる。
はずだったのだが……
「ん、ユニットが組めんぞ」
「ユニットを組むにも条件があるのよ。アイドルランクを上げるとか、カードを集めるとか。特に重要なのはカードね」
「カードはどうやって集めればいいんだ」
「課金」
……やはり金か。
「集めるなら楽器カードね。アイドルゲームは歌・ダンス・ファッションが主軸だったんだけど、中にはダンスが苦手って設定のキャラもいるから、ダンスと演奏が切り替えられるようになったの。ファッションもマンネリ化してたのが、楽器をもたせることでバリエーションがぐっと増えたんだから」
「へえ」
歌だと声優が収録する必要があり、さらにユニットになると手間も金もかかる。
その点、演奏だけなら作曲するだけでいい。
ダンスよりも楽器の演奏の方が3Dモデルのモーションを作るのも簡単そうなので、メーカーとしても一石二鳥だろう。
……どこにハムカツジャンプを入れ込むのかがクリエーターの悩みどころ。
「お、ジャズバンドも組めるのか」
ユニットの構成人数を増やせば応援団風のブラスバンドや、スウィングジャズのビッグバンドはおろか、オーケストラも実現できるらしい。
「ただ音楽と楽器の知識がないとユニット組みにくいのよね」
「ジャズならピアノ、ベース、ドラムスのピアノトリオか、ピアノトリオにサックスとトランペットを加えたクインテットが基本じゃないか」
少しばかり課金してカードを引いてみる。
「ん、オルガンだ。ファンキージャズにしよう」
「ジャズでオルガン使うの?」
「ジャズは黒人音楽だ。特にファンキージャズやソウルジャズは黒人霊歌の影響が強くて、オルガンは欠かせない」
「へー」
わかりにくいビバップに、ブルースの要素を加えてわかりやすくしたのがハードバップ。
さらにブルースやゴスペルといった黒人音楽要素を強調したのがファンキージャズだ。
オルガンカードのQRコードを読み込み、無事にファンキージャズバンドが完成した。
「私のロックバンドと共演すれば、フュージョンバンドにもなるわよ」
「そうか、協力プレイもできるんだな」
フュージョンはジャズとロックの融合。
夢の共演だ。
自分がプロデュースして公認アイドルまで育てただけに感慨深い。
そうして遊ぶこと2時間あまり。
「あ、ハムカツおじさんだ」
……自分が引き返せないところまで来ていたことに今更気づく。




