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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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QTEゲームセット【ポップコーンボールとアップルサイダー】

参考ゲーム

ビューティフルジョー

「ムービー観るからポップコーンね」


「あいよ」

 フライパンに油を引き、ポップコーン用のコーンを投入してフタをする。


ポンポン


 弾けだしたらフライパンを適度に揺らす。

 音がしなくなったら完成だ。

 仕上げにバターを落として、塩を振りたいところだが……。

「ポップコーンボールも食うか?」

「うん!」

 インガルス一家物語に出てきたおやつだ。

 ポップコーンに糖蜜をたらし、手にバターを塗って丸める。

 見た目のインパクトがあり、カリカリした食感に糖蜜の甘さが後を引く一品だ。

 ポップコーンボールをいくつか作り、残りのポップコーンにはバターを落として塩を振る。

 インガルスシリーズにちなんで飲み物はミルクかサイダー(作中ではリンゴ液。ようするにリンゴで作ったサイダーだ)。

 そうして出来上がったポップコーンをトレイに載せて運んでいると、


「……ん?」


 映画を観るはずの瑞穂がなぜかゲームをしていた。

「映画観るんじゃなかったのか?」

「だから観てるじゃない、ムービー」


「それは『ムービーゲーム』だろうが!」


「似たようなもんでしょ」

 プレイヤーが操作できない『動画ムービー』が多いゲームをムービーゲームと呼ぶ。

 もちろんあまりいい言葉ではない。

 プレイヤーが望んでいるのは映画のような映像を観ることではなく、映画のように動かせるゲームだからだ。

 そして俺のその考えを読んでいたかのように、


『A+C』


「あ」

 突然画面にボタンが表示され、主人公が岩の下敷きになって死んだ。

「……やっぱり『QTE』って最低だわ」

「きゅーてぃーいー?」


「『クイックタイムイベント』の略。だいたいムービー中に起こるイベントなんだけど、プレイ中にコマンドが表示されて、上手く入力すると映画みたいなアクションでトラブルを突破するの」


