モンスター育成ゲームセット【タルト・タタンとコロンビア】
参考ゲーム
ポケットモンスター
「パチモン買ってきたー!」
「シャドウとムーンどっちだ」
「は? 最新作なんて買えるわけないでしょ。ブラックルビィとグリーンサファイアよ」
「……小学校で流行ってたやつより古いじゃねえか」
「原点回帰よ」
グリーンサファイアを渡される。
ルビィとサファイアは同時発売されたソフトで、交換しない限り全てのパチモンを集められない。
つまり一緒にパチモンをそろえろということらしい。
『そこに3びきの パチモンが おるじゃろ?』
キド博士から最初のパチモンをもらう。
火・水・草の3つの属性の内、1つを選ぶのだ。
この最初の3匹は御三家と呼ばれ、ゲーム中で1匹しか手に入らない。
他の2匹を仲間にするには友達と交換するしかないわけだ。
「私は水にするから、あんたは火ね」
「わかった」
俺のを強奪する気満々なのがしゃくだが、特に異論もないので火パチモンを選ぶ。
まずは野生のパチモンを集めるべきだろう。
1人のトレーナーが引きつれることができるのは6匹まで。
戦いは基本1対1。
たまに2対2のダブルバトルもあるらしい。
トレーナーとのバトルは手持ちパチモンの勝ち抜き戦で、相手のパチモンを全滅させたら勝ちになる。
6匹ちゃんとそろえておいた方がいい。
「ん、パチモンが出んな」
「基本的に草むらかダンジョンでしか野生のパチモンは出てこないわよ」
「……アニメじゃその辺ごろごろしてただろ」
「子供向けのゲームだから遭遇しにくくしてるんでしょ」
「なるほど」
子供への配慮も大変らしい。
とりあえず草むらをうろうろし、パチモンボールを投げる。
するとボールが光ってパチモンが吸い込まれた。
HPが赤くなるまでダメージを与えるのが基本。
パチモンのHPを減らせば減らすほど捕獲しやすくなる。
パチモンの属性によってボールの種類を使い分けたり、『ねむり』や『こおり』の状態異常にしてもいい。
「ねむりより『まひ』の方が捕獲しやすいような気がするんだが……」
「このゲームでは眠ってる状態で攻撃を食らっても目が覚めないのよ。麻痺は『一定の確率で体がしびれて行動できない』っていう状態異常だから、麻痺より眠りの方が恐いの」
「……そのまま永遠の眠りに誘われそうだな」
「現に誘われてるわよ。『キヌガッサ』に命中率100%の『毒キノコの胞子』を使わせて『ガッツパンチ』で殴るのが定番らしいし」
「そのガッツパンチっていうのは強いのか?」
「パチモンは基本1対1だから先手を取るのが重要なゲームでしょ。ガッツパンチは絶対に後手になる上に、攻撃を食らったら『ひるんで』技を出せなくなるっていうリスクがあるから、攻撃力が高く設定されてるのよ」
「眠らせてるから後手もひるみも関係ないわけか」
確かにガッツパンチの発動条件は厳しいが、毒キノコの胞子は必中なのだから、素早さで上回っていればほぼ勝利確定の恐ろしいコンボだ。
『おい バトルしろよ』
「ぐ、またか!」
次の町へ移動しようとすると、トレーナーにパチモンバトルを挑まれる。
目が合ったら問答無用でパチモンバトルに突入だ。
『虎が如く』もチンピラやヤクザに喧嘩を売られるゲームだったが、虎が如くなみにバトルを挑まれる頻度が高い。
新人であろうとベテランであろうとお構いなしに勝負を吹っかけてくる恐ろしい世界だ。
草むらやダンジョンに行かなければ野生のパチモンに出会えないということは、そこを避ければ戦わなくていいということ。
しかしそれではレベルが上がらない。
低レベルではボスに勝てず、ストーリーが進まないので随所にトレーナーを配置しているのだろう。
ただトレーナーにからまれての強制戦闘はストレスが溜まる。
『アイテムが落ちている進路上にトレーナーがいる』『からまれている人を助ける』『セカチューなどの人気のあるパチモンを連れているトレーナー』などのシチュエーションを用意して、プレイヤーが自分の意思でトレーナーに向かっていくように工夫されているのが救いか。
