ラストワンセット【ハンバーガーとコーラ】
トランプでやるUNO回です(正確にはクレイジーエイト系のトランプゲームをモデルに開発されたのがUNOですが
「『ラストワン』をやりましょう」
先生が山札から各自に7枚ずつ配り、最後に山札から一枚引いて場に置く。
スペードの9だ。
「同じ絵柄、あるいは同じ数字の手札を場に置いていき、早く手札を0にした人の勝ちです」
スペードの9の上にスペードの5を置く。
同じ絵柄だから置けるわけだ。
絵柄が違っても、同じ数字の9なら置くことができるということだろう。
「……もしかして手札が残り1枚になったら『ラストワン』って宣言するんですか?」
「はい。ラストワンを忘れたら上がることができず、山札から2枚引かないといけません」
某有名カードゲームと同じルールだ。
「特殊なカードはあるの?」
「ありますよ? ただ某ゲームとは名前が違います。忘れないように書いておきましょう」
ホワイトボードに書き出す。
2 2ドロー
次のプレイヤーに2枚引かせることができる。
8 エイト
絵柄や数字に関係なく出せるカード。
これを出すと好きな絵柄を指定できる。
仮にハートの8を出しても、プレイヤーがダイヤと指定すれば、ダイヤのカードを出さなければならない。
J ジャンプ
次のプレイヤーを一回休み(手番をジャンプ=飛ばす)にできる。
Q クイックターン
ラストワンは時計回りにプレイしていくが、クイックターンを使うと逆回転になる。クイックターンするたびに回転方向は変わる。
K キング 4ドロー&エイト
絵柄や数字に関係なく出せるカード。
これを出すと好きな絵柄を指定でき、なおかつ次のプレイヤーに4枚カードを引かせることができる。
「では始めましょう」
順番にカードを置いていく。
「『重ね出し』はありなの?」
「ありにしましょう」
「やった!」
瑞穂が同じ数字のカードを2枚まとめて出す。
ありにしましょうというからには、公式にはないローカルルールなのだろう。
「『シークエンス』はありデスか?」
「『階段出し』ですね。絵柄が同じならOKです」
「いえー!」
アリスが同じハートの絵柄で、3・4と数字が連続しているカードをまとめて出した。
序盤はやはり数字か絵柄の同じカードを捨てる展開。
誰も特殊能力のあるカードを持っていないということはありえないので、温存しているのだろう。
とりあえず俺も序盤はカードを早く減らしにいく。
できるだけ多くの絵柄を残しておこう。
重要なのは数字よりも絵柄。
場にあるカードと数字がそろう確率よりも、絵柄がそろう確率の方がずっと高い。
4つの絵柄をそろえていれば、出せるカードがなくて山札から引くという事態は避けられる。
同じ数字のカードも重要だ。
3・4・5のように連続しているカードもまとめて出すことはできるが、これは同じ絵柄でないと出すことができない。
ゲームの終盤は2枚か3枚まとめて出して上がるのが望ましい。
なぜならラストワンを宣言すると、周りのプレイヤーが特殊能力のあるカードを使い、上がれないように仕掛けてくるからだ。
だからラストワンを宣言すると同時に上がることのできる階段出しや重ね出しが重要になる。
1つの絵柄でしか待てない階段出しよりも、2つの絵柄で待てる重ね出しの方が価値は高い。
階段出しを狙うのは同じ数字のカードがそろわなかった時だ。
「あ、出せるのない」
瑞穂が山札から1枚引いた。
「ん? 場に置けるカードが出るまで引くんじゃないのか?」
「え?」
「それはローカルルールですね」
「置けるのが出るまで引いたら大変なことになるでしょ」
「それがいいんだろ」
「レッツドロー!」
「たしかにその方が面白いかもしれませんね」
「わかったわよ、もう!」
瑞穂がもう一枚引く。
「……」
無言でさらにもう一枚。
泣きそうな顔でさらにもう一枚。
「うう……、だから嫌だって言ったのに!」
引き運がなさすぎる。
「ドローです」
「ええ!?」
