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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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アンチゲームセット【レモンパイとマロウブルー】

参考ゲーム

ひぐらしのなく頃に

『正解率10%』


 ゲームの帯にはデカデカとそう書かれていた。

「微妙な確率だな」

「正解率99%の推理小説もあるらしいわよ」

「……洗剤かよ」

 除菌率99.9%の洗剤でも除菌できない0.1%や、正解できなかった1%の読者が気になる。

「パッケージがなんかおかしくないか?」


 タイトルは『名探偵・小南こなみ』。


 日本を代表する推理漫画のゲームらしい。

 小南は謎の犯罪組織『ブラックソサエティ』の構成員に毒薬を飲まされ、奇跡的に助かったものの、副作用によって体が幼児退行してしまった高校生探偵である。

 組織は若返りの副作用があることを知らないらしく、小南は自分が生きていることを知られたらまた命を狙われるので、偽名を名乗って小学生として暮らすことになる。

 漫画の絵柄はコミカルなのだが、このパッケージに描かれている小南は妙に顔が濃い。

 作者が描いたとは思えない。

「小南の同人ゲームなの」

「同人? アマチュアが作ったってことか?」

「そうよ。これは二次創作の同人ゲームね」

「小南の出版社に許可とってるのか、これ?」

「無許可に決まってるじゃない」

「……勝手にキャラや設定を使って問題はないのか?」


「法律的にはアウトよ。でも同人はもう一大文化に成長してるから黙認されてるのが現状ね。少年漫画は青年漫画に比べて規制が厳しいんだけど、18禁じゃなければだいたい大丈夫」


「ふうん」

 二次創作によるイメージの低下や、金銭トラブルがありそうなものの、黙認するからには企業側にもメリットがあるのだろう。

 原作は90巻を超えたので完結待ちだったが、正解率10%といわれると解いてみたくなる。

 アマチュアが作ったゲームなので家庭用ゲーム機には対応しておらず、パソコンにインストールする。

 容量は1ギガもない。

 かなりコンパクトだ。

 音楽はチープで、背景もあっさりしている。

 おそらくフリー素材だろう。

「これいくらしたんだ?」

「1000円」

「……安いな」

 いや、アマチュアのゲームとしては高いのか?


「サブタイトルにある『事件編』ってのは?」


「これは出題編なのよ。事件の真相が語られるのは次の『解決編』なの」

「変わった仕様だな」

 とりあえずゲームを進めてみる。

 舞台は政治家・田中一郎が多額の寄付をしている養護施設『ちびっこはうす』。

 ちびっこはうすでは日頃の感謝を込めて一郎の誕生日パーティーを開催していた。


『恥ずかしながら戻って参りました』


 そこへ現れたのは田中一郎に瓜二つの男。

 25年前に人を殺して失踪した双子の弟・二郎だった。

 時効を迎えたので戻ってきたらしい(現在は殺人事件に時効はないが、法律が改定される前の設定なのだろう)。

 そして再び起こる殺人事件。

 殺されたのは養護施設の出身者であり、今回のパーティーを主催した鈴木だった。

 現場の状況と目撃証言からして容疑者は2人。

 田中一郎と二郎だ。

 普通に考えれば二郎が犯人だが、一郎にも黒い噂があるという。

 小南に毒薬を飲ませたブラックソサエティとの関連も疑われていた。

「双子の殺人。推理小説でよくあるパターンね」


「双子の犯行は確実でも、どちらの犯行か断定できない限り裁くことは出来ないんだよな」


 これから双子のどちらか特定するために色々調査していくわけだ。

 だが調査したくとも、延々とシナリオが続く。

 プレイヤーが小南を動かす機会がなかなか訪れない。

「……いつになったら捜査できるんだ?」

「操作も捜査もできないわよ。だってこのゲーム、選択肢がないんだもん」

「は?」

「プレイヤーはマウスをクリックしてテキストを読み進めるか、セーブ&ロードしかできないの」

「じゃあ最後に犯人の名前を入力するのか? そういうゲームあったよな」

「犯人当てもないわよ」

「……これはゲームなのか?」


「プレイヤーがボタンを押すと、ゲームにそれが反映される。それがあんたのいうゲームなら、マウスをクリックしてテキストを読み進めるこれは立派なゲームじゃない。しかもこれはミステリよ。テキストを読んで犯人を推理する。これ以上のゲームがある?」


