太鼓ゲームセット【ブルーチーズとダージリン】
参考ゲーム
太鼓の達人
「ん、サイズきついな」
「なんで学ラン着てるの? コスプレ?」
「誰がコスプレなんてするか。体育祭で応援団やることになったんだよ」
「あー、それで学ランなのね。第2ボタンちょうだい」
「……借り物なんだぞ」
「うちの制服ってブレザーでしょ。だから体育祭の時にもらうのが伝統なんだって」
「そういやそんな伝統あったな。予備のボタンつけとけよ」
「はーい」
ボタンを渡す。
正直、第二ボタンなんかもらって何が嬉しいのかわからない。
心臓に近い位置にあるからというが、うちの中学の学ランは胸ポケットに校章のワッペンがあった。
どう考えても第二ボタンよりワッペンの方が心臓に近いのに、やはり卒業式にもらうのは第二ボタンで違和感を感じたものだ。
「太鼓の名人あるか?」
「あるけど……。太鼓担当なの?」
「ああ」
応援団の太鼓とは勝手が違うだろうが、やらないよりはマシだ。
「どのバチにする?」
「……バチだけでいくつ持ってんだ」
「MYバチは必須品よ! ゲーセンのは汚れてる上に重いのよね」
「重いとだめなのか?」
「難易度高くなるとついていけないわよ。重いと振りが遅れるでしょ。それに疲れやすいし」
「なら軽いやつでやろう」
適当に曲を選び、プレイ開始。
ルールそのものはシンプルだ。
赤い音符なら太鼓の面を、青ならフチを叩く。
大きな音符・大音符は両手で叩く。
横に伸びている音符は連打。
それぐらいだ。
「なんで大音符、両手で叩いてるの?」
「は? これ両手で叩くやつだろ」
「それは強く叩く音符。そもそも両手で叩いてたら次の動作が遅れるでしょ。高難度だと対応できないわよ」
「……知らなかった」
周りも両手で叩いていたのでずっと勘違いしていた。
両手で叩いていたのは確実に強く叩くためだったらしい。
「こうか?」
片手で強く大音符を叩くと確かに『良』が出た。
片手が空くので次の音符にも対応しやすい。
慣れてきたので難易度を上げる。
「おおう!?」
怒涛の音符ラッシュ。
しかも難しい曲を選択してしまったらしく、まったくついていけない。
右手で赤、左手で青を叩くように役割分担しているのも問題だ。
やはり両手で交互に叩かないと振り遅れる。
右・左・右もしくは左・右・左で確実に叩けるようにしておいた方がいい。
それと連打の音符。
あんまり叩きすぎるのもよくない。
連打することに集中しているとリズムが乱れ、次の音符への反応も遅れる。
ハイスコアを狙うのならともかく、ただ曲をクリアするだけなら連打する必要はない。
疲れるだけだ。
「お、ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』があるな。『パリのアメリカ人』と『魅惑のリズム』と『ヘ調の協奏曲』まである」
「ガーシュインってそんなに有名だっけ? 教科書でも見た覚えないんだけど」
「ジャズマニアにとっては有名だ。オーケストラとジャズを融合させた、いわゆる『シンフォニック・ジャズ』の第一人者だからな」
「クラシックにもジャズってあったんだ」
「スウィングジャズのビッグバンドは吹奏楽の編成に近いからな。ジャズ風のクラシックがあってもおかしくはない。むしろもっと普及するべきだ」
せっかくなのでラプソディ・イン・ブルーをプレイしてみる。
「あ、この曲がラプソディ・イン・ブルーだったんだ。『ノーダメージ・カンタービレ』でマングースが紋付き袴のオーケストラと共演してたやつね」
「……なんだ、そのカオスなシチュエーションは」
「作中でも人気のあるシーンなのよ。個人的なおススメはドラマ版ね。アニメ版よりダイナミックで面白いんだから」
今度チェックしてみよう。
「『アイ・ガット・リズム』はないのか……」
「名曲なの?」
「ああ。それにこの曲を知ってれば、チャーリー・クリスチャンの『ダウン・オン・テディズ・ヒル』と『ガイズ・ガット・トゥ・ゴー』も楽しめる。2曲ともアイ・ガット・リズムを元にした曲だからな」
「へー」
ちなみにガーシュインはサマータイム、ストライク・アップ・ザ・バンド、オー・レディ・ビー・グッド、サムバディ・ラブズ・ミー、ザ・マン・アイ・ラブもオススメだ。
他にもジャズでは『聖者の行進』や『アメリカンパトロール』があった。
アニメの『アルセーヌ3世』や『カウガール・ビバップ』のテーマソングも悪くない。
ジャズファンも満足できるラインナップだ。
「……ちょっと疲れてきたな。休憩がてら一服しよう。なにがいい?」
「今日のおススメは?」
「ブルーチーズがあるぞ」
「うえ、ブルーチーズってあの臭いやつでしょ?」
「だからいいんだよ」
食べやすいようにバターを塗ったパンにブルーチーズとクリームチーズ、それにレタスときゅうりを挟んだ。
「んー!? やっぱり臭い!」
「そこで紅茶だ」
「……あれ? なんか美味しいかも」
「だろ?」
ブルーチーズの強烈な後味を紅茶が洗い流す。
むしろチーズが強烈であるほど、そのあとのさっぱり感が際立つカラクリだ。
茶葉はダージリンのオータムナル。
アッサムやウバ、キーマンでもいい。
ただミルクティーでないとこんなにさっぱりしないので注意が必要だ。
「さて……」
疲れもとれたので太鼓の練習のために難易度を上げる。
譜面が津波のように押し寄せた。
「ぐ……!」
怒涛の音符ラッシュについていけない。
何度挑戦してもクリアできなかった。
「高難度の譜面を攻略するコツはないのか?」
「ボタンを押すことね」
「は?」
「専用コントローラーのあるゲームも、突き詰めるとパッドでプレイしたほうがいいのよ」
「なんのための太鼓だ!」




