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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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円盤読み込みゲームセット【ベーグルとハワイコナ】

参考ゲーム

モンスターファーム


「CDCDっと……」


 なぜかジュークボックスからCDを抜きまくっていた。

「またピプリポンか?」

「今回は『アカシックレコード』よ」


「アカシックレコード? たしか『宇宙の始まりから終わりまでの情報がすべて記録されている』とかいうオカルトネタだったか?」


「それをネタにしたゲームよ。アカシックレコードが壊れて、記録の欠片がCDになったっていう設定。で、プレイヤーはその円盤を読み込むことでクリーチャーを再生するの」

「読み込むものによって生まれるクリーチャーが違うってことか?」

「そういうこと。もちろん災害や戦争のアカシックレコードを再生したら、歴史が繰り返されるわよ」

 意外に深い設定だ。

「ちなみに対戦もできるから、好きなの再生して」

「わかった」

 対戦相手なしで一人延々とCDを入れ替え続けるのもしんどそうなので、適当に付き合ってやることにする。

「ん? このゲーム、DVDも再生できるんだな」

「あ、そうだった。……DVDボックス持って来ればよかった」

「これ以上うちに私物を持ち込むな」

「はーい」

 さすがにDVDボックスのようなかさばる物が増えたら足の踏み場もなくなってしまう。

 ど忘れしていてよかった。


「DVDならグレン・ミラーの映画があったな。それと『処刑台のエレベーター』に『嵐を呼ぶ女』」


「『あたいはドラマー』ってやつね。これジャズの映画なの?」

「正直ジャズじゃない音楽も多い。まあ、昔はアメリカや中南米の曲は全部ジャズってくくられてたから仕方ないんだが」

「へー。この処刑台のエレベーターっていうのは?」

「フランスの『ヌーヴェル・ヴァーグ』を代表する映画でな、日本のモダンジャズブームのきっかけにもなった作品だ」

「ぬ、ぬーどる?」

「フランス語で新しい波って意味だ」

「ああ、ニューウェーブ運動ね」


「ちなみに音楽担当はマイク・デイヴィスだぞ。映画を観ながら即興で録音したらしい」


「……どこでも出てくるわね、マイク・デイヴィス」

「ジャズの神様だからな」

 ヌーヴェル・ヴァーグ映画なら『巨大運河』や『危ない関係』でもジャズが使われている。

 日本の『アングラ映画』ではフリージャズが使われることが多い。

「とりあえず再生してみるか」

 ジャズ映画をセットしてクリーチャーを生み出してみる。

 生まれたのは狼だった。

 特に強そうには見えない。


「さすがにいきなりレアは引けないか。なら次だ。……って再生できない!?」


「プレイヤーが育てられるクリーチャーは一匹だけなのよ。他のクリーチャーを育てたい場合は、いま育ててるクリーチャーを冬眠させないといけないの」

「やっかいな仕様だな」

 しかも冬眠できる数も限られている。

「……まずはこいつを育てるしかないな。ダメそうなら他の円盤を再生だ」

 名前を考えるのが面倒なので、ありがちなフェンリルという名前にし、世界一のクリーチャーブリーダーを目指して育成開始。

 まずは仕事をさせる。

 狩りや畑仕事、用心棒、サーカスなど、仕事によって伸びるパラメータが違うらしい。

 簡単な仕事だと伸びるパラメータや賃金は少ないが、疲労も少ない。

 難しい仕事だと大きくパラメータが伸びる分、逆に下がってしまうパラメータもあり、疲労も大きい。

 賃金は50しか違わない。

 仕事で手に入る金は微々たるものだ。

 仕事の他には修行という項目があり、これも修行内容によって上がるパラメータが違う。

 パラメータの上昇率はどの仕事よりも高く、新しい技も覚えることができる。

 ただ修行はプレイヤーがクリーチャーを鍛えるのではなく、専門家に預けて鍛えてもらう方式なので、かなり金がかかる。

 ちまちまと仕事をしているだけでは効率よく修行できない。


「お金を稼ぎたいなら大会に出場したら?」


「大会にはいつでも出場できるのか?」

「ブリーダーランクを上げる公式大会は3ケ月に1回だけど、それ以外の大会ならいつでも出場できるわよ」

「なら気軽に挑めるな」

 休息して疲労を抜くと、さっそく最低ランクの大会にエントリーする。

 大会はトーナメントではなく総当たり戦だった。

 参加クリーチャーは自分を含めて4匹。

 ランクが上がるほど参加するクリーチャーの数も増えるらしい。

