06-剥ぎ取りの仕方
パルマの街を両手でウルフを抱えながら歩く。軽く身体強化をかけているから「ひょひょいのひょい」である。歩いていると街の住人があからさまに俺を避けているように見えるのだ。
そのまま冒険者ギルドの扉をくぐった。
「あれは、新人の・・・」
「あまりにも早すぎるだ」
やっぱり早かったっぽい。
兵士が驚いていたが、この速さは常識の範囲にはなかったらしい。
受付係の所は列が出来ているから、少し回りを見渡してみる。
どこかで剥ぎ取りをしてくれるらしいんだが、どこだろうか。
「オーイそこの小僧!ァタシに用かい?」
「ん?」
声のした方に目を向けてみると髪の毛を団子のように纏めたお婆さんが顔を覗かせていた。
「俺か探してるのは、剥ぎ取りをしてくれる場所なんだが。お婆さんがそうなのか?」
「そうさね、ケモノの臭いがしたからァタシの出番だろうと重い腰を上げてきたんだよ。さあ、付いてきな」
「独特な雰囲気を持つ方だな」
有無を言わせないお婆さんの雰囲気に気圧されながらも俺は顔を覗かせていた扉を目指す。扉の上に『剥ぎ取り依頼はこちら』と書いている場所を抜けると、綺麗な広間に出た。
どうやらここで剥ぎ取りを行うらしい。お婆さんの手には刃渡り十センチのナイフが握られていた。ナイフの刀身はしっかりと手入れされているようで天井の照明が当たり、反射した光が視界を一瞬奪っていった。
「依頼のケモノはそこのウルフ二匹いいのかね」
「それでいいです。魔石を回収して、部位毎に剥ぎ取りをしてください」
「銅貨一枚」
「依頼の報酬から引くことは出来ますか?」
「出来るよ、それじゃあんたはァタシの真似をしながらもう一匹をするんだよ」
「え?お婆さんがしてくれるんじゃないのか?」
「ァタシはお婆さんじゃないよ!フィフィ婆だよ!今度からそう呼びな!」
「お、おう。それでフィフィ婆剥ぎ取りは・・・」
「年寄りを働かせることに心を痛めないのかえ?」
「・・・分かりました。よろしくお願いいたします」
どうしよう。
決めてしまったのだからこれ以上言い訳するつもりはないのだけれど、フィフィ婆の姿を見て心を痛めることはない。何故ならば、フィフィ婆がウルフを見たときの目は狂喜を孕んでいたように見えるからだ。
そしてその瞳が何故か同じように俺を見ているのだ。
「まず、血抜きから教えてあげようじゃないのさ」
「ここを、こうですか?」
「違うよ、ナイフの扱いは基本的に心得てるみたいだけど・・・・・・・の流れを見れなければならないよ・・・・・・・腹から臓物を傷付けないように・・・・・・・」
「おお、フィフィ婆凄いな」
「こんなのはガキでも出来ることだよ!あんた今まで何してたんだい!」
時折説教をされながらも丁寧に血抜きの仕方を教えて貰った。そしてそのまま剥ぎ取りにうつった。そして部位毎に剥ぎ取りを終え魔石を回収した。
フィフィ婆の剥ぎ取りした部位に比べると俺の剥ぎ取りをした物は皮膚がギザギザしていたりと品質が悪かった。
「これが魔石・・・」
この石から魔力を感じる。
当たり前なことを思う。
「ウルフの部位はァタシが責任を持って保管しておく。早く受付で依頼達成の報告をしておいで」
「ありがとう、ございました!」
剥ぎ取りには体力も精神力もかなり消費するらしい。息が上がりながらもフィフィ婆にお礼をする。部屋を出るときに声をかけられた。
「ァタシに早く剥ぎ取りをさせておくれ」
全くフィフィ婆は返り血を浴びていない。真似をしていた俺でさえ飛沫が飛んできたのだが、全く汚れていない姿に尊敬の念を抱いた。
「近いうちに、また利用します」
ここに妙な師弟関係が生まれました。
俺は剥ぎ取り部屋から出ると受付の列に並んだ。服の端に飛んで付いてしまった血飛沫がどことなく目立ってる気がする。
「新人、剥ぎ取りをさせられたんだな」
「フィフィ婆はたまに剥ぎ取りをさせるからな」
「老い先短いし、楽したいんだろうよ」
「「ギャハハハハハハハ」」
不快なことしか言えないのかよ。
俺はとても勉強をさせてもらえたと思っている。剥ぎ取りは小さい子でも出来るってフィフィ婆は言っていた。
確かに誰にでも出来るのではあれば、そう感じてしまうのも納得だ。しかしフィフィ婆のレクチャーを聞いていて感じた、当たり前のことが難しい事。
教官のレクチャーのおかげで基礎は大分良かったみたいだが、構造の違いに手間取った。魔力なんてものがあるから、身体の発達具合が違いすぎた。
なんて考えてたら、受付の順番が回ってきた。
「依頼達成の報告をウルフ二頭の討伐を完了しました。これが魔石二頭分です」
「ユメナシ様ギルドカードの提出をお願いします。はい、魔石の確認をしました。これにて、依頼達成となります。ご苦労様でした。それとフィフィ婆様より剥ぎ取り依頼料の請求を承りました。依頼達成の銅貨五枚から銅貨一枚を差し引いて銅貨四枚、お確認ください」
丸く茶色い硬貨を見ていた。これがこの世界のお金か。
しっかり九枚あることを確認して、受け取った。
「それから依頼で討伐したウルフの解体部位はフィフィ婆が責任を持って管理しておくとのことです。ギルドが確かな値段で依頼主に売却しますので、加算はギルドカードの方にしたいのです。これを機にギルドカードに預金機能を付けませんか?」
「例の口座の件ですね。よろしくお願いします」
「話が早くて助かります。魔力は人により違うものですので、軽く魔力を放出するだけで良いですよ。それの管理を含めての依頼料二割を戴くのですから」
受付係はチラリと奥の部屋を目配せしながら苦笑いを浮かべた。
それに対してこちらも苦笑いを浮かべるしかない。受付係の指定する水晶に魔力を流す。それにギルドカードをかざしている。微かな光を発してそれは収まった。
「口座作成を完了しました。加算額はこちらに振り込んでおきますので残高を確認したい場合はギルドの受付をご利用ください。ギルドカードを返却します」
それからギルドカードを返してもらってから、ギルドホールの椅子にもたれて今後の事を考えた。衣食住をなんとかして確保したい。
銅貨四枚じゃたかが知れてるよなぁ。
このペースなら何度か依頼をこなせるかもしれないな。
仕方ない。金を稼ぐには今はこれしかないんだ。地道に依頼を消化していくとしよう。
もう一度Fランクの依頼を見に行くのであった。