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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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握手アクションゲームセット【ミモレットとグアテマラ】

デジタルゲーム編


参考ゲーム

ICO

ピクミン


「お腹空いた」


「クラッカーでも食ってろ」


「単品で食べるもんじゃないでしょ。せめてなにかのせなさいよ」

「じゃあミモレットにするか」

「ミモレット?」

「チーズだ」

「あ、きれい」

 鮮やかなオレンジ色をしたチーズだ。

 語源はフランス語のミ・モレ(半分やわらかい)であり、熟成すると変色して固くなる。

「17世紀に海外食品の輸入禁止をされたフランスが、オランダのチーズを真似て作ったらしい」

「へー」


「チーズに住み着いたダニの力で熟成するから、このチーズの輸入を禁止されている国もある」


「うえ……。本当に大丈夫なの?」

「ダニに毒はないから大丈夫だ」

「そっちじゃない!」

 ミモレットを適当に切ってクラッカーにのせる。

「……なんかねっとりしてる。カラスミみたい」

「コクと塩気があるからビールや日本酒にも合うらしいぞ」

 コーヒーならグアテマラかケニア。

 オレンジ色なので、オレンジっぽい風味のある豆が最高だ。

 ウーロン茶でもいい。

「じゃあ一息ついたことだし、今日はこれね」

 取り出したるは一昔前のゲームソフト。


『この手を離さない。君の魂ごと離してしまう気がするから』のキャッチコピーが目を引いた。


 タイトルは『ピコ』。

 主人公の名前だけというシンプルなネーミングだ

「手を繋ぐゲームなのか?」


「そうよ、手を繋いでヒロインを守るゲームなの!」


「お、おう……」

 わかるようでなにもわからない。

「言葉が通じないから手を繋ぐか名前を呼ぶことしかできないのよ」

「あー、そういうことか」

 パッケージを見た限り敵は影のように全身が真っ黒な化物だった。

 言葉が通じず、しゃべるとしたらお互いの名前ぐらいで、ヒロインの手を引いて得体のしれない化物から逃げる。

 余分なものを極限まで排除したキャラ造形だ。

 そのぶん失敗したら目も当てられないが、こう力説するからには成功しているのだろう。


「ポチッとな」


 ディスクをセットしてゲームを始める。

 主人公ピコは謎の集団に捕まり、生贄として棺の中に閉じ込められる。

 地震によって棺のフタが開き、脱出に成功すると、大きな鳥かごに閉じ込められたヒロインがいた。

 わかるのはヒルディアスという名前だけ。

 言葉も通じず素性も判らないものの、とにかく協力して謎の城から脱出しようとする2人。

 そういう話だ。

 敵は神出鬼没で、油断するとヒルディアスはさらわれてしまう。

 離れないように手を握るのが基本だ。

 敵を追い払い、城にある仕掛けを作動させないといけないので常に手を繋いでいることはできないのがもどかしい。

 別行動している間にさらわれてしまうのではないかとハラハラする。


 手の繋がせ方も工夫されていた。


 たとえばヒルディアスは怖がりで、暗い場所や高い場所には行きたがらない。

 そこで手を繋いで先導する。

 またヒルディアスは何かトラブルが起こると、パニックに陥って支離滅裂な行動をとった。

 高い場所から落ちたり、踏んではいけないスイッチを踏まれると困るので、手を握って落ち着かせなければならない。

 NPCノンプレイヤーキャラクターが意味不明な行動をするのは他のゲームでも同じだが、このゲームではちゃんと理由付けがされており、プレイヤーがそれを制御できるのでイライラすることは少ない。

