リモコンゲームセット【テリヤキチキンサンドとアメリカンコーヒー】
参考ゲーム
ゼルダの伝説スカイウォードソード
斬撃のレギンレイヴ
「ちゃー!」「しゅー!」「めん!」
喫茶店のドアを開けると、叫びながらリモコン型コントローラーを試し振りしている女子高生が一人。
……シュールな光景だ。
リモコンには拡張コントローラーのヌンチャクも接続されている。
リモコンにコードで接続すると武器のヌンチャクっぽい構えになるからそう呼ばれているのだろう。
リモコンだけでは攻撃できても移動しにくいので、親指でヌンチャクのスティックを操作して移動し、ヌンチャクの裏側にあるボタンを人差し指や中指で押してガードやジャンプをする仕様のようだ。
ヌンチャクの動きも感知されているらしく、ヌンチャクを振ると盾を構えたり、体当たりやダッシュ、バク転をしたりするらしい。
「ストラップしろよ」
「わかってるわよ」
ストラップに腕を通す。
これをしていないと強く振った時にすっぽ抜けてしまうからだ。
「武蔵みたいだな」
「巌流島だっけ?」
「ああ」
巌流島の決闘では木刀に穴を開けてヒモを通し、手首に結んでいたらしい。
木刀を弾き飛ばされても、すぐ手元に戻せるようにしていたのだろう。
ストラップでリモコンと腕を結ぶ姿はそれを髣髴とさせる。
ブン!
「たーのしー!」
あははと笑いながらリモコンをぶんぶん振り回す。
プレイしているのは俺でも知っている大作『リンクの伝説』。
プレイヤーの動きとキャラの動きがリンクしており、縦・横・斜めと自由自在に剣を振ることができる。
リモコンを前に突き出せば剣で突くこともできる。
「うー、当たんない!」
「適当に攻撃するからだ」
リモコンは敵の状態に応じて振り分けなければならない。
たとえば相手が右に構えていたら右から攻撃すると防御されてしまうし、空を飛んでいる敵には横へ剣を振っても当たらない。
「右……と見せかけて下!」
敵もこちらの腕の動きを見ているのでフェイントも重要だ。
たとえば右に腕を動かして敵の構えを右に誘導し、さっと腕を返して別方向から攻撃する。
ザコ相手でも適当に振っていては当たらないのだ。
ちなみにリモコンとヌンチャクを同時に動かすと『回転斬り』になる。
ぐるっと一回転しながら攻撃する技だ。
「縦! 横!」
縦に振れば縦に、横に振れば横に回転する。
攻撃範囲の狭い縦回転が使いにくいのは言うまでもないだろう。
『はあ……はあ……』
リンクが肩で息をし始めた。
このゲームには体力ゲージがあり、ダッシュや回転斬りを多用しすぎるとスタミナが切れ、一定時間動きが遅くなり、攻撃も防御もできなくなる。
しかも、
「はあ……はあ……」
「……お前もか」
「……こういうゲームなんだから仕方ないでしょ」
調子に乗ってリモコンを振りまくっていると、キャラだけでなくプレイヤーのスタミナも尽きてしまう。
なので慣れてくると腕の振りも小さくなり、どんどん無駄な動きがなくなっていく。
縦斬りの時は下から上に振り上げるようになった。
腕から力を抜けば自然と腕は下に落ちる=剣を振り下ろすので、力を込めてリモコンを振る必要もない。
いかに効率よく力を抜くかが重要だ。
「らん!」「なー!」「ちゃー!」
ただしボス戦だけは全力だ。
ヌンチャクを振って盾を構え、敵の攻撃を弾き返して態勢を崩し、これまでのうっ憤を晴らすようにフルスイング。
三発ほど叩き込んだらまた盾で相手を崩す。
ガシャン!
