ミニゲームセット【マーラーカオと白鶏冠】
参考ゲーム
ワギャンランド
「なんだこのぬいぐるみ」
「『メギャンランド』のメギャンよ」
恐竜っぽい生物が主人公の横スクロールアクションらしい。
「基本はアクションなんだけど、ボス戦がちょっと変わってるの」
「どういう風に?」
「やってみた方が早いわよ」
カセットをレトロゲーム機にセットしてスイッチオン。
敵に当たると即死するレトロゲームらしいシビアさだ。
『ワッ』
メギャンは口から音波を飛ばすことができる。
アニメのように『ワッ』のカタカナを飛ばして、敵の動きを止めるのだ。
停止中ならメギャンは敵に当たっても死なず、上に乗ることもできる。
パワーアップアイテムを取ると『ギャ』『ガー』『ギャー』と叫び声が変化した。
もちろん敵の停止時間も長くなる。
パワーアップアイテムを4つ取ると無敵状態になり、移動スピードも速くなった。
ただ無敵時間が終わるとパワーアップの効果が切れ、叫び声も『ワッ』に戻る。
なお音波の力は意外にすごく、空中にいる敵も停止させることができた。
ステージによっては空中の敵を足場にしないと越えられない場所もあるのだろう。
重要なのは音波の効果時間。
そしてどこで4つ目のパワーアップアイテムを取って無敵になるかだ。
「お、ボスか」
ステージの最奥に到達するとボスがぴょんぴょんと登場した。
さて、どんな戦いなのかと期待していると、
『神経衰弱で勝負だ!』
「は?」
「ミニゲームで対決するのよ」
「……何でアクションでミニゲームなんだよ」
意外な展開にあっけにとられていると、画面がパネルで埋まった。
パネルには動物や道具などが描かれている。
トランプではなくパネルを選んで神経衰弱をするらしい。
適当にパネルを選んでいる内に法則に気付いた。
左右対称に並んでいる。
「簡単すぎるだろ」
「相手も法則に気づくのよ。その時は地獄だから」
どちらが先に法則に気づくかの勝負だ。
最悪一枚も取れずに負けることもあるという。
「難易度が高くなると法則は複雑になるし、ルールも変わるのよ」
「へえ」
まだ序盤なので法則も簡単だ。
『ぱ、パーフェクトだと? め、メギャンおそるべし!』
パネルを全部開いて完勝。
『セブンアップ!』
「セブン?」
スコアが7倍になるのかと思いきや、
「おおう!?」
残機が7増えた。
ボーナスで1機や2機増えるのは珍しくないが、7機は初めてだ。
予想外の収穫に喜ぶものの、7も増えることで一抹の不安を覚える。
……序盤の内に7機以上増やしておかないと、中盤から後半が辛いということではなかろうか?
「ふふ」
瑞穂が意味ありげに笑った。
間違いない、これは後半地獄になる。
『数字探しで勝負だ!』
次のボス戦では画面が文字のパネルで埋まった。
数字は1から20までランダムに配置されている。
指定された数字のパネルへ、相手より早くカーソルを動かしてボタンを押せれば1ポイント。
ようするに数字でやるカルタだ。
これも1・2・3・4・5……と順番通りに数字が読まれるので楽勝。
ただカーソルの位置=手の位置なので、次に読まれる数字によっては不利になる。
たとえば1を取ることができても、相手のカーソルが次の数字である2のすぐそばにあれば取り負けてしまうわけだ。
わざと1を取るタイミングを遅らせて相手のカーソルを1に近づけ(2から遠ざけ)、カーソルの位置を操作するのも重要なテクニックなのだろう。
『セブンアップ!』
数字探しでもパーフェクトで順調に残機を増やし、豊富な残機でごり押ししてアクションパートも突破していく。
ミニゲームの難易度もどんどん上がっていった。
神経衰弱はパネルの法則性が読みにくくなり、しかも絵柄によって取れる枚数が変わった。
たとえばニンジンのパネルなら2枚で取れるが、サンマだと3枚という感じで、頭文字の数字だけパネルをめくらないといけない。
普通の神経衰弱なら絵柄をそろえたら続けてプレイできるものの、この神経衰弱ではそろえても続けてプレイすることができない。
