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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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3DダンジョンRPGセット【豚まんとほうじ茶】

参考ゲーム

世界樹の迷宮


「3DダンジョンRPGはありませんか?」


 先生が珍しくデジタルゲームを物色する。

 手にはなぜか方眼紙を持っていた。

「3Dダンジョン?」

「一人称視点のRPGよ。主観だからキャラの姿は見えないの」

「TRPGをゲームで再現した、デジタルRPGの原点です」

「へえ。……ところで、その方眼紙はなんですか?」


「もちろんマッピング用です!」


 なにがもちろんなのかわからないが、やる気満々だ。

「マッピング重視なら『ユグドラシルの迷宮』かしら」

「携帯機ですか」

「このゲームはちょっと変わってて、タッチペンでマッピングしていくタイプなの」

 ペンでスクリーンをタッチするとマスに色がついた。

「おおー」

 この携帯機にはモニターが2つある。

 上が主観のダンジョン。

 下がマップだ。


 上でダンジョンを探索しつつ、同時に下のスクリーンをタッチしてマッピングしていくらしい。


「で、パネルの色を変えたり、アイコンを置いて見やすくしていくわけ」

 ドアのアイコンをドラッグしてパネルの上に置く。

 他にも罠や宝箱、階段などさまざまなアイコンがある。

 ダメージゾーン(歩くとダメージを食らう床)ではパネルの色を赤にした。

「素晴らしいアイデアですね。ノーベル賞ものですよ」

 どちらかというとイグ・ノーベル賞だろう。

 歩けば自動マッピングされるゲームが主流な昨今、手動でマッピングしていたレトロゲーマーにはうれしい仕様だ。

「5人もいるとネーミングに迷いますね」

「普通は一人だけですしね」

 パーティー全員の名前を考えないといけないのが地味に困る。

「とりあえずお茶にするか」


「豚まんとほうじ茶ね!」


「あいよ」

 キャラメイクに時間がかかりそうなのでおやつを用意する。

「豚まんは焼いてね」

「は?」

「ホットサンドメーカーの両面にバターを塗って、豚まんをはさむの」

「自分でやれ!」

「えー」

「ほうじ茶は淹れてやる」

「わかったわよ……」

 文句を言いつつ、豚まんを焼く。


 軽く焦げ目がついたら完成らしい。


「んー、サクサク!」

 外はサクサク、中はジューシー。

 餃子のたれをつけて食べるとうまい。

 なぜほうじ茶なのかはわからないが、バターとほうじ茶の香りは悪くない組み合わせだ。

「ようやく終わりました」

 焼き豚まんを突きつつ、先生がメイキングしたキャラを冒険者ギルドに登録。

 迷宮はギルドによって管理されており、登録しないと中に入れないのだ。


『君たちはすぐに迷宮へ挑んでもいいし、武器屋で装備を整えてもいい』


 ギルドから出ると独特の口調でメッセージが現れた。

「……これはもしかしてゲームブックですか?」

「たぶんね」

 『君は○○をしなければならない』や『あなたは死にました』のように、ゲームブック調の二人称でストーリーが語られていく。

 地震によってエルフの国の首都に大穴が空き、下から古代文明の遺跡が出てきたらしい。

 遺跡の中からモンスターが溢れてくるので首都は大混乱。

 冒険者たちは古代文明の遺産を求めて遺跡を探索する。

 そういう話だ。


「……敵を倒してもお金が入りません」


「ドロップ率が高いから戦利品を換金して」

 死体から素材を剥いでいるのかドロップ率(アイテムを落とす確率)が高く、倒し方によって手に入らないアイテムがある(毒で倒すと肉は食用として使えず、殴って倒すと角や骨は砕けてしまう)。