「ただのムービーゲームじゃないんだな」

「……ある意味ただのムービーゲームの方がマシよ」

「なんでだ?」

「即死イベントが多くて、何度も同じムービーを見せられるからよ。ムービーをスキップしたくても、QTEがあるとスキップできないし」

「でもボタンを押すだけなんだからそんなに難しくないだろ」


「ムービーが流れてる最中は映像に集中してるでしょ。それに音ゲーなら事前にどのボタンを入力すればいいかわかるけど、QTEは前振りが少ないから反応しきれないのよ」


「……それはきついな」

 酷評される理由もわかる。

「表示されるボタンとアクションが連動してないのも最悪ね」

「たとえばジャンプして攻撃を避わすシーンなのに、押すボタンがジャンプボタンじゃないってことか?」

「そうそう、そういうの。しかもさっきみたいに複数のボタン同時押しだと完全な初見殺しよ。前振りもなしに連動してないボタンの同時押しなんて出来るわけないんだから」

 気を取り直してコンティニュー。

 再び同じムービーが流れ、問題のQTE。


『B+D』


 さっきとボタンが違う。

 どうやらランダムらしい。

『とう!』

 ボタン入力に成功したらしく、主人公は岩を華麗に避わした。

 しかし、


『A+C』


『B+D』


『L1+R1』


「ああー!?」

 怒涛のコマンド入力地獄。

 QTEがあるとわかっていても、表示されるタイミングがわからないので初見だとさばくのは難しい。

 あえなくゲームオーバーになった。

「……たしかにアクションは派手かもしれんが、これプレイヤーはムービー観れてないよな」

「だから嫌われるシステムなのよ」

 ムービーゲームと評されるのが嫌だから組み込んでいるはずなのに、プレイヤーはコマンドに集中していて肝心のムービーが目に入らない。

 本末転倒だ。

「買って損したわ」

「面白いQTEのゲームってないのか?」


「そうね、『スタイリッシュ・ジョー』は面白かったわよ」


「……いかにもつまらなそうなタイトルなんだが」

「わざとB級のタイトルにしてるのよ。やってみる?」

「ああ」

 スタイリッシュジョーにディスクを入れ替える。

 ゲームの舞台は倒産して廃墟になったアニメ会社。

 主人公のジョーが肝試しで廃墟に侵入すると、無数の幽霊が現れる。

 それは未完成のまま放置されていたアニメのキャラクターたちだった。

 ジョーはアニメを完成させるため、アニメの世界に飛びこむ。

 こうしてゲームは始まったのだが、


『↑』


「うお!?」

 開始直後にいきなり変なおっさんが表れ、スケッチブックを広げた。

 奇跡的にコマンド入力を成功させると、敵の下段攻撃をジャンプして避わす。


『Stylish!』


 するとジョーにスケッチブックで指示を出したキャラが親指を立てた。

 アニメの監督だ。

 こいつが急死してしまったためにアニメ製作は流れ、スタジオも倒産したらしい。

 映像こそ未完成だが、脚本そのものは完成しているので敵がどう動くのか監督は全部知っているのだ。

 目でモーションを見てから避わすのは難しいが、監督の指示カンペさえあれば俺でも避わせる。

 おまけに攻撃を避わすと敵はバランスを崩し、監督から新しいカンペが飛んできた。

 コマンドをタイミングよく押していくと、いつもと違うモーションで攻撃が繋がり、


『アナログスティック一回転』


 通常の操作では出せない大技ジャイアントスイングが発動する。

 なるほど、スタイリッシュだ。

 敵によってはQTEでお互いにパンチを撃ち合う展開もある。

 ジョーだけでなく相手も攻撃を避わしてくるのだ。

 先に回避に失敗した方がQTEコンボを食らう。

 決め技も敵キャラの数だけ存在し、


『A連打』


『AorB』


 連打の回数や押すボタンによってフィニッシュも変わるという芸の細かさ。

 入力ミスをしても即死することはなく、必ずしも指示通りに動かなくてもいいので気が楽だ。

 ただ指示を守るとアニメのクオリティが上がり、監督からパワーアップアイテムをもらえたり残機が増えたりする。

 指示を無視しても、QTEよりコンボを繋げるか総ダメージを上回ればアニメのクオリティが上がったと判断されボーナス。

 アニメの世界という設定を活かした能力も面白い。

 よく使うのは『倍速』。

 ゲーム全体の動きが加速する能力だ。

 動きが速くなっても敵の反応速度は通常のままなので、加速して攻撃すればだいたい当たる。

 純粋に移動スピードも速くなって快適だし、ぴょんぴょん動き回っていれば敵の攻撃もなかなか当たらない。


「あんまり加速してると時間なくなるわよ」


「時間?」

「アニメはCMを除くとだいたい1話24分だから、このゲームも1ステージ24分の時間制限があるんだけど……。倍速するとどんどん時間がなくなっていくの」

「あ」

 プレイし始めてから15分しか経っていないのに、ゲーム内ではすでに20分経過している。

「『スローモーション』で確実に攻撃を避わしながら進んで、ここぞという時に加速するのがコツよ」

「なるほど」

 いくら監督が指示してくれるとはいえ、敵が多いと対処しきれない。

 だがスローにすればゲーム全体の動きが遅くなるので、攻撃を避わしやすくなる。

 こちらの攻撃も遅くなってしまうので、反撃する時はスローを解除しなければならない。

 スローのままだとQTEさえ避わされてしまうからだ。


『へいジョー!』


「お、ボスか」

『俺がお前の放送禁止用語ピー放送禁止用語ピーしてやるぜ!』

 そしてジョーに向かって何かをしたものの、モザイクがかかって肝心の手が見えなかった。

 おそらく中指を立てたのだろう。

 細かい演出も凝っている。

「残り3分と少しか……。ギリギリだな」

 ボスはヘリに乗って攻撃してくる。

 ヘリのミサイル攻撃は肉眼だと視認できないほどのスピードで飛んできた。

 それをスローにして避わしつつ、ミサイルにパンチやキックを当てて軌道を変え、ヘリに当てる。

 さらにスローにし続けるとプロペラの回転がどんどん遅くなり、


ドカーン


「おおう!?」

 ヘリが下に落ちてきた。

 逆に倍速にするとプロペラの回転速度が上がり、ヘリが高く舞い上がる。

 こんな使い方もあったとは。

 とりあえずスローでミサイルの軌道を変え、ヘリを下に落としてダメージを与えていると、残り2分を切った。

 すると、


『殴れ殴れ殴れ! 昨日はどっちだ~』


「なんだ!?」

「エンディングテーマよ。正確にいうとオープニングなんだけど、アニメの初回はエンディングでオープニングが流れるのがお約束だから」

 スタッフロールまで流れ始めた。

 そしてエンディングが終わると次回予告に入った。


『次回、スタイリッシュ・ジョー死す!? デュエルスタンバイ!』


 暗転。

「げ、タイムアップ!?」

「大丈夫、すぐに2話が始まるから」

 瑞穂の言う通り、前回までのあらすじが始まり、再びオープニングが流れ始めた。

「ちゃんとボス戦の続きからなんだな。でもこれだと時間制限の意味なくないか?」

「あるわよ。このアニメは12話構成で、1話で1体ずつボスを倒していく話なんだから。これだと1話で2体のボスを倒さないといけないでしょ」

「さすがに24分あれば前回のボスは倒せるとして……。前回のボスに時間をかけてると今回のボス倒せないだろ」


「ボスに辿りつけなかったら、次回のオープニングでボスが襲い掛かってくるのよ。さすがに最終話では『俺たちの戦いはこれからだ』エンドになって、幽霊たちが成仏できなくなっちゃうけど」