それにしても、
『じゃあ パチモンバトルで しょうぶだ!』
「……こいつらトラブルがあるとなんでもバトルで解決しようとするな」
「カードゲームもそうだけど、対戦要素のあるゲームが流行ってるっていう世界観だとだいたいそんな展開になるわね。でもルビィ&サファイアは一部で有名なサブイベントがあるから、他のシリーズに比べてバトルが多いんだけど」
「サブイベント?」
「序盤のイベントだからそろそろ起こるわよ」
どういう内容だろうかと推理しながらプレイしていると、その噂のサブイベントらしきものが発生した。
『なんでもパチモンバトルで かいけつするのは よくありません。なので パチモンバトルを きんしします!』
『おーぼー だ!』『しょっけんらんよー だぞ!』
当然のごとく巻き起こる反対運動。
ここまではよくあるパターンだ。
だがこの後がひどい。
『では パチモンバトルで きめましょう!』
「……お前もバトル脳じゃねえか」
しかも強い。
属性も水なので俺の火パチモンとは相性が悪く、全滅させられてしまった。
ただ6匹そろえただけのパーティではだめだ。
この際なので編成も考えておこう。
パチモンは4つの技しか持てない。
新しい技を習得したい場合は1つ忘れなければならない。
技にも属性があり、パチモンの属性と技の属性が同じなら1.5倍の破壊力になる。
相手の弱点の属性で攻撃すればさらに2倍のダメージ。
属性を2つ持っているパチモンもおり、双方の属性の弱点が同じだと4倍のダメージになる。
その逆なら当然ダメージは半減、最悪の場合4分の1になる。
1匹に同じ属性の技は2ついらないので、相手の弱点に対応しやすいように他の属性の技を入れる。
敵や自分のパラメータを上下させる補助技、状態異常技も重要だ。
そして命中率。
威力がそんなに変わらないのなら、命中率が高い技の方がいい。
このゲームには命中率100%の技が多いので、これを優先する。
防御力の高い相手には『一定ダメージを与える』技。
どれだけ堅くてもダメージが一定なのが心強い。
それと素早さに関係なく『先手』を取れる技だ。
お互いのパラメータに差がなければ先に動いた方が勝つ。
これらの基本さえおさえておけば、
『こ こんな はずでは!?』
パチモン脳など恐るるに足らず。
慣れてしまえば子供向けなのでサクサク進む。
初見殺し以外ではほとんどやられることもなくクリアできた。
「じゃあ、そろそろ対戦してみる?」
「ああ」
クリアしてパチモンも充分に進化している。
そこそこいい勝負ができるはずだ。
「対戦するからには賭けないとな。なにを食いたい?」
「タルト・タタン!」
「アップルパイか」
普通のアップルパイのようにパイ生地でリンゴを挟むのではなく、フライパンの底にリンゴを敷き詰めてパイ生地をかぶせ、ひっくり返して皿に盛るスイーツだ。
タタンというのは人名で、リンゴを長く炒めすぎてしまったタタン姉妹がそれを誤魔化そうとパイ生地をかぶせ、そのままフライパンをオーブンに入れて焼き上げたところ、奇跡的に美味しいタルトが焼き上がったという。
「きれい」
「アップルパイが派手だからな、これぐらいしないと見た目で負ける」
薄く切って飴色に炒めたリンゴを放射状に並べているので、パイ生地を格子状に編むアップルパイにも負けないインパクトがあった。
メインのリンゴが直接目に入る分、食欲もそそられる。
「コーヒーと茎茶どっちがいい?」
「茎茶はかりがね?」
「いや、普通の茎茶だ」
「ならコーヒー」
「わかった」
タルト・タタンにはコロンビア・トレドだろう。
リンゴのような香りがし、浅炒りのミディアムローストにすれば酸味が強くなってフルーツタルト全般によく合う。
俺は茎茶だ。
サクッとしたタルトの食感とリンゴの甘さには、少し熱めに淹れた茎茶がいい。
高級な茎茶であるかりがねは低い温度で淹れるので、今回は見送った。
『お前に決めた!』
タルトをサクサクかじりながら、満を持して互いに先鋒を繰り出す。
「よし!」