しかも2ドローを食らい、さらに2枚引かされる。
「やった、キングよ!」
運よく特殊カードを引き当て、嬉々としてキングを出した。
「ダウト」
「だうと?」
「チャレンジとも言いマス」
「なんだそれ」
「ん」
片言では説明するのが面倒なのか、アリスが先生に視線を送った。
「キングは場に出せるカードがない時にしか出せません。もし出せるカードがあるのにキングを出し、それを別のプレイヤーに指摘された場合、キングを出したプレイヤーが6枚引かされます」
「6枚!?」
「ちなみに某カードゲームでは公式ルールですよ?」
「……もう最下位確定じゃない」
まさか相手に4枚引かせるどころか、自分が6枚引かされるとは。
しかもこれが公式ルールだという。
公式がローカルより恐ろしいのも珍しい。
「出せるカードが本当になかったらどうなるんですか?」
「ダウトを失敗したプレイヤーが6枚引きます」
「……心理戦になるな」
手札が多い時は出せるカードを持っている可能性が高い。
手札が少なければその逆。
いかに相手をダマし、ダウトをさせるかが重要になる。
とにかくダウトによって瑞穂の負けはほぼ確定した。
「じゃあ俺はこれで上がりっと……」
「あれ、特殊カードで上がれるんだっけ?」
「上がれないルールなんてあるのか?」
「うちではそうだったわよ」
「わりとよくあるローカルルールですね」
「知らなかった」
……まあ、どうせ瑞穂の負けだからいいだろう。
次のゲームから気を付ければいい。
「それにしてもローカルルール多いな」
「ローカルルールの多い弊害か、本来は得点制だったことも忘れられていますね」
「得点制?」
「5ラウンドやって総得点が一番高いプレイヤー、もしくは最初に500点に到達したプレイヤーが優勝なんですよ? 得点は各ラウンドで最初に上がったプレイヤーだけが得られます」
「1人上がったらそこで1ゲーム終わりってこと?」
「はい。なお『得点はラウンド終了時点で負けたプレイヤーの持っているカード』で決まります。Kや8は50点、その他の特殊カードは20点、後はカードに書かれている数字がそのまま得点になります」
「へー」
「聞いたこともないルールだな」
おそらく点数計算が面倒臭いから普及していないのだろう。
「負けたプレイヤーのカードがそのまま得点になるので、点数の大きい数字から先に捨てていくのがコツですね。高得点の特殊カードも早めに捨てます。キングで上がって、相手に4枚引かせれば高得点になりますよ? 『爆弾』というローカルルールもありました」
「……ネーミングからしてヤバそう」
「正しく爆弾です。色と数字の同じカードが連続して出た時、出すカードがないと場にあるカードを全部取らされますから」
「うわあ……」
ここでいう色は赤と黒だろう。
トランプはハートとダイヤのカードは赤、クラブとスペードのカードは黒くデザインされている。
たとえばハートとダイヤのAなら爆発するが、ハートとスペードのAでは色が違うので爆発しないのだろう。
「重ね出しが効果的ですよ?」
2枚まとめて出せば狙ったタイミングで爆発させられるわけだ。
恐ろしいルールである。
高得点が狙えるので、たぶん後半戦はほぼ爆弾ルールになるだろう。
ゲームが進むほど過激になっていくのは、ローカルルールの多いゲームでありがちなことだ。
ぐー
「お腹すいた」
「そういやまだ賭けてなかったな。なに食う?」
「ハンバーガー!」
「なにバーガーだ?」
「小麦粉」
「……グラタンコロッケバーガーだな」
「それそれ」
グラタンのホワイトソースは牛乳とバターと小麦粉だし、マカロニも小麦粉からできている。
グラタンをコロッケにする時にまとわせるのももちろん小麦粉。
小麦粉と卵をつけた後にまとわせるパン粉も小麦粉だ。
それをパン(バンズ)ではさむのだから徹底的に小麦粉である。
「ライスバーガーでお願いします」
「テリヤキ!」
「あいよ」
俺は月見バーガーにした。
それもアメリカ式の『エッグインクラウド』。
