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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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バス釣りセット【ブラックバスのカレーフライ】

「ふふ、釣るわよー!」


「お前、みみずに触れるのか?」

「え……。み、みみず!?」

 やはり無理らしい。

「まあ、ここはブラックバスがメインだから、みみずには触らなくてもいいんだが」

「それで釣れるの?」

「釣れる」

 バッグから疑似餌ルアーを取り出す。


 魚を食べる魚、いわゆる『フィッシュイーター』を釣るため、小魚に似せた偽物の餌だ。


「かわいい。でもなんでこんなの持ち歩いてんの?」

「ルアーにもなるストラップだからな」

「……ストラップにもなるルアーよね?」

 そうともいう。

「デフォルメされてるから、とても本物には見えないんだけど……」

「相手は魚眼レンズだぞ。視力も0.1から0.6ぐらいだし、シルエットさえ似てれば釣れる」

「へー」

 とりあえずバス釣りのセッティングをする。


「バスは臆病だから障害物の蔭にいる。こうやって竿を振ればルアーの重さでしなるから、その力を利用して投げろ。投げる時にハンドルを上に向ければスナップが効いて飛ぶぞっ……と!」


 少し力を入れてルアーをぶん投げる。

「おー、飛んだな」

「あ、あんなに飛ばさないといけないの!?」

「いや、バスは障害物の蔭ならどこにでもいるから。こんなに飛距離出す必要ないぞ」

「じゃあ、なんであそこまで投げたの?」

「格好つけたかったからだ」

「……そこは正直に言う所じゃないから」

「でも格好良かったろ?」

「あ、うん……」

 瑞穂が照れて顔をそむけ「えい!」とルアーを投げる。

 細かい説明がまだだったのだが、奇跡的にバックラッシュしなかった。


 ルアーを投げるとラインも出る。


 だからルアーが着水して止まっても投げた時の勢いで糸は出続けるわけで、ちゃんとブレーキをかけないと糸が出すぎて絡まってしまう。

 それがバックラッシュだ。

「ルアー泳がすぞ」

 竿を小刻みに振ってルアーを右に左に泳がせる。

「あ、本当に魚みたい!」

「トップウォーターは沈まないのが魅力だ。ルアーが泳ぐのも見えるし、何よりバスが食いつく瞬間が見られる」

「じっと待ってるわけじゃないのね」


「それがバス釣りの流行った理由の一つだろうな。釣りというとミミズみたいに気持ち悪い餌を針につけて、じっと待ってる退屈なイメージがあったが。バスは餌入らずで、本物の小魚だと錯覚させるために竿を動かすしな」


 スポーツフィッシングやキャッチ&リリースという概念を広めた魚でもあるし、横文字の格好よさもあるだろう。

 たいして美味くないことも(食べることを目的に釣るタイプの魚ではないだけで、ちゃんと調理すれば普通に美味い)キャッチ&リリースという言葉にプラスした。

 昔は釣りというとクーラーボックスのイメージがあって食うことが前提だったが、絞めた瞬間からどんどんアンモニア臭くなっていくサメのように、バスも初級者が下手に持ち帰ると臭くなる。

 バス釣りブームでクーラーボックスを持ち歩かなくなり、釣れなかったのを家族に知られたくなくて魚屋で魚を買うこともなくなった。

 釣果0の癖に大物が釣れたと自慢する釣り人もいたことだろう。

 加えてバスは淡水魚の中でも最大級の引きの強さを誇る。

 人気にならないはずがない。

「バスが食いつかなかったらもう一回キャスティング。それでもダメならルアーを変えたり、ポイントを移動する」

「あっちでたくさん釣れてるみたいよ」

「お前はルアーを変えてあっちで釣った方がいいかもな」

「あっち行かないの?」

「あそこで釣れるのは小物、いわゆるコバッチィだけだ。俺が狙うのは50センチオーバーの怪物ランカー

「群れがいるなら大物もいそうだけど……」


「いない。大物は体が大きくて泳ぐのも遅いからな。小物と一緒に行動してるとエサを横取りされるだろ? たまに素人が変な場所で大物を釣ってしまうのは、普通ならバスのいるはずのない場所に大物が移動するからだ」


「宝探しみたい」

「ああ、やみくもに竿を振ってるだけじゃお宝は釣れない」

 釣りはSFサイエンスフィッシング、けだし名言だ。

 時間帯(魚は朝方と夕方に食事をする)、水温、深度、水の透明度、コバッチィの居場所、水草etc

 キャッチ&リリースをされることがあるから、釣られたバスは学習する。

 人に何度も釣られるようなバスは生きのびられず、ランカーにまで成長したバスは総じて賢い。


 だから大物狙いなら釣れなくても当然なのだ。


 ……なんて言っている余裕はもはやない。

 そろそろ釣らなくては空気が悪くなる。

 なにより空腹だ。

 ここは素直に移動して、コバッチィでもいいから釣っておこう。

 当たりはそういう時に来る。

「な、なんか来た!」

「なに?」

 水面に魚影が見えたかと思うと、瑞穂のルアーにバスが食いついた。

 とっさに瑞穂の竿に手を添えてアワセる。


 魚は食いついたのがエサじゃないとわかったら吐き出してしまう。


 食いついただけでは針にかからないのだ。

 だからその瞬間に竿を上げて針を引っかける。

 それがアワセである。

「かかった!」

「わわ!?」

 だが安心するのはまだ早い。

 このバスはでかい、おそらくランカー級。

 しかもこれは初心者用の竿だ、ランカー相手には明らかに力不足。

 俺一人なら問題なく釣れるだろう。

 だが瑞穂に釣らせなければ意味がない。

「くそ!」

 竿や糸がやられないように、逃げられないように。

 瑞穂と密着しているのを楽しむ暇もなく、初めての釣りは思わぬ長期戦になった。


 5分後。

「……つ、釣れた」

「……疲れた」

 人に釣らせるのは自分で釣るよりも遥かに疲れる。

 性も根も尽き果てながらも、残る気力を振り絞って大きさを計る。


 53.6。


 正真正銘のランカーだ。

「いえーい」

 ピチピチ暴れるバスを片手に記念写真。

「じゃあ食うか」

 プロの料理人御用達の堺の包丁でバスを三枚におろし、臭いの大元である皮を剥いで、念のためカレー粉をまぶしてフライにする。

 これなら多少臭ってもカレー臭が消してくれるだろう。

 こんがり揚がったバスを菜箸でほぐし、

「ほれ」

 瑞穂の口元に差し出す。

「い、いただきます」

 くんくんと臭いを確認し、意を決してはむっと食いついた。

「どうだ?」

「あ、熱くてよくわかんない」

「じゃあもう一口」


 ふーふーとフライを冷まし、今度は口元ではなく若干高い位置に箸を掲げる。


 瑞穂がアゴを上げ、爪先立ちに食いつく。

 その姿が予想外に可愛かった。

「おいし」


 やはりルアーはトップウォーターに限る。

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