爆弾ゲームセット【レモンケーキとココア】
デジタルゲーム編。
参考ゲーム
ポリスノーツ
鈴木爆発
THE爆弾処理班
超執刀カドゥケウス
俺の料理
マインスイーパ
トントントントントン
「んー、反応が悪いわね」
「……無駄に突きまくるからだろ」
「触ったくらいじゃ反応しないんだもの」
瑞穂が突きまくっていたのは上下二画面に分かれている携帯ゲーム機。
タッチペンでモニターをタッチし、操作するタイプのやつだ。
トントン
ゲーム画面は動かない。
「……反応なし。これじゃ、もうタッチゲームはできないわね」
「俺の使うか?」
「持ってるの?」
「流行ってたからな」
ホコリをかぶっていたのを引っ張り出す。
電源を入れてみると問題なく動いた。
ちなみにソフトは一本も持っていない。
それどころか一本も買ったことがない。
誰かがソフトを持っていれば通信対戦できるからだ。
ソフトを買わなくてもプレイできるので重宝した。
だからこそプレイしなくなってしまったのだが……。
「……で、それは何のゲームだ?」
「『ザ・ワールド・イズ・マイン』よ」
「世界はオレのもの、か」
「マインはマインでも、地雷のマインだけどね」
「……物騒なタイトルだな」
「爆弾解体ゲームだもの」
「解体?」
トントンと画面をタッチしていく。
「まずドライバーを選んでネジをタッチ。こうやってペンをくるくる回すとドライバーでネジを回せるわけ。全てのネジを外したら爆弾のカバーをとって、中にあるコードをペンチで切ったりするゲームよ」
「細かい作業が多そうだな」
見るからにコントローラーでは操作しにくい。
対象を直接タッチできるタッチペン向けのゲームだ。
「カバーを取る前にX線で解析。光センサーがあるから照明を切って、暗視装置を使いながら光センサーを潰す。安全を確保したら灯りをつけて、こうやってコードを切っていくの」
タッチペンをすっと横に一閃するとコードが切断された。
「あと1本」
「……めちゃくちゃ絡まってるな」
爆弾の配線は蛇のようにぐるぐる絡まっている。
正しい配線がわかっていたとしても、それを切るのに一瞬躊躇してしまうレベルだ。
「起爆装置に繋がってるやつを見つけるだけだから、見た目ほど難しくはないんだけど。時間制限があれば焦るわね」
まったく焦っていない様子で、てきぱきといくつもの爆弾を処理していく。
ランプが点滅している時にネジを回す(点滅してない時に回すと爆発)。
振動センサーをピンセットでつまんで壁にぶつからないよう既定の位置まで動かす(接触すれば爆発)。
配線を正しい並びに繋ぎなおす。
時間制限のある複数の爆弾をコールドスプレーで凍らせながら(タイマーを一時的に止めながら)同時に処理etc
さすがに倫理的な問題もあるので実際の爆弾とは構造が違うものの、爆弾を一つ一つ確実に解体していくのは気持ちいい。
「面白いな、このゲーム」
「やってみる?」
「ああ」
ゲーム機を受けとり、最初からプレイする。
さあ爆弾を解体するぞと思ったら、
『急患です!』
「は?」
「主人公は軍医なのよ。爆弾処理だけだとどうしてもワンパターンになっちゃうから、手術パートもあるの」
「……なるほど。考えてみれば爆弾処理と外科手術って似てるな」
「でしょ?」
乞われるまま手術モードに突入。
メスで切り、エコーで患部を探し、ピンセットでつまみ、止血、消毒、注射、傷口の縫合、そして汗(助手のヒロインに拭いてもらわないと、どんどん視界が歪んでいく)。
時には寄生虫と熾烈な戦いを繰り広げる。
寄生虫はともかく、やはり爆弾処理とよく似ていた。
ミスをしたら患者のバイタルが低下し、最悪命を落としてしまうので、爆弾処理以上に自分の腕に人の命がかかっていると実感できて緊張感がある。
これはこれで面白い。
そしてようやく最初の爆弾を解体したと思ったら、
「次は料理のお手伝いよ」
「……これもバリエーションを増やすためか」
タッチペンを縦に素早く動かして野菜を千切り、味がしみ込むように鶏肉をトントンとフォークで突いて穴を開け、くるくる回してタコ焼きをひっくり返す。
爆弾を同時進行で解体していたイベントのように、複数の料理を同時に作っていく。
クリア条件は一定の金額を稼ぐこと。
一定の時間内に調理できなければ客が怒って帰ってしまい、客足も減るようだ。
「いかにまとめて調理するかが鍵だな」
「そいういうこと」
たとえば野菜は一つ一つ切らねばならないが、全部切ってしまえば一度に炒めることができる。
煮物や麺を茹でるのも同様。
まとめて調理できない手間のかかる料理は、客足が鈍らない程度に無視するのがコツのようだ。
煮物のように一定の時間がかかるものの、セットさえしておけば放っておいても完成する料理は優先して行う。
煮ている隙に他の調理をするのだ。
料理イベントは常にタッチペンを操作していなければならないので、タッチスクリーンが壊れてしまうのも無理はない。
『またのご来店を!』
「……ようやく終わった。これでやっと爆弾の解体が……」
「できないわよ」
「……」