パチモンの属性ではこちらが有利。
最大火力で一気に潰してやろう。
そう意気込んだのも束の間、
『ハウリング』
「え」
瑞穂のパチモンが吠え、俺のパチモンが驚いて勝手に引っ込み、次鋒と交代してしまった。
「ふふ、相手と相性が悪ければ入れ替えてしまえばいいのよ」
「ぐ!」
あえなく俺のパチモンが瞬殺される。
このまま流れを持っていかれてはまずい。
「倍返しだ!」
「う、カウンター」
相手の攻撃を倍のダメージで跳ね返し、すぐに巻き返す。
しかも瑞穂の次鋒とはまたしても相性がよかった。
「今度こそ!」
「甘い」
「はあ!?」
逆に弱点を攻撃されてやられてしまった。
「属性があってないだろ! なんでそいつがそんな技持ってるんだよ!?」
「『役割破壊』ってやつよ。パチモンのパーティ編成にはそれぞれ役割があって、それを潰すためのパチモンね」
「役割?」
「基本は物理攻めと物理受け、特殊攻めと特殊受けの4匹。残りはその4匹の弱点をサポートしたり、特定のパチモンを潰すわけ。私のパチモンはよく対戦で使われるやつだから、これを潰す役割のパチモンを置いてる人が多いの。だから役割破壊を潰せるようにあえて属性のあってない技を入れて、逆に役割破壊してやるのよ!」
……俺はまんまとそれに引っかかってしまったわけだ。
思っていたよりも奥が深い。
物理攻めと物理受けは物理攻撃で敵を倒すパチモンと、敵の高い物理攻撃に対する防御役だろう。
特殊攻めと特殊受けは『とくこう』と『とくぼう』。
これは特殊攻撃力と特殊防御力で、特殊技の数値だ。
物理と属性で相性が悪くても、特殊防御力が低ければ特殊攻撃で潰せる
物理と特殊の役割を持ってる4匹は必須のようだ。
役割などほとんど意識していないので完全に流れを持っていかれてしまったが、こちらにもいくつか切り札がある。
まずは『ふんばる』。
どれだけ大ダメージを食らっても、HPが1だけ残る技だ。
そしてここから、
「『かいせいきし』狙いね」
「う」
読まれている。
かいせいきしは『回生起死』。
起死回生のことらしい。
HPが少ないほどダメージが増える技だ。
俺のパチモンは素早い。
普通のパチモンが相手ならまず先手が取れる。
だが瑞穂がこれだけ落ち着いているということは、
『ソニックパンチ!』
「ああ、やっぱりか!?」
素早さの数値に関係なく先手を取れる技だ。
これを使われたらどうしようもない。
例のキヌガッサもあっさり潰され、とうとう残り1匹。
「……分の悪い賭けだな」
最後のパチモンは一撃必殺(必殺=必ず殺すなので子供向けのこのゲームでは『必倒』と表記されている)狙いだ。
技ごとに使用回数が決められており、この技は8回しか使えない。
当たる確率は30%で『自分のパチモンのレベル-相手のレベル』が加算される。
自分よりレベルの高い相手には絶対当たらないが、さいわいレベルは同じ。
8回すべて繰り出すことができれば2・3匹は倒せる。
「食らえ!」
『いちげき ひっとう!』
「よっしゃ!」
「残念でした」
「なに?」
「このパチモンの役割は相討ち。厄介な相手を確実に潰すためのパチモンよ!」
「なんだと!?」
「あはは、HPが0になったら相手を道連れにするから一撃必殺でも作動するわよ!」
「うああ!?」
瑞穂の策にハマり、俺のパチモンはあっけなく道連れにされて勝負あり。
……これではダメだ。
もっと根本的な部分から戦略を組みなおす必要がある。
そうして試行錯誤すること30分。
「よし、これで勝負だ!」
「Zzz」
「……」
いつの間にかぐっすり眠っていた。
まあ、おやつで腹もふくれたし、ぶっ続けでプレイしていたので疲れが溜まって寝落ちしたのだろう。
「くー」
猫のように丸まっている。
いや、この場合はパチモンのようにと表現するべきか。
「こんなところで寝るな」
「んー、あと5時間」
「……あほか」
仕方ないので抱き上げて移動させる。
いつもなら恥ずかしがって暴れるのだが、こういうところもパチモンと同じだ。
眠らせた方が捕まえやすい。