枚数の少ない絵柄をそろえてから枚数の多い絵柄にチャレンジすることができないわけで、安全に2枚取るか、冒険して5枚取りに行くかという駆け引きもある。
もちろん横スクロールアクションの難易度も上がっており、あっという間にセブンアップの残機を使い切ってしまう。
このゲームにはパスワードがあるのが救いか。
それをメモっておけばクリアしたステージから再開することができる。
……この場合、残機は2だが。
パスワードによる心許ない残機で次のステージに挑む。
『しりとりで勝負だ!』
「しりとり?」
「これが一番人気のゲームなんだから」
「しりとりがか?」
いったいどんなしりとりなのか。
ドキドキしていると画面にパネルが広がる。
神経衰弱と同じ種類のパネルで、どうやら文字の代わりに絵を選んでしりとりをするらしい。
名前のわかりにくいパネルがあるものの、
『りんご』
『ゴリラ』
『ラッパ』
最初は普通のしりとりだった。
しかし、
『マウス』
「は?」
ボスがネズミのパネルを指してそう答えてきた。
「裏読みよ。パネルの読み方は1つだけじゃないの」
「……なるほど、名物ってのはこういうことか」
犬がドッグ、靴がスニーカー。
慣れないとかなり戸惑う。
自分がこう答えたら相手はこれを選ぶだろうから、次はこれにしようと計画的に進めているところで裏読みをされるときつい。
『俺の勝ちだな。命はもらうぞ!』
『ギャー』
残機が1つ減る。
それにしてもミニゲームで命をもらうとは物騒な。
どこの闇のゲームだ。
だがルールや読み方こそぶっ飛んでいるものの、しりとりが面白いことは否定できない。
アナログゲームとして発売しても違和感のないレベルだ。
人気があるのもうなずける。
「今日のおやつなに?」
「マーラーカオだ」
「ま、まーらー?」
「これだ」
「蒸しパンじゃない」
「裏読みすんな」
たしかに材料も作り方も蒸しパンと同じだが、こういうのは雰囲気が大切なのだ。
ちなみにレーズンの蒸しパ……マーラーカオである。
「お茶は白鶏冠、武夷四大岩茶だ」
「つよそう」
香りが特徴的な青茶の中でも特に淡く繊細だ。
『仙人のお茶』とも称される。
「甘い香りがする。飲むとなんか落ち着く感じ……」
「リラックス効果のある健康茶だからな」
蒸したてほかほかのマーラーカオに合わせると、一日の疲れもどこかへ吹き飛ぶ。
『ごんぎつねだ!』
「……これはひどい」
ゲームが進むとしりとりもレベルが上がっていく。
狐がごんぎつねになるのもひどいし、ノルマもきつい。
ミニゲームにはそれぞれノルマが設けられており、それを超えればクリアになるのだが……。
ミニゲームの勝敗とノルマは別なのである。
たとえばしりとりだと正解数がノルマなので、定められた回数だけしりとりを続けることができれば、しりとりそのものに負けても通してもらえることがある(特定のボスは勝たないと通してくれない)。
しりとりで裏読みを活用すると、残ったパネルでは敵が答えられない状況が出てくる。
これで相手を負かしても、ノルマを達成していなければクリアにならないのだ。
敵が負けを認めないので、またミニゲームをやり直すことになる。
相手がしりとりに対してどう答えるか、この答えを相手は繋げることができるのか。
ちゃんと考えてパネルを選ばないとノルマは達成できない。
単純ながら練りこまれたゲームシステムだ。
そして難易度が上がると、ボスが裏読みを多用してくる。
『ぼんさいだ!』
「松だよ!」
裏読みに翻弄されて負けてしまう。
ともかく再チャレンジ。
だがやればやるほどひどい裏読みが出てきた。
コーヒーが『キリマンジャロ』、家が『ひらやいっこだて』、タヌキが『しがらきやき(タヌキの置物で有名な陶器)』、ロケットが『うちゅうりょこう』。
……もうわけがわからない。
「くそ、また負けた!」
『う』に該当するものがないので、ヤケクソ気味に灯台をタッチする。
『う、うみのみちしるべだと!?』
「は?」
ラスボスが勝手に裏読みしてくれた。
予想外の展開でノルマ達成。
『メ、メギャンおそるべし』
「……おそろしいのはお前の頭だよ」