 ヒルディアスは敵にさらわれると沼のような闇に引きずり込まれてしまう。

 だが完全に飲み込まれる前なら、手を繋いで引き上げることができる。

 ヒルディアスはジャンプ力も、上によじのぼる力も弱いので、ピコが先に上に登って引っ張り上げる必要があった。

 橋が途中で壊れている場合も同じだ。

 ピコが向こう側に飛んで手を差し伸べ、ジャンプ力の足りないヒルディアスの手を空中でつかみ、引っ張り上げる。


「なんで走らないの?」


「ヒルディアスが転ぶだろ」

「あ、優しい」

「……そういうゲームデザインだろ」

「んふふ」

 手を握った状態で走るとヒルディアスがたまに転ぶ上に、強く腕を引っ張っているので肩が脱臼しそうに見える。

 なので移動スピードが落ちるにもかかわらず、自然と歩くようになっていた。

 プレイヤーが自分の意思で歩くことを選択するように、ヒルディアスを転ばせたり、腕を引っ張るモーションにしているのだろう。

 手を繋ぐとコントローラーが震えるのもいい。

 まるでヒルディアスの心臓の鼓動のようだ。

 重要キャラを守るというシチュエーションは他のゲームにもあったが、これほどヒロインを守ることにこだわったゲームも珍しい。


ゴゴゴ


「あ」

 敵がヒルディアスをさらおうとしたので追い払おうとすると、ピコが闇の沼に引きこまれた。

「狙いはこっちか!」

 とっさに握手ボタンを押して手を伸ばすと、ヒルディアスがその手をつかんだ。

 しかしヒルディアスは非力なので引っ張り上げることができない。

 逆にピコごと闇の沼へ引きずり込まれていく。

「やばい!」

 反射的にボタンから指を離した。


 だが握手ボタンを離したにもかかわらず、ヒルディアスは手を離さない。


 二人はそのまま闇の世界に飲み込まれ、画面は暗転した。

「ん、ゲームオーバーじゃないのか? でも画面は暗いままだぞ」

「闇の世界だからよ」

 とにかく脱出しようとピコを操作すると、コントローラーが震えた。

 どうやらずっと手を握っていたらしい。

 慌てて握手ボタンを押すと、ヒルディアスが何かをしゃべる。

 だが異国の言葉なので意味は分からない。

 ただコントローラーが強く震えた。

 歩こうとするとまた強く震える。


「……こっちじゃないって言ってるのか?」


「そういうこと」

 どうやらヒルディアスは夜目が効くらしく、ヒルディアスに手を引かれて道を進むと光が差した。

 闇の沼から地上の光が届いているらしい。

 闇の沼に密集する敵をなんとか振り切ると、無事に闇の世界から脱出することができた。

 そしてこのイベント以後、ヒルディアスの方から手を握るようになった。

 花畑や小動物のいる場所ではピコの手を引いて駆け回り、恐い場所に差し掛かるとブルブル震えながら背後に隠れる。


「手を握るだけでここまで色んなことが表現できるんだな」


「だからファンが多いのよ。サブストーリーも凝ってるし」

「へえ」

 ヒルディアス編はすぐに終わった。

 名作映画を見たような満足感はあるが……。

 ゲームとしては物足りないので番外編はありがたい。

 サブストーリーは全部で3つ。

 今回のヒロインは罪人のヒルデガルドだった。

 ヒルデガルドはとある組織の女幹部で、ピコは監獄まで彼女を護送する。

 本編との大きな違いは常に手を繋いでいるということ。


 それも手と手を繋いでいるわけではなく、手枷てかせでお互いの手首を拘束しているのだ。


 手枷は魔法によって鍵がかけられており、目的地に到着するまで解除することはできない。

 ヒルデガルドはヒルディアスよりも力が強く、また罪人なので大人しくピコについてこない。

 しかも喧嘩っ早くて気にいらないことがあるとすぐに人を殴る。

 護衛対象でありながら『護衛対象から周囲の人間を守らなければならない』のだ。

「ぐ、色んな意味で調整が難しいな」

「そのぶん合体攻撃は強力よ」


 最初こそピコに反抗的なものの、組織が口封じとしてヒルデガルドを始末しに来るようになると、生き延びるために共闘するようになる。


 ピコが相手の攻撃をガードしてヒルデガルドが横から攻撃。

 もしくは左右から同時に攻撃。

 あるいは手枷で繋がれている手を同時に突き出してダブルパンチ。

「ジャイアントスイング!」

 両手をつかんで大車輪すれば、周囲の敵をまとめて蹴り飛ばすこともできた。

 これを応用し、ヒルデガルドを振り子のように振り回せば、本来なら届かない場所にも手が届く。

 お互いを振り回しながら崖を移動していくのは爽快だ。


 そして後半、アクシデントによって手枷が壊れても2人は手を繋いで共闘する。


 ヒルディアスの時と同じ演出ではあるものの、やはり相手の方から手を繋いでくれるのはいい。

 組織の攻撃が苛烈になると周囲にも被害が及び、最初は喧嘩を売りまくっていたヒルデガルドが一般人を守るようになるのも感慨深い。

 罪人なので最後はもの悲しい別れになるのだが、お互いに手を握って踊りあう。

 ヒルディアスよりもアグレッシブなアクションができる設定を活かしたラストシーンだ。


 もう1つのサブストーリーのヒロインはヒルダガルデ。


 小さな妖精だ。

 悪魔にその身を引き裂かれた女神ヒルダの化身の1つらしく、女神として復活するために妖精を探していた。

 ピコはヒルダガルデとともに妖精を探し、女神ヒルダの復活を手伝うことになる。

 妖精は一人一人では力も弱く、すぐに死んでしまうものの、集まれば力を発揮することができた。

 アリのように群がって巨大な敵を倒す、重い物を運ぶ、障害物を壊す、何段にも肩車して高いところへ登る、ドリトル先生に出てきた猿のごとく手を繋いで橋を作るetc

 さらに妖精は色によって個性が分かれており、状況によって使い分ける必要がある。

 赤ヒルダは火に飛び込んでも平気で、青ヒルダは泳げて、黄ヒルダは軽いのでピコが遠くまで投げることができる。

 たとえば赤ヒルダでピコの周囲を囲めば燃えさかる火山地帯も突破できるし、青ヒルダを水上に浮かべればその上を歩くことができ、黄ヒルダを投げれば空を飛ぶモンスターを撃ち落としたり、通常なら届かない場所や敵の急所に手が届く。

