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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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フライトシミュレーションセット【角煮マンとコーラ】

参考ゲーム

エースコンバット

「……うー、気持ち悪い」


 帰宅すると瑞穂がテレビの前で伸びていた。

「だいたい想像はつくが、一応体調不良の原因を聞いておこうか」

「……3D酔い」

「自業自得だ」

 ゲームをしていた形跡があったので、そんなことだろうとは思っていた。

 心配して損……いや、心配しなくて得した。

「なんのゲームで酔ったんだ?」


「……『アースコンバット04』。3Dのシューティングゲームよ。パイロット視点で敵を撃ち落とすやつ」


「あー、空中戦ドッグファイトは辛いな」

「でしょ? 最新鋭戦闘機ラプターでちょっと曲芸飛行サーカスしただけでこのざまよ」

「本職でも酔うわ!」

 こいつのことだから難易度もハードで、機体を回転させまくっていたのだろう。

 空中戦で360度ぐりぐり視点移動していたら気持ち悪くもなる。


「実在の機体も登場するんだな」


「舞台は架空の世界だけどね。……やってみる?」

「おやつを仕込んでからな」

 フライパンを温め、豚バラのブロックを適当に焼く。

 無駄な脂をふき取ってからゆで卵や大根、長ネギと一緒に鍋へ投入。

「こいつの出番だな」


プシュッ


 コーラのペットボトルを開ける。

「え、なにそれ」

「コーラの角煮だ。調味料で味は調えてあるし、結構美味いぞ」

「へー」

 あとはじっくり煮込めば完成だ。

「これでよし、と」

 テレビの前に腰を下ろし、説明書を読んでいると瑞穂が這いよって俺の膝に頭を乗せてきた。

 猫を乗せてプレイすることもままあるので、いつもの習慣で頭をなでる。

「んふふ」

 猫もこいつも黙っていれば可愛い。

「角煮まだー?」

 ……黙ることができればの話だが。

「1時間待て」

「はーい」

 基本操作は覚えたのでスイッチを入れ、OPムービーを眺めてだいたいの世界観をつかむ。

 最初のステージはなかばチュートリアルのようなもので相手の機体も弱い。

 問題はやたら情報量が多いことだ。

 乱れ飛ぶ敵味方の航空機、ロックオンサイト、地形、高度、速度、機体の角度、レーダー、残弾、燃料、機体損傷度。


 そして字幕。


 なぜかセリフは全て英語なのだ。

 しかも字幕が小さく、背景の色とも混じりあってかなり読みにくい。

 敵と戦いながら全てをチェックするのは至難の業だ。

 接敵エンゲージすると高度計や周囲の状況を見る余裕がなくなってしまい、


ドカーン


「……」

 山にぶつかった。

「クリアするまでに何回地面とキスすることになるのかしら」

「うるさい!」

 高度と山にさえ気を付ければ序盤のミッションだ。

 適当にロックオンしてミサイルを撃てば落とせる。


ピピッ


「げ、ロックオンされた!?」

 レーダー警戒装置が敵の電波をとらえ、モニターに警告(Warning)の赤字が表示された。

 うろたえている間にミサイルを撃たれる。

「旋回して!」

「せ、旋回は……うわあ!?」

 操作を焦って曲がりきれず被弾。

 コントローラーのスティックを横に入れても機体は横に倒れるだけで進路は変わらない。

 旋回するには横に倒した後、スティックを引かなければならないのだ。

 スティックを引けば機首が上がり、機体は倒している方向へ旋回する。

 単純な操作ではあるが、ミサイルに追われている状況で、普通のゲームではあまりやらない操作だとどうしても手間取ってしまう。

 しかも、

「げ、もう一発きた!?」

「左斜め下に入れて!」

「こ、こうか!?」

 すると機体が横を向きながら上昇、頂点で背面飛行になり、半円を描きながら水平飛行に戻る。


「おお、バレルロール!」


「タイミングにもよるけど、これで大抵のミサイルは振りきれるわよ」

「簡単だな」

 バレルはタル。

 バレルロールとは、タルの中を車で走るように機体をロールさせる螺旋飛行である。

「背後を取られたらどうすればいいんだ?」


「序盤は減速とループが効果的ね。スピードを落とせば相手はこっちを追い越してくれるから。ループでも相手の背後を取れるわよ」


「なるほど」



←自

  ←敵


※敵に背後を取られた状況



  ←自

←敵


※減速すると敵がこちらを追い越す(オーバーシュート)