「……最終話でボス2体は厳しいな」

「だから救済策も用意されてるのよ。実はこのアニメ13話構成だから」

「は? 12話構成じゃないのか?」

「アニメに『総集編』ってあるでしょ」

「これまでのストーリーを30分……いや、24分に編集したやつだな」


「このゲームにも総集編があって、その枠を潰すことで1話確保するのよ」


「プレイヤーは好きなタイミングで総集編を潰せるのか?」

「そうよ。だいたい最終話の前だけど」

「総集編を潰さずに放送したらどうなるんだ?」


「プレイデータが記録されてて、適当に編集された総集編がちゃんと流れるわよ」


「……ちょっと待て、24分も自分のプレイを観ないといけないのか?」

「そういう時のための倍速でしょ」

「なるほど」

 上手い能力の使い方だ。

「特殊能力も増えてきたな」

 たとえば『巻き戻し』。

 文字通り時間を戻すことができるので、ミスをした時にはお世話になる。

 『リプレイ』は同じアクションを繰り返し、敵に倍のダメージを与えることができる。

 『一時停止』は説明するまでもないだろう。


 それと『バンク』。


 アニメではロボットの合体や、魔法少女の変身、必殺技を発動させるシーンでは、いつも同じカットを使い回しにしている。

 それが『銀行バンク』だ。

 使い回せば作画の手間を軽減できるし、バンクシーンは映像のクオリティも高いので視聴者も手抜きとは感じない。

 アニメでは『バンクが流れている間は敵は攻撃しない』という暗黙の了解がある。

 なのでこのゲームでもバンクを使用している間は無敵だ。


 ただジョーが変身してしまうともう変身バンクは使えないし、必殺技も無制限に使えるわけではない。


 なによりバンクシーンはちょっと長い。

 時間に追われていると使いにくくなる。

 そこで『SD化』だ。

 発動するとジョーの姿がデフォルメされ、ダメージを無効化できるという能力だ。

 ようするにアニメのギャグパートらしい。


 アニメのギャグシーンでは殴られて星になったり、100tハンマーで殴られても死なないからだろう。


 もちろん敵も死なない。

「アニメのクオリティを上げたいならバンクを毎回使った方がいいわよ。黄門さまみたいなものだから」

「水戸黄門?」

「黄門さまの印籠っていつも同じ時間に出るでしょ」

「たしか1時間ドラマの45分頃だったな」

 格さんの『この紋所が目に入らぬか』は視聴者が最も期待しているシーンなので、いつも同じ時間に登場する。


「印籠みたいにアニメのバンクも流れるタイミングは計算されてるの。だから毎話同じ時間にバンクを使うとクオリティが上がるわけ。アニメのクオリティを上げないと真のエンディングは観れないわよ」


「真のエンディングの条件ってなんだ?」

「一定以上のクオリティを稼いで、1話で1体のボスを撃破、総集編を流さずに12話をクリアすると、没になった幻の13話が登場するの」

「……難しいな」

 普通のエンディングを観るだけならそれほど難しくない。

 現に俺は早くもラスボス戦だ。

 なぜこれほど早くラスボスに辿りつけたかというと、ボスを倒したら倍速してタイムアップさせ、次の話のオープニングでボスと戦い、総集編を潰して話数調整したからだ。


 ようするに倍速すればボスを倒すだけでよく、12のステージを完全攻略する必要はないのである。


 ただこれだとアニメのクオリティスコアがかなり低い。

 24分×13話もプレイするのは時間がかかるのでやむを得ない部分はあるのだが……。

 真のエンディングが存在するのなら、それを観てみたいのが人間心理。

「私のデータ使う?」

「頼む」

 瑞穂のデータをロードして13話へ進む。


『↑』

『↑』

『↓』

『↓』

『←』

『→』

『←』

『→』

『B』

『A』


 怒涛のQTE。

 いつも以上に監督の指示が多い。

 そしてクライマックスで最後の指示が飛んできた。


『ジョーはボスに殺される』


「は?」

 とっさに意味を理解できず、ボスの攻撃を避わす。

 すると監督がなぜ死なないのかと激怒した。

「これが没になった理由よ」

「……そういうことか」

 もちろんジョーがこんな命令に従うわけがなく、怒った監督がアニメに乱入。

 まさかの監督がラスボス展開。

 当然監督が相手なのでQTEの指示カンペは出ない。

 だが監督の攻撃はだいたい読めた。

 監督の攻撃パターンは13体のボスとほとんど同じだからだ。

 このゲームそのものが監督を倒すためのチュートリアルになっているともいえる。


『カット、カット、カーーーーット!』


 厄介なのは『カット』。

 テレビが不要な映像をカットするように、監督は技の予備動作モーションをカットして攻撃してきた。

 モーションをカットされると強力な攻撃が突然飛んでくることになるので回避するのが難しい。

 スローで対応するしかない。

 そうしてスローで監督の攻撃を避わしながら一定以上のダメージを与えると、これまでのボスに決めてきたQTEを発動させることができた。

 指示が表示されないので完璧なQTEコンボは難しいものの、ボタンを間違えても即死はしない。

 安心して攻撃できる。


『オラオラオラオラオラ!』


 華麗にQTEコンボを決め、監督を撃破した。

 ……これで監督は成仏できるのだろうか?

 一抹の不安を感じたものの、監督は親指を立てて満足げに昇天する。

 あとには監督愛用のスケッチブックだけが残されていた。


『Stylish!』


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