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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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軍人将棋セット【カレーライスと牛乳】

「軍人将棋を指してみたいんですけど」


「二人では指せませんよ?」


「え、そうなんですか?」

「軍人将棋には審判が必要ですから」

 先生が軍人将棋の盤を置き、駒を並べる。


「軍人将棋は相手の『総司令部』あるいは『大本営』と呼ばれる拠点を占領すれば勝ちです。駒はお互いに31枚ずつで計62枚あります」


挿絵(By みてみん)


「……隙間なく駒を置くのか。盤は8×8なのに駒数は将棋よりも多いわけだ」

「46枚でプレイするバージョンもありますよ? こっちは盤も8×6で、フルサイズよりも短時間で終わります」

 たださすがの先生も、2つのバージョンの軍人将棋は取り揃えていなかった。

 まあ、普段から軍人将棋やら各種ボードゲームを持ち歩いてるのがそもそもおかしいのだが。

「真ん中にシャンチーの川みたいなやつがありますけど?」


「それは『突入口』ですね。盤によっては川の絵が描かれているものもありますし、突入口が2つか3つしかないものもあります。敵陣に攻め込むにはその道を通るしかありません」


 攻め込めるルートが決まっている分、戦略が求められそうだ。

「それで審判っていうのは?」


「軍人将棋は普通の将棋のように無条件で駒を取れません。古将棋の貫通駒のようにそれぞれ格があって、相手よりも格が上なら駒を取れますが、格が下ならこちらから相手のマスへ攻め込んでも逆に取られてしまいます」


「え、自分から仕掛けたのに取られるんですか? それじゃあ迂闊に攻められないんじゃ……」

「いえ、軍人将棋は『駒を裏返して』指しますから。相手の駒が何かわかりません」


挿絵(By みてみん)


「つまり攻めなきゃ相手の駒が何なのかわからないってことか……」

「はい。相手の駒がわからないから審判が判定を下すわけですね。ただどうしても審判なしでプレイしたいのなら、フランスの『ラタック』のように『相手と戦う時は駒を表にして判定し、以後その駒は表向きのままプレイする』こともできます」

「じゃあ今日はラタック方式でいきましょう」

「では駒の説明を。強さの格は階級で決まります」


『大将>中将>少将>大佐>中佐>少佐>大尉>中尉>少尉』


 短くまとめれば『将官>佐官>尉官』だ。

 比較的わかりやすい。

「司令部を占領出来るのは『将官』と『佐官』だけです」

「将官と佐官を全部取られたら負けか……」


「さすがに将官と佐官が全滅することはめったにありませんよ? とりあえず大将さえ残しておけば司令部は占領されにくくなりますし……。ただ、大将もしくは元帥を取ったら勝ちというバージョンもありますね。このバージョンには元帥はありませんが」


「駒の動きは?」

「これです」

 駒の動きを張り出す。


将官・佐官・尉官・スパイ


 ●

●官●

 ●


 スパイは最弱の駒だが、大将を倒せる唯一の駒でもある。


タンク(戦車)


 ●

 ●

●タ●

 ●


 佐官・尉官・騎兵・スパイに勝てる。


騎兵


 ●

 ●

●騎●

 ●


 工兵とスパイにだけ勝てる。


工兵

 飛車と同じ動き。

 タンク・地雷・スパイにだけ勝てる。


飛行機


 ●

 ●

●飛●

 ●

 ●


 左右には1マスしか動けない飛車。

 将官以外の全ての駒に勝てる。

 突入口を飛び越えて敵陣に攻め込むことが出来る。


地雷

 動けない駒。

 飛行機と工兵以外の駒が地雷を踏むと爆発する(相打ちになる)。

 ただし地雷は突入口の出入り口に配置することは出来ない。


軍旗

 動けない駒。

 後ろにいる駒と同じ強さになる。

 ただし後ろにいる駒が敵の場合、同じ強さにはならない。


「駒は自分の好きなように並べていいんですよね?」

「はい。位置が決まっていると、そこにいるのが何の駒かわかってしまいますから」

 駒を裏返しにしてボードに並べていく。

 重要なのは地雷。

 これをどこに配置するかだ。

 敵がこちらに攻めてくるには突入口を通過するしかない。

 そこから総司令部まで進むルートはある程度限定される。

 突入口は4つ。


 予想進路図に地雷を設置し、残り一つを総司令部に置くか?