 →→→→↓

 ↑   ↓

 ↑←自 ↓

     ↓

  敵←←←


※宙返りし、自分の背後にいる敵の後ろを取る(ループ)



「まあ、これが通用するのは序盤だけなんだけど……。基本はやっぱり急旋回よ。追うのも逃げるのも、これができないと始まらないし」

「……だよな」

 何度か急旋回して操作に慣れ、ステージ2と3をクリア。

 ステージ3までは簡単だったものの、ステージ4になると上手くロックオンできなくなった。

 ロックオンしてもすぐ視界の外に逃げられ、ロックオンが外されてしまう。

 たとえミサイルを撃つことができても、避けられたらそのまま逃げられる。

 旋回しても追いきれない。

「なんでだ?」


「加速ばっかりしてるからでしょ。ロックオンするまでは加速、ロックオンしたら減速。これが初級者向けの戦法よ」


「……そうか。加速すればするほど、旋回する時に遠心力が働いて外に膨らんでしまうんだな。逃げる相手を追いかけるなら減速した方がいいのか」

「そういうこと」

 ロックオンしているのだから、それ以上敵機に近づく必要はない。

 減速すればするほど旋回半径は小さくなり、素早く方向転換して敵をロックオンサイトに入れることができる。

 ただ加速、減速、加速と機動するのは非常に効率が悪い。


「たしか高度は速度に、速度は高度にエネルギーを置き換えられるんだよな?」


「わかってるじゃない」

「知識はあってもゲームでそれを活かすのは難しいんだよ」

 高度を上げれば速度は下がる。

 高度を下げれば速度は上がる。

「つまりこういうことだな!」

 逃げる敵を追いかける。

 ブレーキはかけない。

 まず高度を上げて減速し、急旋回。


 その後に下降して加速すれば、無駄なく敵を追うことができる。


「『ハイスピード・ヨーヨー』ね」

 自機が敵機よりも遅い場合、下降して加速。

 距離を詰めてから上昇して減速し、急旋回。

「これが『ロースピード・ヨーヨー』だよな?」

「エクセレント!」

「あとはこれか!」

 敵機とすれ違い、後ろに逃げられる。

 すかさず『縦にUターン』した。

 高度を上げて減速しながら急旋回。

 縦に旋回すると機体の天地は逆さまになるので、旋回後は機体を元に戻し、下降して加速しながら相手を追跡。

 ロックオンして撃破する。


 いわゆる『インメルマンターン』だ。


 敵機が遅くて自機がオーバーシュートしてしまった場合、インメルマンを決めれば攻撃できる。

 同じコースを往復するので、地上物を破壊する場合も行きと帰りで二回攻撃できる便利な技だ。

 ただしドッグファイトでインメルマンをする時は、自機が敵機よりも速い場合に限る。

 逆に敵機が自機よりも速い場合は『スプリットS』。


 インメルマンとは逆に下降しながらUターンして、加速しながら敵を追いかける。


「慣れてくると忙しいな」

 ロックオンしてミサイルを発射しても、ミサイルが着弾するまではその相手をロックオンしたままだ。

 ロックオンサイト内にいる別の敵を狙う場合、ミサイルを発射した後ボタンを押してロックオン対象を切り替えないといけない。

 ロックオンした敵機が速くて、すぐにロックオンを外されてしまいそうな場合も素早くロックオン対象を切り替えた方がいい。

 ロックオン対象が一ヶ所に固まっている地上物を狙う場合は特に忙しい。

 ミサイル発射、切り替え、発射、切り替え、発射、切り替え……。

 広範囲を攻撃できる投下型爆弾を持ってくれば良かった。


「よし、ノルマ達成! ……したのに終わらないのか」


「まだ時間残ってるでしょ」

 制限時間内に一定のポイントを稼ぐミッションでは、ノルマを達成しても終わらない。

 たとえば制限時間が10分で、5分でノルマを達成しても、あと5分プレイし続けないといけないのだ。

「しかも10分経ったら敵の援軍が来るし」

「マジか。これで援軍にやられたらどうなるんだ?」

「もちろん最初からやりなおしよ。慣れれば慣れるほどノルマを達成する時間も短くなるから、待たされる時間も長くなるわけ。04はそういうところが面倒なのよね。おまけに空中戦より地上物破壊ミッションの方が多いし。……続編ではそういうところ直ってるらしいんだけど」

「なんで続編を買わなかったんだ?」


「こっちの方が古いから安くて、ゲーマーにも評価高いのよ。制限時間内にどれだけポイントを稼げるかっていう、スコアアタック要素が熱いし。ハードモードだと燃料・弾薬・修理費は自腹で、むしろスコアを稼げないと詰んじゃうから」


