間章-イルナと賢者さま
皆さん、仕事は遅刻しないようにしましょう。
~イルナside~
今日は案内係の仕事がお休みでした。なので、パルマの森で薬草を摘むことにしました。
私のお母さんは病気になりやすい体質でよく風邪を引きます。
そのため特効薬とまでは行かなくとも風邪の菌を抑える薬を常に持っておかないと行けません。
薬を買うだけでもお金がかかってしまうので、薬草はパルマの森の浅瀬で一週間分をかき集めるのです。
家を出るときにお母さんから言われました。
「少し前に流行り病が起きているから、薬草が無いかもしれないよ。その時は無理をしないで帰ってくるんだよ、ケホッ!ゴホッ!」
なのです。
流行り病が起きているから、薬草の価格が高くなっているからお店で買いたいですけど買えません。
家に置いてある薬はあと二日で切れます。だからパルマの森で薬草を集めるのも今日しか出来ないのです。
門番のお兄さんはパルマの森に行くときにいつも会うので仲良しさんです。
「気を付けてな」
「気をつけるのです!」
お兄さんに頭を下げるとお礼を言ってから駆け足で向かいました。
パルマの森に着いたけど、いつもの場所にあるはずの薬草がありませんでした。
薬草は品不足?というのをお店の人が話しているのを聞いたことがあります。困りました。引き返そうと思ったのですが、お母さんのことを考えると無理でした。
そのまま真っ直ぐ進むのです。
「あった!ここにも、ここにもあります!」
薬草がたくさん生えている場所に運良く辿り着くことが出来ました。
一週間分を摘み終わると帰ることにしました。なのですが、振り返ると道が分かりませんでした。
いつもの場所よりも深い深い所まで来てしまっていたのです。
帰れなくて、怖くて、お母さんに心の底から謝りました。
ごめんなさい、ごめんなさい。
「どうしよう・・・」
そうしていると雨が降りだしたのです。木の影で雨を避けながら待っていたら「ガルルッ」と声が聞こえました。
パルマの森の深い深い所には魔物が出るって門番のお兄さんか言っていたのを思い出しました。
「お母さん・・・」
お母さんのために薬草を持ち帰ると決めて、立ち上がりました。それからきょろきょろと回りを見ながら歩いてました。
「ぐにゃ」と何を踏んだのかなって思ってたら、それは尻尾でした。
「ガルルッ」
「う・・・ウルフだ。逃げなきゃ、逃げなきゃ!」
「ガウァアア!」
「きゃ!転けてしまいました・・・あっ、お母さんの薬草が」
「ガッ!」
背中からウルフに体当たりをされてしまいました。吹き飛ばされてころがりました。
「いや、いやああ、うわああああ!」
なにふりを構わないで逃げてたのです。
でも追い詰められてしまいました。
こけて起き上がれない。もう終わりと思ったときあの人は現れました。
「さーて、一発噛ましてやりましょう。土よ、刺となれ」
誰かの声がしたと思いました。その時と同じ時に目の前のウルフが突き出てきた地面に体を刺されて死んでました。
「・・・」
「大丈夫だったか?」
優しく手をさしのべてくれた人は黒髪であまり見たことの無い顔付きをしていました。生きるのを諦めてた私は敬語を使うのを忘れていました。
「私死んでないの?」
「大丈夫そうだな。生きているよ」
慌てて言葉遣いを直しました。もし、貴族様なら大変失礼になってしまいます。
「あっ、こんなに強力な魔法が使えるなんてもしかして貴族様ですか?!でも助けていただいたのにお礼のお金なんて持ってなくて」
「気にしなくて良い。貴族じゃないからな?そこは念を押しておく。俺に感謝してくれてるならこの先にある街を案内してくれれば良いよ」
貴族様じゃないのに、魔法が使える人。
そして優しい人でした。
案内係として自己紹介をしておかなければいけないと思いました。
「はい!私はイルナっていいます!この先のパルマの街で案内係をしてるのでお役にたてると思います!」
私が案内係と聞いたときの優しい人の顔は少し悲しそうでしたが、すぐに笑顔で自己紹介を返してくれたのです。
「よろしくイルナ。俺は夢無 司だ。ツカサって呼んでくれ」
「分かりました。ツカサ様」
「おいおい、ツカサ様はやめてくれ。さん付けの方が有難い」
ツカサさんという人でした。
ツカサさんは雨で体が冷えるからと木の影に移動しました。
「さてと、イルナに聞きたいんだがこのウルフだっけか?コイツは何処かで買い取ってもらえるのか?」
冒険者ギルドで買い取れるのです。
買い取ってくれるのです!
「パルマの街にある冒険者ギルドなら持って帰れば素材を買い取ってくれますよ」
「よし、そこで買い取ってもらうか。問題はどうやって持って行くかってなるんだが、魔力を編んでみるか」
「魔力を、編む?」
「ああ、魔法を使えるイルナ達からしたら当たり前だろうけどね。魔力を可視化して袋状にしてみようか、と。これが結構きついんだろうなあ」
ツカサさんは魔法使いなのでしょうか。
これまでに見たことある魔法使いとはやや違って見えました。
魔法を自由自在に扱っているようです。それにこれは魔法?
少し失礼だと思ったのですが、ツカサさんは常識的な魔法を使わないのです。そう思うことにしたのです。
「魔法を使えるのは貴族様や教養のある人ばかりです。なのでツカサさんのように強力な魔法が使える人は、誰もが貴族なのではないのかな?と思うと思うのです!」
「・・・まあ、なんとかなるだろ」
やっぱり驚いてました。そして笑ってたのです。
私の知っている魔法とは火や水とか凄いのです。
見ててすごいと思うのです。
でも、これは驚くのです。魔力が見えるのです!
それが絡まって結びついて袋のようになりました。
それにウルフを入れると、担ぎ上げました。
「す、凄いのです!これで貴族様じゃないなんて、信じられないです!」
「そんな風に言われると照れるからやめて」
「・・・」
貴族様じゃないけど、魔法が使えるツカサさん。まるで絵本で読み聞かせてもらった賢者さまのようでした!
パルマの街に案内してほしいと言われたのですが、場所が分かりません。するとツカサさんがあっちから大きな反応があると言いました。私の来た道と反対側でした。
それからパルマの森に来た経緯を話しながら、ツカサさんをパルマの街の門番のお兄さんの所に案内しました。
私が案内されたような気がするのです。