 ピコが妖精を守り、時に妖精がピコを守る。

 このように非常に有能な妖精たちではあるが、


「ぐ、色別に動きを管理するのが難しいな!」


「40人なんてまだ少ない方よ。最大で100人になるんだから」

「100!?」

 多すぎる。

 自由に操作できるようになる気がしない。

 もう1つの問題点は体が小さくなったことで幼児化していること。

 目を離すと勝手にどこかへ行ってしまう。

 迷子を出さないためには手を繋ぐしかない。

 1人と手を繋ぐと、妖精はその横にいる妖精と手を繋ぎ、さらにその妖精が横にいる妖精と手を繋ぎ、さらにその妖精が……

「保育士かよ」

「かわいいでしょ」

 移動時には妖精と数珠じゅず繋ぎで手を繋ぐことになる。

 自由に動けないのが欠点だ。

 ただ右手に赤、左手に青のように、色を分けられるのが救いか。

 これで管理しやすくなる。


「ちなみに一定以上の数を集めると合体して大きくなるわよ」


「……どういう体の仕組みなんだ」

 面白いのは妖精が合体するとヒルディアスやヒルデガルドの姿になることだ。

 ヒルダガルデも小さな妖精の姿から、大人の女性の姿になる。

 ヒルディアスもヒルデガルドもヒルダガルデも愛称がヒルダだからだろう。

 ヒルダガルデだけでなく、各ヒロインも女神の化身なのだ。

 1人の主人公に複数のヒロインがいても、同一人物なら万事解決。

 なお成長したヒルダは攻撃を受けるとまた妖精に分裂してしまう。

 妖精として群れていた方が敵への一斉攻撃や物を運ぶ時は便利だが、攻撃範囲の広い敵に狙われた場合は逃げるのが難しい。 

 なす術もなく薙ぎ払われてしまう。

 一人なら簡単に隠れたり逃げたりできるというわけだ。

 もっとも、

「ここだ!」


 わざと攻撃を食らって分裂し、すかさず相手を囲んで数で圧倒するという戦法もある。


 分裂した状態では範囲攻撃で薙ぎ払われてしまうので接近できない(接近できても数が減ってしまうのでボコれない)。

 そこでヒルディアスを突撃させれば、接近すると同時に敵の攻撃によって分裂。

 無駄なく相手を囲めるという戦法だ。

 ヒルディアスには何の能力もないものの、ヒルデガルドはピコとの合体技、ヒルダガルデは赤・青・黄色ヒルダの特性が備わっている。

 能力の使いどころが肝だ。

 ラスボスは女神ヒルダを引き裂いた悪魔ブリュンヒルド。

 悪魔を倒すには効率的に妖精を増やし、合体させてヒルディアス・ヒルデガルド・ヒルダガルデに成長させ、女神ヒルダにならなければならない。

 ……はずなのだが、


「もう10分以上戦ってるのに死なんぞ。もしかして特殊な倒し方があるのか?」


「そうよ。ヒントがないから延々と戦っちゃうプレイヤーが多いけど、このゲームをずっとプレイしてきたんなら誰でも気付く方法よ」

「……誰でも気付く? まさか!」

 ヒルディアス・ヒルデガルド・ヒルダガルデを合体させて女神ヒルダにし、手を繋ぐ。

 そしてもう一方の手でブリュンヒルドとも手を繋いだ。

「やっぱりか!」

 するとヒルダとブリュンヒルドが徐々に一体化していく。

 ブリュンヒルドもまたヒルダの化身だったのだ。

 ブリュンヒルドはブリュンヒルデやブリュンヒルダと呼ばれることもある。

 名前で気付くべきだった。

 融合が終わった時、ピコとヒルダが両手を握りあっている構図が美しい。


 力を取り戻したヒルダは渾沌とした世界に秩序をもたらし、女神としての使命を果たす。


 そして空を飛んで天界へ帰って行った。

「これでエンディング!? いや、違う!」

 ストーリーには一切からまない謎の塔が横にあった。

 どう考えてもクリエイターに『昇れ』といわれている。

 塔を走って昇天するヒルダを追いかけ、

「ここだ!」

 頂上からジャンプしてヒルダの手をつかむ。

 ヒルダは驚いたものの手を振り払うことはなく、そのままピコを連れて天界へ昇った。


『この手を離さない。君の魂ごと離してしまう気がするから』


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