「……ライトゲーマーには辛いな」

 なんとか援軍を撃破したものの、ノルマがきつくてグッタリする。

「一服しよう」

「やった!」

 体力回復のために角煮をいただく。

「ん、ホロホロ」

 箸を入れれば簡単にほぐれる。

 そのまま食べても美味いのだが、単品で食べるのはちょっと物足りない。

 冷凍保存していた饅頭マントウを蒸し、角煮まんにして食うのがベストだ。

 むっちりした饅頭に、トロトロの角煮、辛子が味をピリッと引き締め、煮玉子の黄身が濃厚な豚の旨味をマイルドにする。

 大根にも味が染みていた。

 普通の手順で作ったものと大差ない出来栄えだ。


「ほれ、コーラだ」


「……中華まんにコーラの組み合わせってどうなの?」

「中途半端に残ったんだから仕方ないだろ」

 ベースはコーラなので合わないこともない。

 気を取り直してゲーム再開だ。

 順調にステージをクリアしていくと、地球を飛び出して『小惑星基地』へ進む。


『敵増援を確認! ただちに……うわあ!?』


 味方の機体が次々と撃破されていき、通信が途絶える。

 そして敵の猛攻にさらされ、自機が被弾するとSEも消えた。

「ん? 通信はともかく、なんで効果音まで消えるんだ?」

「宇宙空間なんだから、もともと音なんてないでしょ」

「じゃあ何でさっきまで音がしてたんだよ」


「機械で合成された音だからよ。機体が損傷したから音が途切れたの。それがこの作品のテーマに繋がってるんだから」


「?」

 わけのわからないまま、とにかく敵を撃破して先へ進む。

 音もなく敵機が爆発する。

 それは味方も同じだ。

 さっきまではSEが鳴り響き、通信によって悲鳴も聞こえていた。

 だが今はパッと光ったと思ったら味方が死んでいる。

 目視できない場所でも味方がどんどん死んでいった。

「……これはきついな」

 仲間が爆発する光さえ見えず、レーダーで淡々と生命反応が消えていく。

 それがとてつもなく恐ろしい。

 わざわざ機械でSEを合成していた理由がよくわかる。

 音もなく仲間が死んでいく現実に、人間の精神は耐えられないのだ。


ブワッ


「え」

 そしてとうとう視界が闇に閉ざされ、何も見えなくなってしまった。

「なんだこれ!? どうすりゃいいんだ!?」

「落ち着いて、敵の煙幕よ。計器は生きてるから。レーダーを参考にすれば見えなくても敵の位置はわかるでしょ」

「……目隠し飛行かよ」

 航空機のパイロットが視界を塞ぎ、計器だけを頼りに飛ぶ訓練をすることは実際にある。

 だがシューティングゲームでこのシチュエーションが出てくるとは予想外だった。

 視界が真っ暗で戸惑ったものの、考えてみればずっとレーダーを見ながらプレイしてきたのだ。

 さっきまでと同じ感覚でプレイすればいい。

 地球ステージに比べれば楽だ。


 宇宙空間なので障害物が少なく、衝突や墜落する心配がほとんどない。


 敵の熱源を探知してロックオンすれば、あとはミサイルが追尾してくれる。

 目が見えなくても問題ない。

 冷静になればわりと対応できる。