「あ」
盾が粉々になった。
耐久力が設定されているので多用すると壊れてしまうらしい。
フェイントと交互に使うのがベストだろう。
他にもボスの落した巨大な剣を拾ってぶん回したり、ボスの攻撃を野球のように打ち返したり、空を飛ぶ敵にムチをからませて引き寄せたり(珍しいリモコンを引く動作だ)、ボスが口を開けた瞬間に爆弾を投げこんだり(下から上に振ると爆弾をボウリングのように転がすこともできる)etc
「リモコン対応なだけあって凝ってるな」
「なんでもリモコンでやらせようとしすぎだけどね」
鳥に乗って空を飛ぶ、泳ぐ、楽器を奏でる、レバーを押したり引いたり回したりetc
たしかにリモコン操作が多すぎる。
いくらリモコンを動かすのが面白くても、操作が独特でプレイしにくい場所が多いのはいただけない。
「……ちょっと休憩」
ボスを倒して一区切りついたところでバタンと倒れた。
体力を使い果たしたらしい。
面白そうなので俺もリモコンを手に取ってみる。
リンクの伝説は序盤の展開を見てしまったので、一緒に買ってきた『惨劇のレギンレイヴ』というマイナーなゲームをセットした。
北欧神話をモチーフにした3Dアクションらしい。
ゲームはステージ制で、リンクの伝説のような探索や謎解きなどはなく、とにかく出てくる敵を全滅させればクリアだ。
登場しているステージはいつでも何度でもプレイでき、クリアしてないステージもイージーから地獄まで自由に難易度を選べる設計である。
とりあえず感覚を掴むためにイージーを選び、軽くリモコンを振ってみた。
「おおう!?」
腕を振るとリモコンがぶるぶる震え、しかも効果音が鳴る。
テレビのスピーカーからではなくリモコンから効果音がするのだ。
振動と効果音が合わさると臨場感が増す。
面白い演出だ。
「大剣の攻撃範囲おかしいな。刃が当たってないのに敵が吹っ飛んでる」
「主人公は神さまだから武器を振ると衝撃波が発生するのよ」
「そういう理屈なのか」
一振りで前方にいる敵をまとめて真っ二つにするのは気持ちいい。
他の武器も試してみる。
片手で振る長剣は衝撃波が発生してもそれほど射程は変わらない。
正確にいうと3Dなので画面には奥行きがあり、個人的に3Dゲームの距離感をつかむのが苦手なので、衝撃波で攻撃しているという実感があまりない。
槍は普通のゲームなら弓矢で攻撃する距離でも敵に届く。
矢はボタンを押した状態でリモコンを引き、ボタンを離すと発射される。
矢尻の羽根を指で挟んで、弦を引くイメージだ。
神さまの武器らしく一度に数本の矢を射ることができた。
ただリモコンを引きつつ照準を合わせるという特殊な操作のため、慣れないと当てにくい。
杖を装備すれば魔法で攻撃できる。
魔法は直線的に飛んでいくのでリモコンを振るというよりも、ガンシューティングのように照準を合わせる感じだ。
威力の低い氷を連射する魔法もあれば、爆発で一気に数十匹を吹き飛ばす魔法もある。
一人で300匹ぐらい倒すステージもあるらしく、状況に応じて武器と魔法を使いこなさなければクリアはおぼつかない。
「同じリモコン操作でもリンクの伝説とはぜんぜん違うな。敵が数十匹単位で出現するから休む暇もない」
「無双するならこっちね」
右に左に腕を振って忙しい。
武器によって攻撃回数は決まっており、長剣はどれでも最低5回は連続攻撃できる。
ただし最初の4発は比較的モーションが小さくて隙も少ない『弱』攻撃なのに対し、最後の一発は『強』攻撃でダメージが大きい代わりに隙も多い。
だから敵が多い時は最後の一発は出さずに素早く移動し、再び4発振って移動、常に動き続け、腕を振り続けることになる。
「うおおおおおっ!」
特に『ハヤブサの剣』などを装備した時は大変だ。
これは威力こそ低いものの10回連続攻撃ができる。
一発一発の威力は低くても、10発当てればそこらの武器よりずっと強力だ。
上手く立ち回れば20、30と敵が死ぬまで延々と斬り続けることができる。
一度この武器を振ってしまうと他の武器では物足りなくなるだろう。
とにかく腕を振りまくって敵を倒したいプレイヤーにはオススメだ。
もっとも、
「う、腕が……っ!?」
「調子に乗ってるからよ」
振り続ければ確実に腕が死ぬ。
疲労度はリンクの伝説の比ではない。
やむなく右腕が回復するまで、攻撃回数が少なくて強力な大剣を左腕で振ることにした。
「……タイミングが合わん」
振るだけなら左腕でも問題はない。
問題は大剣がプレイヤーの腕の振りよりかなり遅いことだ。
大剣は重いので予備動作が大きく、キャラはプレイヤーが腕を振ってから一拍置いて振ることになる。