「うーん……」

 筋は通っているような気がする。

 しかし納得はできない。

「じゃあアドベンチャーゲームの名作『エヴァ・バーストエラー』はどう? 私がプレイしたのはリメイク版だけど、あのゲームにはバッドエンドがないのよね。たくさんコマンドが現れるのに、なにを選択しても主人公は死なないし、シナリオに変化はない。一本道なのよ。極端な話、目をつむってボタンを押してても、いずれ必ずクリアできるわけ。果たしてそれはゲームなのかしら?」

「……たとえ結果に変化がなくても、プレイヤーが自分の意思で行動を決めて話を進めていくのならゲームじゃないのか?」

「どこからゲームになるの? このゲームの移動シーンはテキストで処理されているわけだけど、コマンドでどこに行くか決めれるようになればゲームになるの? 行く順番が変わるだけで、シナリオにはなにも変化はないのに?」

「プレイヤーが楽しめるか否かじゃないか? 移動できる場所を決められるだけじゃほとんどのプレイヤーは楽しくないが、誰と話すか、なにを聞くか、どこを捜査するか。それを自分の意思で選択できるようになれば面白いだろ」


「プレイヤーがボタンを押すごとにテキストが進んで、キャラの立ち絵も動く。SEが鳴る。CGが表示される。紙芝居って揶揄されてるけど、見方を変えれば自分で動かせる紙芝居でしょ。ボタンを押して主人公を泣かせて、怒らせて、笑わせるのよ。ボタンを押すだけでも楽しくない? 一番シンプルなゲームの形だと思うんだけど……」


「……難しいな」

 ある意味、このゲームの真相を推理するより難しい。

 選択肢やコマンドのあるなしだけで、ここまで深くゲーム性について考えることになるとは思わなかった。

 テキストアドベンチャーのいいところは、自分の好きなタイミングでテキストを読み進めることができることだ。

 たとえばムービーシーンだとプレイヤーは操作できず、華麗なムービーを見ているだけになる。

 RPGのプロローグもそうだ。

 自動的に動くキャラを観てるだけなのが結構多く、直接動かせるようになるまでかなり時間がかかったりする。

 このゲームではそれがない。

 完全に自分のタイミングでボタンを押して、ゲームに反映された結果を楽しめる。

 選択肢こそないものの、ボタンを押すと漫画やアニメでお馴染みのキャラが、お馴染みのやり取りをするのだ。

 たしかにそれだけでも楽しい。

 しかしこれは二次創作で原作のキャラを知っているからこそだ。

 ボタンを押してキャラが動くだけではゲームとは感じられない。

 推理要素がなければこれをゲームと呼ぶプレイヤーの数はぐっと減るだろう。


「まあ、この手の議論は飽きるほどされてるんだけどね。結局はプレイヤーの受け取り方次第よ。プレイヤーがゲームだと思えばそれはゲームなの」


「そうだな」

 とりあえずプレイ中はゲームだと思うことにしよう。

 そうでなければ話が進まない。

『現場の状況は?』


『鈴木さんと格闘した跡が確認されました。信じられないことですが、犯人は鈴木さんを素手で叩きのめしてから殺害した模様です』


 被害者は空手の有段者だったらしい。

 双子もかつては空手の大会で優勝するほどの使い手だったらしいが、それも25年以上前の話。

 事件後すぐに二人の姿が確認されているものの、息は乱れていなかったという。

 50を超えた老人が、プロではないとはいえ若い有段者と正面から打ちあって息も乱さずにいられるものだろうか。

 しかも競り勝っている。

 逆に謎が深まったまま、事件を解決する糸口も見いだせず半月がすぎ、弟の二郎が再び失踪。

 それからさらに数日後。


 衆人環視の中、一郎の政敵である大臣が刺殺されてしまう。


 大臣は子供好きで、犯行当時数人の子供と遊んでいた。

 子供たちの目をかいくぐって刺殺するのは難しい。

 走り回る子供たちの間を縫って凶器を飛ばすのも現実的ではない。

 刃物はどこから現れ、どのように刺されたのか?