卵を白身と黄身に分け、白身を泡立てる。
そしてメレンゲをくぼませ、真ん中に黄身を入れてオーブンで焼く。
するとふわふわサクサクとろっとした不思議な食感に仕上がるのだ。
付け合せにポテトを揚げ、飲み物はコーラとシェイク。
これぞジャンクフードだ。
「では第2ラウンドを始めましょう」
トランプが汚れないように小まめに手を拭きながらゲーム再開。
「2のドローよ!」
「ではアリスもドローを」
「げ、ドロー累積か!?」
「るいせき?」
「普通はドローカードを出されると、2枚か4枚引かないといけないわけだが……。ドロー出された後にドローを出すと、次のプレーヤーにまとめて押し付けることができるんだよ。この場合、お前の2ドローとアリスの2ドローで俺が4枚引くわけだな」
「4枚引かせるキングでも同じことできるの?」
「できますよ? ドローは攻撃に使うよりも、防御のために残しておいた方がいいかもしれませんね」
「へー」
瑞穂が知らないということはこれもローカルルールなのだろう。
というかこいつの学校はどれだけ温いルールでプレイしてたんだ。
まあ、うちの学校が激しかったという可能性もあるのだが。
「エイト、絵柄はスペードね」
「エイト、ハートにしマス」
「ああ!?」
絵柄を変えてきた時は絵柄を変えたい時。
ブラフの可能性もあるが、瑞穂ならそれはないだろうと判断したのかアリスがすぐに絵柄を変えてきた。
相手の持ってる数字を予測するのは難しいが、絵柄なら比較的簡単に予測できる。
「ジャンプ」
「クイックターン」
「……なかなか上がれないわね」
残り2枚の瑞穂を上がらせないために特殊能力で時間を稼ぐものの、
「ラストワン!」
ついにリーチをかけられた。
既に特殊能力を使ってしまったために、誰も瑞穂を止める方法がない。
「……出せないじゃない」
しかし場のカードに嫌われてラストワンを出すことができず、山札から一枚引く。
「あ、ラッキー」
運よく一枚目で出せるカードを引いたらしい。
すぐに場へ出した。
「ラストワンを忘れてるぞ」
「ああ!?」
山札から引いた後や、二度目、三度目のラストワンはど忘れしてしまうことが多い。
瑞穂がペナルティで2枚引く。
誰が勝つか予想できない展開だ。
「キングです」
「じゃあ私もキング」
「トリプル!」
「げ!?」
まさかのキング3累積。
このままでは12枚引かされてしまう。
「キングが累積してる場合、ダウトしたらどうなるんですか?」
「ローカルルール次第ですね。先生の地域では3人のうち1人でもダウトに成功したら、全員に6枚引かせられるルールでした。2人ダウトなら12枚、3人なら18枚です。ただ2人にダウトして、1人ダウトで、1人ダウト失敗だった場合、ダウトされたプレイヤーとダウトに失敗したプレイヤーだけがカードを引きます」
キングを持っていない以上、ダウトするしかない。
むしろチャンスだ。
ダウトに成功すれば全員に6枚引かせることができる。
3人ともキングを出せる状況というのは考えにくいから、誰かが嘘を吐いているはずだ。
誰が嘘を吐いている?
じー
瑞穂の目を見る。
「ふふん」
こいつは嘘を吐いていない。
すると先生かアリス。
アリスは累積を食らわないためにキングを出した可能性が高い。
にぱー
……いつもニコニコしているから表情が読めない。
最大の難関は先生。
先生のことだからキング累積の状況を狙っていた可能性すらある。
ポーカーフェイスは完ぺきだ。
外からではうかがい知れない。
「くそ、こうなったらアリスと先生、両方ともダウトだ! 当たれば全員に12枚! 外れても一人は6枚引くわけだから、俺が最下位になる可能性は低くなる!」
「残念でした」
「外れデス」
「は?」
2人の手札を確認する。
どちらも嘘を吐いていない!
「18枚ですね」
「うああ!?」
ダウトしてもしなくても結果は同じだった。
運が絡むと時としてこういうことが起こる。
これだからトランプゲームは恐ろしい。




