デジタルボードゲームセット【ソフトクリームとメロンソーダ】
参考ゲーム
いただきストリート
「『金太郎電鉄』の他にボードゲーム的なデジタルゲームはありませんか?」
「ボードゲーム的なやつっていうと『いただきアーケード』かしら」
「どれ……」
説明書をパラパラとめくってみる。
「物件に増資に株……。ようするにカードのない金鉄だな」
「だいたいそんなもんね。最初に既定の金額に到達してゴールしたプレイヤーの勝ちだし」
「マップがせまいデス」
「周回前提だもの」
「周回?」
「このゲームでは目的地が5つに固定されてるの。その内の4つが『チェックポイント』。この4つのチェックポイントを通過してスタート地点の『ゴール』に戻ったらお金がもらえるの」
△□□□□□△
□ □ □
□ □ □
□□□○□□□
□ □ □
□ □ □
△□□□□□△
マップの例
○=ゴール △=チェックポイント
「たしかに周回前提ならマップはこれ以上広くしにくいわな」
「ボーナスをゲットできるのは最初にゴールしたプレイヤーだけデスか?」
「順番は関係ないわ。通過さえすれば誰でもボーナスもらえるから。ゴールしたらまたチェックポイントを回ってゴールに戻るの繰り返し。序盤はこのボーナスが重要ね」
「貧乏神は?」
「なし」
「素晴らしいゲームですね!!!」
同感だ。
「あとは実際にやりながら説明したほうが早いわね。……というわけでソフトクリームとメロンソーダ」
「あいよ」
これに細かい氷とさくらんぼがあればクリームソーダの完成なのだが……。
ソフトクリームとメロンソーダを別々に注文しているので、ソフトクリームにはコーンがある。
ということは、
「せい!」
「ふぁっ!?」
「やりやがった!」
メロンソーダにコーンつきのソフトクリームを真っ逆さまにぶちこんだ。
帽子つきの豪快なクリームソーダだ。
「一度やってみたかったのよね」
喫茶店でたまにあるメニューではあるが、実際にやるのは初めて見た。
インパクトはすごい。
「アリスにも同じメニューをぷりーず」
「あいよ」
俺や先生は無難にコーヒーフロートにした。
ソフトクリームではなくアイスクリームで、コーヒーは甘みを強く。
普段は苦いコーヒーなのだが、甘いものもたまには悪くない。
「負けた人のおごりね」
「望むところだ」
全員でクリームを突きながらプレイする。
ころころ
サイコロを振り、出た目の分だけ進む。
だいたいどのマスにも1つ物件が存在していた。
基本的に1エリアは4マスで、4つの物件しかない。
買える物件は現在自分のいるマスにある物件だけ。
自分の物件があるマスに自分以外の誰かが止まれば『買い物料』を取れる。
貴重な収入源だ。
「……どの物件を買えばいいのかわからん」
「序盤は停まったマスにあるのを買えば大丈夫。あとは『プレイヤーが必ず通る場所』と『人通りの多い場所』ね」
「必ず通るっていうと……チェックポイントやゴール周辺か。人通りの多い場所ってのは?」
「たとえばここ」
□△□ ××× □△□
□ □ × × □ □
□ ■ ■ □
□ □ □ □ □ □
□△□ □○□ □△□
○=ゴール
△=チェックポイント
■=人通りの多いマス
×=人通りの少ない(通行する必要のない)マス
「あー、4つのチェックポイントを通過してゴールへ向かう場合、最低でもここを2回ずつ通らないといけないのか」
「そういうこと。ちなみにゴールの反対側にあるエリアは通行する必要のないルートだから、買ったり増資するのは向かない場所ね」
カードのような逆転要素の強いアイテムがないので、こういう知識がないと勝つのは難しそうだ。
「高額物件は買っておいたほうがいいんでしょうか?」
「エリアの最初の1マスなら高くても買っておいたほうがいいんじゃない? サイコロで1・2・3が出れば同じエリアに2件持てるし」
進行方向→
□□□□
↑
高額物件
高確率(サイコロで1・2・3)で同じエリアの物件を買える
「1つのエリアで複数の物件を買うと、物件の資産価値が上がるんですね。では買っておきましょう」
「マネーはどうやって稼ぐのデス?」
「インサイダー」
「は?」
「自分の買った物件のエリアの株をたくさん買って、物件に増資して株価を上げるの」
1 物件を買う
2 物件の関連株(買った物件のあるエリアの株)を買う
3 物件に増資して株価を上げる
※1と2は逆でもいい。
「……なるほど、インサイダー取り引きのような戦術ですね」
現実では非公開情報を利用してインサイダー取り引きをする。
たとえば会社の人間が、まだ世間に公表されていない『確実に株価が上がる情報(新製品の発表など)』を利用して株の売買をすることなどをインサイダー取り引きと呼ぶ。
もちろん株価の下がる情報を利用して儲けるのもインサイダーである。
「このゲームは完全情報ゲーム。つまりすべてのプレイヤーに情報が公開されていますので、厳密にはインサイダーではありませんが」