 総司令部に地雷を設置していれば一回だけ占領を阻止でき、運がよければ占領しに来た将官・佐官も倒せる。

 おそらくこの配置がセオリーだろう。

 もう一つ重要なのは軍旗だ。

 軍旗は後ろにいる駒と同じ強さになる。

 地雷にするのはもったいない。

 置くならできるだけ勝率の高い駒だ。

 軍旗は動けない駒で、後ろにいる駒も軍旗の能力を発動させたいのなら安易に動かせない。

 つまり攻めに向いている強い駒を後ろには置けない。

 攻めに向いている駒はなんだ?

 おそらく勝率の高い中将だ。


 一番強いのは大将だが、ラタックだと途中で正体がバレてしまうから、大将で攻めると最弱の駒スパイに狙い撃ちされてしまう。


 だから大将は守りの駒にして、軍旗の後ろに置くのが最適なはず。

 スパイは弱い駒だから、こちらまで攻め込んでくる可能性も低い。

 ……一番の問題は、俺がそういう風に考えているであろうことは先生に読まれているということ。

 いかに初期配置で先生の裏をかくかだ。


 勝負はもう始まっている。


 セオリー通りに配置するか、裏をかくか。

「……これでいきます」

 裏の裏は表。

 結局配置はセオリー通りにした。

「そろそろ昼時ですね。一局指す前に腹ごしらえしましょう。オーダーは?」


「海軍カレーをお願いします」


「あいよ」

 海軍カレーといえば金曜日だが(ずっと船にいると曜日感覚がなくなるので、金曜日をカレーにしているらしい)、むろん土曜日に食べても問題はない。

 それに相撲部屋のちゃんこと同じで、船ごとに味が違うのでこれが海軍カレーだというレシピもない。

 強いていうならサラダと牛乳が付き物(ビタミン不足で脚気にならないようにしているらしい)ということだろう。

 うちのカレーは市販のルーを使わない手作り。

 ターメリック、ハラペーニョ、シナモン、カルダモン、パプリカ、コリアンダー、サフラン、チョコレート、ガラムマサラ。

 もちろん玉ねぎも忘れてはいけない。

 あめ色に炒めた玉ねぎはカレーにコクを与える。

「お待ち」

「給食を思い出しますね」

「たしかに」

 こういうがっつりした飯に牛乳だと、小学校の頃の給食を思い出す。

 給食では明らかに牛乳と合わないものがあったが、カレーは安定の美味さだ。

「ではラタックを始めましょう」 

 序盤は尉官やタンク・騎兵のような弱い駒を当て、先生の駒の正体を特定したが、こちらも攻め駒の中将を特定されてしまった。

 中将に勝てるのは大将と地雷だけ。

 慎重に相手の大将と地雷を見極めよう。

 あの駒はまだ一度も動いてない。


 おそらく地雷だ。


 工兵は弱い駒だが機動力があり地雷を除去できる。

 あそこへ進ませるべきか?


 いや、弱くても地雷除去ができる工兵を正体が不明瞭な駒にあてるべきじゃない。


 当てるとしたらやはり弱い駒の尉官・タンク・騎兵。

 もしくは地雷にも勝てる飛行機。

 弱い駒は序盤で捨て駒にしてしまったから飛行機だ。

「残念でした」

「げ」


 全く動かなかったのは、地雷に見せかけて工兵や飛行機を誘い込むための罠か。


 あえなく少将に飛行機を撃墜される。

 というか、飛行機を撃墜できる少将ってなんだ。

 かの有名な洋画『乱暴』だって、ボウガンでヘリを撃墜するのがやっとだぞ。

「それは地雷ですね」

「ちっ」

「それも地雷です」

「ぐ!?」

 2連続で前線の兵士が爆死する。

 だが残りの地雷は一つ。

 ここは思い切って工兵を総司令部に突入させよう。


 工兵や飛行機では総司令部を占領できないが、総司令部を守る駒が地雷なら安全に撤去できる。


「それは大将ですね」

「うああ!?」

 総司令部を守るのが大将ということは、あそこまでスパイを進ませるか、こちらも大将を差し向けて相打ちにするしか占領する方法がない。

 手数がかかりすぎる。

「駒数が少なくなってだいぶ駒の正体を特定しやすくなりましたね。おそらくこれは地雷、こっちも地雷ですね」

「げ」

 工兵で地雷を撤去される。

「そして2つ並んでいるその駒は軍旗と大将、総司令部を守るのは地雷です」

 瞬く間に総司令部まで掃除されてしまった。

 地雷掃除人マインスイーパ恐るべし。

「……なんでそこまで読めるんですか?」

「経験のなせる技ですね」


「年の功か」


「……歳?」

「あ」

 しまった。


 ただでさえ盤上で踏みまくったというのに、30を目前に控えた独身女性に年齢の話題を出すという特大地雷。


 ゲームでもリアルでも、地雷の撤去は難しい。


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