 落ち着いて見えざる敵を撃破した。

「なかなか面白い演出だったな」

「でしょ?」

 次のステージからは壮大なオーケストラが流れ、SEが戦闘を盛り上げた。

 しかもこのゲームでは敵・味方の無線が入り乱れている。


『モビウス1が来た! これで勝てる!』


『ちくしょう、モビウス1だ! ザコにかまうな、やつを最優先で撃ち落とせ!』


『モビウス1が来ていると言っておけ、ウソでもいい!』


 主人公が現れるたびに味方からは歓声が上がって、敵は死神が来たと恐怖する。

 エースの気分が味わえて気持ちいい。

 そして仲間は主人公を援護し、時に身を挺してかばい、


『引き裂かれた宇宙そらを取り戻してくれ』


 かっこいいセリフを残して劇的に死ぬ。

 まるで映画のようだ。

 しかしかっこよすぎて違和感を抱く。


「……もしかしてこの無線も機械的に合成された音じゃないだろうな?」


「気づいてしまったわね」

「……マジかよ」

「無線で味方の悲鳴ばっかり聞こえてきたら病むでしょ。士気を上げるために主人公を英雄に仕立て上げてるのよ」

 フライトシミュレーションにしては作りこまれたシナリオだ。

 ステージが進むごとに演出は派手になり、そしてラストステージ。

 通信は敵の妨害によって途絶、SEも途切れた。

 さっきのイベントの再現かと思いきや、視界は開けていた。

 周りに味方もいる。

 声も音も聞こえないが、一人でないのは心強い。


『ダダダダダ!』『チュドーン!』


 主人公が子供のように自分で効果音を流し、鼻歌を口ずさむ。

 無音を切り裂く最もシンプルな手段だ。

 いやがおうにも盛り上がる。

 しかし度重なる死闘で機体が損傷してしまった。

「ぐ、敵がいないのに攻撃された!? レーダーまで故障か!」


「故障じゃないわ。これがラスボス、最新鋭ステルス戦闘機『ステスロス』よ。ステルス機能でレーダーに映らないから、肉眼で機体をとらえないといけないの」


「くそ、ステルス機のくせに速くて小回りも利くだと? 格闘性能が高すぎる。レーダーが使えても強敵なのに、肉眼だけでこんな奴どうやって倒すんだ!?」

「見えたら撃つ。それだけよ」

「できるか!」

 視界でとらえられたとしても一瞬だ。

 敵機を追えなければ、ショットを当てることはできない。

 しかも速く撃たなければ逆に攻撃を食らってしまう。

「裏技使う?」

「どんな技だ?」


「味方をおとりにする。3Dシューティングの定跡ね」


「……嫌な定跡だな」

 だが手段を選んでいる場合ではない。

 僚機りょうきから離れ、見守ることしばし。

「よし、見つけた!」

「あ、バカ!」

「は?」


ドンッ


「げ」

 ステルス機に気を取られすぎて、他の敵機に撃ち込まれた。

 慌てて回避しようとするものの、あえなく撃墜される。


GAME OVER


 ……見えない敵を目視していながら、見えているはずの敵が視界に入っていなかった。


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