長剣と同じ感覚でぶんぶん振っても、コマンド入力が早すぎるせいで攻撃が繋らないのだ。
連続攻撃をするには大剣が振り終わるのを待たなければならない。
最初こそ大剣の遅さにしびれを切らしていたものの、
「ん、慣れると意外に面白いな」
これまではプレイヤーのリモコンに合わせてキャラが長剣を振っていた。
大剣ではそれが逆になる。
キャラが大剣を振るスピードに合わせてプレイヤーが腕を振るのだ。
キャラに合わせて動くのでシンクロ率が高い。
一発当たりの威力も大きく、目の前にいる敵をまとめて薙ぎ払うことができるので、まるで自分がゲームの主人公になったかのようだ。
「よし、こっちは倒した。次はあっちの敵を……って、うわあ!?」
大剣を空振りし、手痛い反撃を食らう。
「なにやってんの」
「リモコンの感度がよすぎるんだよ!」
リモコンを振って攻撃するゲームの性質上、振った腕を戻す動きもセンサーが感知してしまい、無駄なアクションが発生してしまうのだ。
一応リモコンを速く振らないと攻撃は発生しないようになっているものの、敵が多いとゆっくり腕を戻している暇はない。
長剣ならまだしも、モーションの大きい大剣で細かな動きを感知されると致命的だ。
「オプションをいじろう」
『ボタンを押した時だけ武器を振る』ように設定した。
これなら無駄なアクションによる被弾は防げる。
だが、
「うおおおおおっ!」
「……最後はやっぱりそうなるのね」
「お前もプレイしてみればわかる」
最後は結局ハヤブサの剣に戻ってしまう。
攻撃回数が増えると事故る可能性も上がってしまうものの、腕を振りまくる快感にはあらがえない。
ゲームとしては粗削りも甚だしいが、むしろ粗く削りまくっているからこそ味わえる爽快感。
惨劇のレギンレイヴ、マイナーだがあなどれない。
「疲れが取れるまでおやつにするか」
ぷるぷる
「……やばい、手が震える」
「……危ないから大人しくしてて」
「すまん」
瑞穂が珍しく調理する。
なにを作るのかと思ったら、取り出したのはめん棒。
「悪!」「即!」「斬!」
めん棒で鶏の胸肉を叩き、繊維を破壊する。
胸肉は固いので柔らかくなるように叩くのだ。
さっきまでリモコンを振っていたので、ノリで叩いているのだろう。
「これでよし、と」
平たくした肉をそぎ切りにし、片栗粉をまぶした。
胸肉を焼き、油を拭き取り、砂糖・醤油・酒・みりんをフライパンに投入。
とろみがついてきたら胸肉をからませ、テリヤキチキンの完成だ。
「……多いな」
「余ったら夜食にするから」
海外ではもも肉より高い胸肉だが、日本では安く大量に手に入る。
だからつい作りすぎてしまったのだろう。
「はむ」
とりあえず一口。
胸肉特有の固さやパサパサ感はない。
もも肉のようなジューシーさもないが、脂が少ない分だけたくさん食べられる。
これが海外で支持される理由だろう。
ジューシーなもも肉を少量食べるよりも、あっさりした胸肉をたくさん食べる。
1つよりも2つ。
質より量だ。
満足感が2倍になるわけではないが、量の多いほうが長い時間味わえることには違いない。
「シャキシャキだな」
レタスの歯ごたえがいい。
テリヤキソースは鶏肉と相性がよく、マヨネーズともよく馴染む。
チキンカツサンドはケチャップと豚カツソースを混ぜた特製ソースで味付けされている。
シャキシャキのレタスにサクサクのカツ。
マヨネーズには粒マスタードが混ぜられており、ピリッとした刺激がアクセントになっている。
中には千切りキャベツのチキンカツサンドもあった。
こちらはケチャップなしの豚カツソースがメインらしく、庶民的で安心感のある味だ。
「おいしい?」
「ああ」
「んふふ」
料理の腕も順調に成長しているらしい。
もう少しレパートリーが増えたらバイト代を上げてやろう。
「お茶はコーヒーだな」
パン類にはアメリカンがいい。
特にサンドイッチやホットドッグ、トーストにはオススメだ。
「じゃあ次は私の番ね」
サンドイッチをぱくつきながらリモコンを振り回す。
「やあああああああ!」
すべての武器を試してみたものの、最後はやはりハヤブサの剣に落ち着いた。
ある意味、予想通りだ。
「ん?」
瑞穂のプレイにどこか違和感を覚える。
なにかが足りない。
いったい何が足りないのか。
その答えはすぐにわかった。
ガシャン
「あ」
振り下ろした勢いでリモコンがすっぽ抜け、壁に激突した。
「ああー!? リモコンがっー!?」
「だからストラップしろって言っただろうが」
「うう……」
衝撃でヌンチャクのコードも外れ、プラスチックが四方に飛び散っていた。
修復は無理だろう。
「これがレギンレイヴの惨劇なのね」
「違う」