 なお特定の素材を売ると、その素材によって作られる武器や防具、薬などが店頭に並ぶようになるようだ。

 金銭的にも装備的にもドロップアイテムの存在が重要なゲームシステムなわけだが……


『持ち物がいっぱいだ』


「え」

 その割にはストックできるアイテム数が少ない。

「アイテムはダンジョンで合成できるから、換金率の高いアイテムは残して、肉や植物でアイテムを調合するのがコツね」

「……調合が成功しても、使ったことのないアイテムはどんな効果があるのかわからないのが怖いですね」

「敵に使えばいいじゃない」

「なるほど。……あああ!? 狂暴化バーサクしました!」

 お約束。

 たとえザコ戦でも油断やちょっとしたミスで死ぬ。


 特に状態異常が怖い。


 序盤にも関わらずパーティ全体に眠りをかけてくるモンスターがいるし、毒のダメージもでかい。

 魔法にレベルがあるように毒にもレベルがあり、1レベル上がるだけでダメージが跳ね上がる(最高で256)。

 逆にいえば状態異常を使いこなせれば難易度はぐっと下がる。

 敵へ状態異常を仕掛けるのは難しくても、状態異常を回復する手段だけは確立しておいた方がいい。


「あのもやもやしたものはなんでしょう?」


「あれはFOEフィールド・オン・イビル。ようするに中ボスね。接触すると戦闘になるわよ」

 マップには赤い点として表示されており、こちらが1マス動くとFOEも1マス動く。

 逃げるのは難しくないが、ダンジョンの構造によっては避けようがない。

「この青い点は?」

「それは他の冒険者。接触するとアイテムをもらえたりイベントが発生するわよ。たまに襲われるけど」

 先生がFOEを避けて通ろうとすると、ランダムエンカウント(フィールドを歩いていると一定確率で敵と戦闘になる方式)でザコと戦闘になった。

 そして戦うこと数ターン、


『新たなモンスターが乱入してきた!』


「えええ!?」

 BGMが変わり、FOEがザコ戦に乱入してきた。

「こちらが1マス動くとFOEも1マス動くんだから、1ターン経てばFOEも1マス動くわよ。マップに表示されてる赤い点も動いてたでしょ」

「……見えてませんでした」

 カマキリとは思えない強さであえなく全滅。

 おまけに同じ階に何匹もいる。

 現時点ではとても勝てないのでカマキリを必死に避けながら先へ進む。

 そして5階。

 狼型のボスが現れた。

 FOEと同じくシンボルエンカウントであり、マップに点が表示されている。

「ボスなのにカマキリより弱いですね」

「安心するのはまだ早いわよ」

「え」


 するとマップに続々と赤い点が現れた。


「あああ!?」

「ボスに意識を取られて、周りをちゃんと見てなかったプレイヤーにトラウマを植え付けるボス戦FOEよ!」

 1ターンごとにFOEがボスに近づき、倒しても倒しても毎ターンのように乱入してくる。

 どれもカマキリより弱いとはいえ、ここまで数がそろえば対処しきれない。

 あえなくゲームオーバーになった。

「ボスに気づかれないように周りのFOEを減らしておかないといけないわけですね」


「次のボスではそんな戦法も通用しないけどね。女王アリだから無限にFOE出てくるし」


「……どうやって倒すんだよ、そんなの」

「携帯機で画面は小さいんだから、戦闘画面に表示できるモンスターのグラフィックには限りがあるでしょ」

「そういえばさっきのFOEは4匹しか乱入してきませんでしたね」

「ボスのグラフィックが大きければ乱入できるFOEの数も減るわけ」

 乱入してきたFOEはボスの横に並ぶ。

 他のRPGでは敵の種類ごとにグループ分けされ、名前の横に数字を振ってスライム1・2・3のように管理することがあるものの(戦闘画面では1匹分のグラフィックしか表示されていないが数匹いる)、このゲームでは1グラフィックにつき1匹。


 システム上、戦闘画面が敵のグラフィックで埋まっていたら、いくら周りにFOEがいても乱入できないのだ。


「乱入できる数に限りがあって、倒したら次のFOEが乱入してくるということは……。状態異常をかけて動きを封じればいいわけですね」

「正解。女王がいなくなればFOEも逃げるし」

「完全にFOEゲームだな」

「本当のFOE地獄はこれからよ」

 その言葉に嘘はなかった。

 5階を突破するとFOEがますます猛威を振るう。

 水辺でザコと戦っていると、水の中からFOEが現れて乱入してくる(しかも乱入前にザコを倒すと、FOEはすぐ水に飛び込んで逃げる)。

 1ターンに1マス以上動けるFOEもいて、遠い位置にいるからと油断しているとひどい目に合う。

 ライオンの頭にヤギの胴、蛇の尻尾を持つキメラ型FOEは特殊で、ダメージを与えると各パーツが分離し、戦闘から離脱して体力を回復、そして乱入して本体と合体したりする。