『クリーチャーに命令しますか?』

 戦闘方式にはクリーチャーが自動で戦うオートと、プレイヤーが命令するマニュアルがあるらしい。

「当然マニュアルだな」


『忠誠心が低いので気を付けてください』


 どうやらフェンリルはまだトレーナーになついていないらしく、命令を聞かないことがあるでしょうとアドバイスされた。

 一抹の不安を抱えながら戦闘開始。

 リアルタイムっぽい戦闘画面だ。

 表示されている数値は残り時間、命中率、ガッツ、体力。

 ガッツというのがよくわからないものの、

「噛み付きだ!」

 適当にガンガン攻撃の命令を出していく。


『意味不明』


「は?」

「これが命令無視よ」


ガンッ


「うああ!? 相手の命中率は低いはずなのに!?」

「意味不明の時は回避率が極端に下がるの」

「そういうカラクリか。もう一度噛み付き! ……ん、攻撃できんぞ」

「ガッツがないからよ」

「ガッツって技ポイントなのか」

 攻撃する、もしくは攻撃を食らうとガッツは減る。

 減ったガッツは時間経過によって徐々に回復していくようだ。

 ガッツを回復させつつ攻撃をくわえていく。


『意味不明』


「よし!」

 相手も忠誠度が低いらしく動きが止まった。

 大チャンスだ。

 しかし、


「くっ! ガッツが足りない!」


 意味不明の弱体化時間もすぎてしまった。

 ちゃんと考えながら戦わないとこういうことになる。

 ガッツが高いほど攻撃力も上がるようなので、いかにガッツを溜めるかが重要になりそうだ。

「距離によって出せる技は違うわよ。それと距離が近い時は吹き飛ばしで間合いを取ることができるから」

「間合いの概念もあるのか」

 相手を吹き飛ばして距離を取り、やや間合いが長い引っ掻きで攻撃してみる。

 相手は近接技しか持っていないので、吹き飛ばしと引っ掻きを交互に出しているだけで勝てた。

 2戦目もこれで楽勝。

「総当たりだと面倒だな」

「それは同感ね」

 トーナメントなら弱いクリーチャーはどんどん脱落していくし、勝ち進むほど相手も強くなる。

 だが総当たりだと強さにばらつきがあり、負けが込んでいる相手と戦うことにもなる。

 勝率で優勝を決めるよりも、勝ち進んでいった方が喜びも大きいと思うのだが……。


「たぶん勝率を争う総当たり方式なら負けても優勝できる可能性があるからでしょうね」


「あー、プレイヤー救済策か」

 よく考えたらプレイヤーの使えるクリーチャーは1体。

 クリーチャーごとに相性もある。

 全勝するのは思ったより難しそうだ。

 案の定、3戦目の敵とは相性が悪くタイムアップ。

 この場合、勝敗は残りHPで決まるらしい。

 それもパーセンテージだ。

 残りHPが相手より多くても、ダメージ比率が高ければ負ける。

 つまり総HPが少ないと不利。

 比率が同じなら総ダメージや攻撃成功率も加味されるようだ。

 そして運命の判定。


『YOU LOSE』


「ぐ!」

 負けた。

 ショックだったのかフェンリルが横に倒れ、プルプルと震える。

 その表情がなんともいえずシュールだった。

 クリーチャーが主役だけあってリアクションの種類も多い。

 古いゲームなので3Dモデルこそ荒いものの、とにかくよく動く。

 狼型なので犬っぽく、犬好きにはたまらないだろう。

 時に2Dのカットインも入り飽きさせない。

「2位でもそこそこ賞金もらえるな」

 疲労を回復させて修行につぎ込む。

 新技こそ覚えなかったものの、一気にパラメータが上昇した。

 仕事をしながら、コンスタントに大会へ出場し、修行を重ねていく。

「この人気ってパラメータはなんか意味あるのか?」


「人気が高いほど声援が大きくなって、クリティカル率が上がるのよ」


「それはでかいな」

 しかもたまにファンレターが届き、クリーチャーの疲労が回復したりする。

 想像以上に重要なパラメータだ。

「そろそろランク上げるか」

 公式大会に挑戦する。


『KO』


「げ」

 いきなり相性の悪い相手とぶつかり、あっという間に倒されてしまった。

 おまけに、


『これ以上戦うのは無理です』


 よほどひどい負け方をしてしまったらしく、残りは不戦敗で最下位転落。

 人気が一気に落ち、


『怪我をしてしまいました』


 負傷が発覚して入院。

 踏んだり蹴ったりだ。

 3ヶ月の入院は痛い。

 遅れを取り戻すべくきつい仕事をさせ、修行にはげむ。

 すると、


『フェンリルが逃げ出しました』


「は?」

「ストレスが溜まりすぎたみたいね」

「……小屋まで破壊していきやがった。変なところでリアルすぎるだろ」

 小屋の修繕費用がかかる上に、クリーチャーの忠誠度は大幅にダウン。