「アウトサイダー取り引き?」
「違いマス」
いかにもバカが考えそうなネーミングだ。
株で儲けるために物件を買って増資する(自分が増資するので株価が上がることは分かっているから株を買う)という意味ではインサイダーといえなくもない。
「同じエリアの物件を買うほど増資できる金額が増えていくわよ」
「増資して物件の価値を上げるほど株価が上がるわけだから、最低でも2件、できれば3件は買っておきたいな」
だが一度マップを回り始めると、いま進んでいる進行方向にしか進めない。
『進むことはできても戻ることはできない』のだ。
何マス進めるのかもサイコロ次第。
狙って同じエリアの物件を買うのは難しい。
もし他のプレイヤーに物件を買われてしまった場合、金銭や物件で取り引きするか『5倍買い(5倍の金額を払って買収する。拒否権はない)』するしかない。
「増資しとくか」
5倍買いされると困るので、重要な物件は増資しておく。
100円増資すれば5倍買いする場合+500円必要になる。
200円なら1000、300なら1500。
防衛策には欠かせない要素だ。
ただ増資すると株価が上がる。
株を買う前に株価を上げると、株をたくさん買えなくなるだろう。
判断の難しいところだ。
「んー、株は一度に99株しか買えない。株価を上げて儲けるなら198株は欲しいな。株を10株買うと株価が上がる。10株でも99株でも、一度の売買で上がる株価は同じか……」
「5株買っておくのもいいわよ」
「どーしてデスか?」
「誰かが他のプレイヤーの物件を踏んで買い物料を取られた時、その物件のあるエリアの株を持ってると『買い物料の20%を配当でもらえる』の」
「……20%か。微妙だな」
まあ、序盤は金欠なので1円でも多くほしいところだが。
とりあえず株価は上がりやすく下がりにくく、配当をもらえるのはわかった。
買える時は買っておいたほうがいいだろう。
序盤はとにかく停まったマスの物件を買い、1ターンでも早く一周してゴールする。
所持金がマイナスになると株か物件を売らないといけなくなるので注意。
ころころ
「お、3件目だ!」
同じエリアに3件目の物件を買った。
1エリア4マス中、3マスが俺のものになったので、他のプレイヤーが俺のマスを踏んで買い物料を払う可能性も高くなった。
増資できる金額も増えたので一気に株価を上げられる。
「増資だ!」
「ありがとうございます」
「え!?」
なぜか先生の資産が俺よりも増えた。
「『相乗り』ね」
「こんなこともあろうかと株を買っておきました」
「げ」
他のプレイヤーの買った株もちゃんとチェックしておくべきだった。
仮にそのエリアに物件を1つも持っていなくても、株さえ持っていれば儲けることができるのだ。
他人が増資することを読んで関連株を買っておき、株価を上げさせて儲ける。
それが相乗りらしい。
応用すると他人に儲けさせないために相乗りする(株価を上げると相手も儲けてしまうので増資できない)こともできる。
奥が深い。
「じゃあ10株売りしよっと」
「みーとぅー」
「ぐ……」
瑞穂とアリスが10株ずつ売って株価を下げた。
10株買うと株価が上がるのだから、とうぜん10株売ると株価は下がる。
株価が高く、株をたくさん持っているほどダメージがでかくなる。
毎ターンこれをやられると辛い。
所持金がマイナスになり、株を売らないといけない場合は『株価が下がらないように9株単位で売る』のがベストだ。
とことん株の扱いが重要なゲームである。
「ふふ、これで4件目。独占よ! さらに増資!」
「ばいしゅーしマス」
「5倍で買ってくれるならそこまで痛くないけどね」
「……誰かが踏んだらそこでゲームオーバーですし」
勝利条件にもよるが、今回は破産者が一人でもでるとその時点でゲーム終了だ。
増資された高額物件を誰かが踏むと致命傷なので、5倍買いもやむなし。
それに株で10000円儲けるのと、買い物料で10000円取るのとは内容が違う。
同じ金額でも、株の場合はただの10000円。
買い物料の場合は相手に10000円払わせて、自分が10000円儲ける。
見方によっては2倍の破壊力だ。
5株持っていれば配当で2000円もらえる(買い物料を割引できる)ので、ありがたいこともあるが……。
破産=ゲームオーバーだとやはり怖い。
「こっちも増資だ!」
「では先生も」
「アリスも増資しマス」
全員が自分の物件を増資する。
踏んだら負けの運ゲーだ。
運の勝負なら負ける気がしない。
別に自分の運勢に自信があるわけではないが、
ころころ
「ぎゃー!?」
「ごちそうさまです」
「ゴチになりマス」
「うぅ……」
運勝負に弱い人間がいると、なにかとありがたい。
「4人分で2000円だな」
「……たまにはかわいい彼女に増資してもいいんじゃない?」
なぜ定期的に増資しているのに、俺の中のこいつの株は下がり続けているのだろう。