 小さなスライム型FOEがどんどん合体して巨大化するパターンもある。

 スライムが強くなりすぎないように合流を邪魔し、数を減らさなければならない。


 逆にFOEを他のFOEにぶつけて縄張り争いさせたり、突進を避わして壁に穴を開けたりもできる。


 FOEも罠にかかるのでそれを利用してもいい。

 FOEが不自然な動きをすればそこに罠がある証拠だし、踏んでくれればダメージを与えられる上に罠もなくなるので一石二鳥。

 青FOEのエルフや冒険者も助けなければならない。

 協力してFOEと戦うこともできるし、好感度が下がってもいいなら彼らを囮にすることもできる。

 特定の敵をシンボルエンカウントにするだけで、ここまで戦闘の幅が広がるのは面白い。

「メモしていないと対応できませんね」

 FOEの配置や巡回ルートもマップに記入していく。


「あー、また落ちてしまいました!?」


 しかし敵が強い上に罠が多い。

 FOEに罠を踏ませるにも限界がある。

 どうしても自分の足で確かめないといけない。

「落とし穴には法則性がありそうなんですが……」

 先生がマップとにらめっこする。


「? これはもしかして右手の法則?」


「迷路の解き方のあれですか?」

「はい。右手、もしくは左手を壁につけた状態で進めばいつか出口にたどり着けます。出口が壁にない場合や、迷路の中に出口がある場合は通用しませんが……。どうもこの階、右側に落とし穴がないような感じがします」

「『竜の探索2』のアンダルキロの洞窟が似たような構造してたわね」

 迷宮は随所にレトロゲームへのオマージュが感じられる。

 同じ構造のフロアを作ったとしても不思議はない。

 意を決して先生が左手を壁につけて先へ進んでいく。

 予想通り落とし穴はなく、無事階段へ到達した。

「こういう仕掛けに気づけるのは楽しいですね」

 だが迷宮はまだまだ続く。

 次の階はダメージゾーンやダークゾーン(真っ暗で周りが見えない地帯)が多かった。


 ダメージゾーンで地味に体力が削られる上に、一本道で避けようがなく、しかもせっかく身を削りながら歩いたのに行き止まりというパターンが多かった。


 おまけにようやくたどり着いたと思ったら、

『階段は封印されている』

 解除するにはアイテムを使う必要があるのだが、マップを完成させてもそれらしきものは見つからなかった。

「このあたりでしょうか」

 すると先生がRボタンを押してカニ歩き(前を向いたまま横へ歩くこと)をし始めた。

「なにやってるんですか?」


「マップの不自然な空白からして、いくつか隠し部屋があるはずなんです。いちいち横を向いて壁を調べるより、カニ歩きした方が早いですから」


 さすがにこういうところは要領がいい。

 ほどなくして数本の隠し通路を見つけたものの、行き止まりだけでなにもない。

 ……かと思いきや、

「あ」

 何かに気づいて、突然マップのタイルの色を変えて塗りつぶし始めた。

「なにやってるんですか?」


「『塗りつぶし法』です。迷路は行き止まりの道を塗りつぶしていくと、正解のルートだけが残るんですよ?」


「いや、階段への道はわかってるじゃないですか」

「重要なのはマップの形です」

「形? あ!?」

 マップを塗りつぶすと、見覚えのある絵が浮き上がった。

 エルフの紋章だ。

「よく自力で解けたわね」

「ダメージゾーンやダークゾーン、隠し通路はタイルの色を変えますから。プレイヤーは気づかない内に塗りつぶし法をやらされていたわけですね」

 エルフの長老から紋章を受け取り、封印を解いて最下層へ到達。

 そこで待っていたのは魔界からモンスターを召喚し、古代文明を築いたというダークエルフの王。


『あなたは死にました』


「あああ!?」

 ラスボスらしくとてつもなく強い。

 突破口があるとすれば、

「……ラスボスなのにFOEなんですね」

「そこが重要なのよ」

 逃げ回りながらダークエルフを倒す手段を探す。


『助太刀いたす!』


「お」

 味方である青FOEと接触すると、戦闘で援護してくれるようになった。

 今までなかった乱入パターンだ。

 乱入というより合流か。

 どんどん主人公たちと合流し、青FOEがダークエルフを攻撃した。


 これまでさんざん苦しめられてきたFOEが味方として協力してくれるのがいい。


 ラストバトルでありながら事実上のイベントバトルで、負ける要素がない。

 最終的に主人公パーティと青FOEが一斉に必殺技を放ち、


『999999999999!』


「おおう!?」

 シューティングゲームのハイスコア並みのダメージを叩き出してダークエルフを撃破した。

 今まで登場したキャラが勢ぞろいしてラスボスを倒すのは王道だが、ここまでシンプルに劇的に倒す展開もなかなかない。

 そして待望のエンディング。

「難易度こそ高めでしたが、いいゲームでしたね」

「でしょ?」

「すべてのマップを埋められなかったのは心残りですが」

 さすがゲームブック愛好家。

 意地でも地図を完成させないと満足できないらしい。

 スタッフロールが終わると、ダークエルフの祭壇から巨大な穴が見つかった。


『君たちの冒険はまだ終わらないようだ』


 ← to be continued


 続編を匂わせる演出で終わった。


「ちなみに続編は発売されてるけど、舞台はこの迷宮じゃないわよ」


 ……ひどいサギを見た。


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