 大会に出場しても意味不明が多くなり、そして……


チーン


「げ、死んだ!? なんでだ!?」

「寿命よ」

「寿命ってまだ3歳だぞ!?」

「クリーチャーの平均寿命は4歳から5歳なの。ストレスが溜まりすぎて逃亡したり病気になると寿命が縮むから、文字通り致命的よ」

「……それにしたって短いな」

 クリーチャーが死んでもブリーダーランクは下がらない。

 だが上のランクに行くには強いクリーチャーが必要だ。

 いかにストレスを溜めず、効率よくパラメータを上げるか。

 それが重要になる。

「……また最初からか」

 CDをセットして新しいクリーチャーを再生。

 前回の反省を踏まえ、計算してじっくり育成した。

「じゃあ対戦しましょ」

「望むところだ」

 瑞穂がメモリーカードを差し、クリーチャーを読み込む。

 不気味な目玉のクリーチャーだ。

「こいつなら勝てそうだな」

 そう思ったのが甘かった。


『ツバはき』『なめる』『キッス』『べろびんた』


「なんだこいつ!?!」

「ふふ、ガッツをガツガツ減らしていくわよ!」

 おぞましい攻撃の連打でみるみる内にガッツが下がり、なにもできないままKOされた。

 精神的に揺さぶって戦うタイプらしい。

 色々な意味で汚い奴だ。

「くそ、次だ!」

 だが他のクリーチャーでも勝負にならなかった。


 吹き飛ばしなどで徹底的に距離を取られ、こちらの間合いの外からの超遠距離攻撃でちくちく刺されて完封負け。


 こちらが距離を取ろうとすると壁際に追い詰められ、溜めたガッツで一撃KO。


 攻撃力と防御力が極端に低い妖精クリーチャーは、回避が異様に高くて当たらない。

 運よく当たってもライフを回復する技を持っており、一発殴られたら回復と回避でタイムアップまで逃げられた。

「……こうなったら物量作戦だ」

 DVDを総動員する。

 スウィングボーイズ、スティンガー、冷たいのがお好き、タクシー・ドライブ、ヨーク・ヨーク、ジャズ武将etc

「意地でも強いクリーチャーを引き当ててやる!」

「お腹空いた」

「自分で作れ」

「ええー」


「……ベーグルがあるから適当につまめ」


「はーい」

 しぶしぶベーグルを用意する。

 飲み物はコーヒー。

 ベーグルなら中煎りの豆だろう。

 プレーンのベーグルならハワイコナかモカのコーヒーがオススメだ。

「んー、もっちり! でもちょっと物足りないかも……」

「ならクリームチーズを塗れ。たまねぎやトマトを挟んでもいいな」

「へー」

 この場合はキリマンジャロやマンデリンの方がいいかもしれない。

 キリマンジャロやマンデリンはガッツリしたパンに合うのだ。


「やっぱりベーグルにキャビアは合わないわね」


「お前なにやってんだ!?」

「『ペニー・グッドマン物語』」

 ジャズ映画の古典だ。

 変なところだけ知っている。


 ちなみにベーグルにキャビアは合わないというのは人種問題のことで、ユダヤ系で差別されていたペニー・グッドマンに母親がいった言葉だ。


 それでもグッドマンはキャビアと結婚している。

 高くて塩辛くてベーグルとの相性も最悪だが、挟まずにはいられなかったのだろう。

「もったいないから全部たべよ」

 ……なぜかグッドマンに深い共感を覚える。

「よし、強いクリーチャーが来たぞ!」

 レアキャラを再生するのに100枚かかった。

 これで勝てる。


『べろびんた』


 ……そう思ったのが甘かった。

 待望のレアキャラも極悪クリーチャーには手も足も出ず、あえなくKOされてしまった。




 数ヶ月後。


 チャリン


 瑞穂がジュークボックスに100円投入し、曲を選ぶ。

「やっぱり処刑台のエレベーターよね」

「あ!? お前サントラ入れてるのか!?」

「いいじゃない、好きなんだから」

「そういう問題じゃない! 客が流す前にそのCD抜いとけよ」

「なんで?」

 どうやらこいつは事の深刻さを理解していないらしい。

「いいか、そのCDはまだ……」


 カランカラン


「あ、いらっしゃいませー」

 説明の途中で珍しく客が来た。

 スーツにグラサン、オールバック。

 まるでどこぞのエージェントのようだ。

 ……嫌な予感がする。

 男はジュークボックスにちらっと目を向けると、つかつかとカウンターまで靴を鳴らして歩き、


わたくしこういう者ですが……」


 うやうやしく名刺を差し出した。

 ……さすがは処刑台のエレベーター。


 見事に最強のクリーチャー『日本音楽著作権管理委員会ニスラック』を生み出した。


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