国際指名手配されている爆弾魔を発見した主人公は男を尾行し、ピッキングしてドアを開け、アジトに侵入。
さらに金庫まで破ってテロ計画書を発見。
保管されていた爆弾を解体し、未然に爆弾テロを阻止する。
爆弾処理、手術、料理、ピッキング。
タッチペンの使用方法を突き詰めたゲームデザインだ。
まさかここまでバリエーションがあるとは……。
携帯ゲームもあなどれない。
「もうすぐ地雷原イベントね」
「金属探知機で探しながら解体するのか?」
「探知機なんてないわよ。パソコンに標準搭載されてる『地雷掃除』ってゲームがあるでしょ? 要するにあれの改良版よ」
「マス目に書かれた数字が、周りに埋まってる地雷の数を表してるっていうやつか?」
「そうそれ。間違って地雷を踏んだら、そこで初めて爆弾処理モードになるのよ」
「……マニアックだな」
地雷は必ずしも踏んだ瞬間に爆発するわけではない。
このゲームのように足を上げない限り爆発しない仕組みの地雷もある。
だから誤って踏んでしまっても解体する余裕があるわけだ。
地雷原は9×9の81マス。
初期状態ではヒントの数字はない。
プレイヤーがどこかのマスを選ぶとヒントの数字が表れ、そこを中心にランダムで地雷が仕掛けられる。
最初から地雷が仕掛けられていると、最初の一手はノーヒントでマスを選ばないといけないので運ゲーになるからだ。
長丁場になりそうなので一服することにする。
「なにこれ?」
「レモンケーキだ」
文字通りレモンの形をしたケーキで、黄色く着色されている。
俺たちが生まれる前に流行っていたらしい。
スポンジをチョコでコーティングしており、外はパリッと、中はふわっとした食感だ。
レモンケーキの中には当然レモンが使われており、チョコの甘味と苦味にレモンの酸味がマッチする。
「お茶はココアだ」
レモンの元ネタは梶井基次郎の『檸檬』。
レモン型爆弾の妄想で有名なあの短編小説だ。
ココアは石川啄木の『ココアのひと匙』の一節。
はてしなき議論の後の
冷めたるココアのひと匙を啜りて、
そのうすにがき舌触りに、
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。
爆弾にこれほど相応しいスイーツはないだろう。
「さて……」
一服したのでゲーム再開。
タッチペンではなく十字キーでマスを選び、ボタンを押していく。
カチッ
「あ」
いきなり地雷を踏んだ。
ボタンから指を離さず、携帯ゲーム機をテーブルに置く。
このボタンを押す指こそプレイヤーが操作するキャラの足なのだ。
ボタンを離す=足を上げるであり、地雷が爆発する。
なのでプレイヤーはボタンを押したまま、爆弾を解体しなければいけない。
「右利きのプレイヤーは辛いな」
「そうね」
ボタンはゲーム機の右側にある。
右利きのプレイヤーは右手でボタンを押しっぱなしにしないといけないので、タッチペンは左手で操作することになる。
それが嫌なら手を入れ替えなければならない。
慎重に手を入れ替え、無事に地雷を解体するとヒントの数字が増える。
これで解きやすくなった。
「マインスイープのコツは?」
「外堀を埋めること。どっちかのマスに地雷があるのは確実なんだけど、それを特定できない場合。そこは無視して周りを埋めるの。どちらかに地雷があるっていうことは、その周りに地雷はないってことだから」
「なるほど」
「それから端を攻めることね。マスが少ないから特定しやすいの。特にこういう形がよく出てくるわよ」
ホワイトボードに図を書く。
端端端
端1
端 ○←地雷
端端端端
端12
端2○○
端 ○
端端端
3
○○○
端端端端
端○○○
端○5
端○
「囲碁みたいだな」
「地雷の埋まってやすい形を覚えるところは似てるかも」
さらにホワイトボードに図を追加していく。
12
○ ○
12
○○
121
○ ○
1221
○○
端 ×←1が並んでいる時、3番目の1の前に地雷は埋まってない
端111
端 ×
端22
端 ×
×
1
31
○ ×
○
2
22
× ○
3の差がある数字が並んでいる場合
× ○ × ○ × ○ ×○○○
×14○ ×25○ ×36○ ×47○
× ○ × ○ × ○ ×○○○
「……くそ、確定できない。やっぱり基本の形だけじゃ限界があるな」
「なら踏んでみれば?」
「はあ?」
「それがマインスイープにない攻略法よ。踏んでみて地雷がなければよし、踏んでも解体すればいいんだから。そのマスが確定すれば周りのマスも確定するし」
「……無茶言うな」
「そう? だってこれ爆弾処理ゲームなのよ。むしろこれが一番正しい攻略の仕方だと思うんだけど」
「あ」
マインスイープに夢中になるあまり、これが爆弾処理ゲームだと忘れていた。
たしかに爆弾処理を楽しむゲームなのだから、積極的に地雷を踏みに行くべきなのかもしれない。
ここでしか解体できない爆弾もあるのでなおさらだ。
「よし、行くぞ!」
ドカーン
「……」
はてしなき爆弾処理の後の
冷めたるココアのひと匙を啜りて、
そのうすにがき舌触りに、
われは知る、爆弾処理班の
かなしき、かなしき心を。