 なお子供たちの中には一郎の孫もいたという。

 血が濃いのか、一郎にそっくりな孫だ。

「さすがに子供が殺したってのは考えにくいな」

「でもなにも知らないってことはないでしょ」

「孫を問い詰めたいな。……でもそれができないゲームなんだよな」

「こういうところはもどかしいわね」

 最初の事件の問題もある。

 2つの事件はどのように繋がっているのか。


『to be continued →』


「げ、ここで終わりか!?」

「……推理できた?」

「これから考える。……一服して脳に糖分を補給しよう。なにがいい?」


「レモンパイ! お茶はマロウブルーね」


「味のある組み合わせだな」

「原作に出てきたものよ」

 たしかに推理ものに登場しそうなお茶ではある。

 マロウブルーは風邪や喉に効くハーブティー。

 特徴的なのはその青い色。

 これだけで目にも鮮やかなのだが、

「やっぱりマロウブルーといえばこれよね」

 レモンパイのレモンピールをつまみ、マロウブルーに投入する。

 するとマロウブルーが紫に変化した。

 その色も時間経過によって変化し、最終的にはピンクになる。

 この色が変わる特性を利用すれば、色んなトリックが出来上がるはずだ。

「さて……」

 糖分補給もしたところで推理の時間だ。


 事件は極めてシンプルで、物語の構造上、犯人は双子のどちらかにしぼられている。


 最初の殺人では双子のどちらも犯人になりうる。

 どちらが殺したのか特定しなければ逮捕は不可能。

 最も重要なのは空手家と正面から戦い、打ち勝っていること。

 しかも事件後は息も乱れていなかったという。

 不意打ちで人を殺すのなら双子のどちらでも可能だが、空手家を正面から殺すとなると話は違う。

 政治家の一郎は体を鍛える暇はあまりない。

 しかし二郎も50を超えた老人であり、つい先日まで逃亡生活をしていた。

 空手の大会で優勝していた若い頃ならともかく、政治家や逃亡犯の老人が勝てるとは思えない。

「ん?」


 若い頃なら?


「……まさか!?」

「何かひらめいた?」

「ああ。1つひらめきはしたが、反則ギリギリのトリックだぞ」

「どんなトリック?」


「小南がブラックソサエティに飲まされた毒薬だよ。一郎は組織との関連性を疑われているから、入手するのは不可能じゃない。たぶん二郎はそれを飲んで若返ったんだ」


「ええ!?」

「小南は小学1年生にまで若返ったし、時効成立まで25年なら32歳前後だろう。鍛えていれば肉体は維持できる年齢だ。若い空手家に勝つのも不可能じゃない」

 本来は完全犯罪を成立させるための毒薬なので、人を殺してしまった二郎は自殺するために服毒したか、組織が口封じのために薬を飲ませたのだろう。

 意図的に子供に戻ったわけではないはずだ。

 二郎は小南と同様に奇跡的に助かったものの子供に戻ってしまい、時効が来るまで一郎は密かにかくまっていたのだろう。

「筋は通ってるような気がするけど……。二郎は老人の姿をしてるじゃない」


「引き算の若作りメイクと違って、老け顔メイクは足し算だ。白髪に染めて、ヒゲをボーボーに生やし、シワを描き、眼鏡をかける。兄の一郎が特徴的な顔立ちをしてるのも、たぶん変装しやすくするためだ」


「なるほど」

「一郎が養護施設を運営してるってのも怪しいな。恵まれない子供たちに愛の手を差し伸べてたんじゃなく、子供になった二郎を密かに育てるために養護施設へ寄付してた可能性が高い」

「じゃあ第二の殺人はもしかして……」

「二郎がもう1回毒薬を飲んだんだろうな」

「やっぱり!」

 そして一郎の孫と入れ替わって大臣を刺殺したわけだ。

 名探偵・小南だからこそ成立するトリックである。

「滅茶苦茶なトリックね。でも考えてみればこれしか正解なさそうだから、正解率は30%ぐらいありそう」

「そうだな。……で、続きはいつだ?」

「次の冬コミで発売だから半年後ね」

「……長いな」

 それまでに内容を忘れてしまいそうだ。



 そして半年後。

「……売ってなかった」

「なんの話だ?」

「小南の解決編よ。販売中止になってた」

「中止?」


「二次創作の漫画はOKでもグッズやゲームはダメってケースがあるのよ。それでストップがかかったみたい」


「真相は藪の中か……」

 解決編がなければミステリとしても成立しない。

 そういえばミステリに『アンチミステリ』と呼ばれるジャンルがあった。

 『ドグラ・マグラ』や『黒死舘殺人事件』のように、ミステリでありながらミステリであることを否定するような作品だ。

 この作品は『アンチゲーム』なのかもしれない。

 ゲームでありながらゲームではない。


 だがプレイヤーがゲームだと思えば、それはゲームになるのだ。


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