ドットイートセット【ピザとイタリアンコーヒー】
参考ゲーム
パックマン
「コーヒーブレイクセット作らない?」
「は?」
コーヒーブレイクはコーヒー休み。
仕事の合間にコーヒーを飲んで小休憩することであり、決まった時間帯はない。
「セットってどんなんだ?」
「モーニングセットみたいな感じ」
「……コーヒー1杯の値段で軽食をサービスするのはきついから、うちではモーニングやってないんだぞ。コーヒーブレイクにしても何も変わらんだろ」
「軽食じゃなければいいんでしょ。たとえばこれとか」
「にゃー!?」
テーブル型筐体のモニターで寝ていた三毛猫のちはやを抱き上げてイスに降ろし、
チャリン
50円を投入する。
「つまりコーヒー1杯でゲームが1回無料になるってことか?」
「そういうこと」
「まあ、50円のレトロゲームなら許容範囲だな」
無料はあくまで最初の1回だけ。
そして1回プレイさせてしまえばこちらのものだ。
適度に難易度の高いものがいい。
小銭の余っているサラリーマンなら、コーヒー1杯分の金ぐらいすぐに吐き出してくれるだろう。
「じゃあコーヒーとピザね」
「……ピザはセットに含まれてないぞ」
「わかってるわよ」
ピザ生地に好きな具を載せていく。
「ゴルゴン・ゾーラ♪ ゴルゴン・ゾーラ♪」
ゾラゾラゾラゾラと妙な歌を歌いながら、ゴルゴンゾーラとモッツァレラチーズを載せていく。
これをオーブンにぶち込んで焼き上げる。
個人的にピザにはコーラなのだが、コーヒーブレイクなのでコーヒーがいいだろう。
「やっぱりコーヒーはイタリアンね!」
イタリアは南部に行くほど量が減って味が濃くなる。
その最たるものがナポリのコーヒーだろう。
カップにコールタールのような真っ黒でドロドロの液体を、ドッピオ(二杯分の量、いわゆるダブル)で注ぐ。
そしてコーヒーと同じ量の砂糖をぶちこんだ。
「『アイアンボールラン』でシーザーが淹れてたコーヒーだな」
「正解!」
さっきのチーズの歌も漫画内でシーザーが歌っていたものだ。
ファンなら食べたくなるのもわかる。
濃いチーズのピザならコーヒーも濃いほうがいい。
ただ一つだけ問題がある。
「あ、砂糖が残ってる」
「あんだけ入れれば溶けないのも当然だ」
カップの底にコーヒー色に染まった砂糖が残留していた。
「だがこれがいい」
「え、食べるの?」
「コーヒーが染み込んでるからな。これをつまむためにエスプレッソを飲むぐらいだ」
「へー」
行儀が悪いように見えるかもしれないが、本場の人間すなわち『ナポリタン』もこうするので遠慮する必要はない。
この頭が悪くなりそうなぐらいの砂糖の甘さが最高なのだ。
「……というかお前、また筐体の基板入れ替えたな。今度は何のゲームだ?」
「『パクパクマン』よ。敵とぶつからないように移動して、画面上にあるアイテムを全部取ればクリアになるゲームなの。いわゆる『ドットイートゲーム』ね」
「この大きいアイテムはなんだ?」
「それは『パワーエサ』。これを食べたらパワーアップして、敵を撃退することができるのよ。あくまで撃退するだけで倒せはしないんだけど、ハイスコアを狙うなら敵を撃退しないといけないわけ」
「ふうん」
基本的にパクパクマンより敵の方が速い。
ドットを食べている時はさらに足が遅くなる。
ただ敵よりも小回りが利く(角を曲がるのは速い)ので、逃げる時はドットのない道を曲がりながら進むといいようだ。
ドットを食べ続けているとフルーツの形をしたドットが現れ、これを取れば高得点が獲得できる(ただしフルーツは一定時間経つと消える)。
「ちなみにパクパクマンの姿はピザがモデルになってるのよ」
「ピザ?」
「丸いピザを1切れ食べたらこんな形になるでしょ」
たしかにピザを1切れ食べたら、丸い生物が口を開けているように見えなくもない。
「だからピザ注文したのか。するとコーヒーもなんか関係あるのか?」
「このゲームにもコーヒーブレイクがあるのよ。何ステージかに1回、プレイヤーが休めるようにパクパクマンのアニメーションが挟まるの。こんな風にね」
2面をクリアすると、パクパクマンが敵に追いかけられていた。
2匹が画面端に消えてから数秒すると、パワーエサを食べて巨大化したパクパクマンが現れ逆に敵を追いかける。
アニメでよくある演出だ。
BGMもコミカルでなかなか面白い。
その後も順調に瑞穂がステージをクリアしていく。
「……ん?」
なにかがおかしい。
前にも見た光景だ。
「さっきの面と同じパターンになってないか、これ?」
「このゲームの敵はパターン通りに動くのよ。ステージによって違いはあるけど、同じ構成のステージなら同じ行動をすれば敵も完全に同じパターンで動くの」
敵は4種類。
色によって行動パターンが違う。
こちらを執拗に追いかけてくる赤、先回りして待ち伏せを仕掛けてくる白、赤と白を合わせた感じの青、一見パターンがなさそうな黄色。
それぞれのモンスターには縄張りがあるらしく、そこを中心に行動する。
行動パターンは縄張りにパクパクマンがいる場合、いない場合、パワーエサを食べた場合の3パターンだろうか?
ステージが進んでも迷路の構成とスピードが変化するだけで、敵の数が増えることもなく、行動パターンは変わらない。
ステージが進めばパワーエサを食べても敵を撃退できなくなるようだが、これもパターン化されている。
「パターン入った」
……だからといってここまで完璧にパターン通りに行動できるものではない。
これは相当やりこんでいる。
「あ、ミスった。……さすがにパーフェクトゲームは無理ね」
「完全試合ってなんだ?」
「ノーミスで256面まで行くこと。そうするとメモリ不足になってゲームが強制的に終わっちゃうの。理論上の最高スコアは333万3360点ね」
「ちなみに最高スコアに到達するまでどのぐらいかかるんだ」
「4時間」
……コーヒーブレイクセットは考え直した方がいいのかもしれない。




