01-魔力切れ
「ドスン!」
またこれか。あの偉そうな男によるものだろうが、転送後のことが雑になっていないだろうか。今回も痛みは少ない。つまり前回よりはあるということだ。全く。
小説とかそういうものと同じようにテンプレートに森のなかというわけか。木々の隙間から射してくる光は天気が晴れていることを示している。テンプレートに添うのであればまず人のいる町へと赴き、情報を集めなければならない。それから、魔法!それから冒険者ギルドだな。冒険者ギルドあるかなぁ。
それにしても、転送が終わってここについてから体の内側を何かが這っているような気がしてなら無いのだ。気持ち悪くて、吐きそうだ。これの心当たりは一つだけある。たぶんこれが魔力だ。体の内側をこれまで巡ることの無かったものが、巡っているから気持ち悪いと感じてしまうのだ。きっとそうに違いない。
早く慣れてしまいたい。出発早々から幸先が悪い、体がだるくて重い。特に心臓のやや下らへんが気持ち悪いと感じる。そこから心臓が血液を送り出すポンプ役をするように、同じ働きをしている器官があるように感じられる。そいつが体をめぐっている魔力の大元だ。
体を駆け巡る魔力をどうにかしたい俺は、魔力を外に何とかして出すことが出来ないか考えた。地球生まれの妄想力豊かな俺にとっては造作もないことだった。今体を巡っている魔力を無理矢理手のひらから吐き出せば良いのだ。とりあえず、やってみよう。
体を駆け巡る魔力に命令をする。駆け巡る魔力の出口が掌であることをイメージした。手のひらには小さな管があると考えれば良い。そこから体内の魔力が漏れ出ていると。それは成功した。体の倦怠感が少し軽くなったのだ。
「ふう、次はこれを球状にしてみたいな」
頑張れ、頑張るんだ俺。こんなところで死ぬわけにはいかないだろ?教官のしごきを思いだせえええええ!それを思い出したのが運の尽きだった。体を恐怖で覆われる謎の感覚により汗が吹き出したのだ。
体内の魔力を外に放出して球状にする。それだけを考えているときに恐怖に襲われてしまい、加減もなにもなくなっていた。どうすれば良いのか分からなかったが、なんか出来た。
体の倦怠感が増えた。解せぬ。
俺の回りをふわふわと漂うのは体内の魔力が体のあらゆるところから飛び出したと思われる無数の小さな球状のかたまり。そして体を駆け巡る魔力が急に遅くなる。たどり着く答えは一つ。
犯人はお前だ!
架空の人物を思い描き、空に向かって某名探偵のように指を指して言った。
「・・・・・・?」
そこにはいるはずもない、架空の人物がいた。
首から下が真っ黒の人の癖に、頭の上には日本語で《魔力切れ》と縦文字にかかれた顔のやつがいた。
それを見た瞬間、体の倦怠感が最高潮に達して意識を失った。
(魔力切れ・・・じゃねええええ!お前はなんなんだぁぁぁぁ!)
それを言葉にすることは出来なかった。
「ポツリ、ポツポツ」
何かが頬に当たった。それに反応するように俺は目を見開いた。
「雨・・・降ってきたのか」
地面にうつ伏せたまま呟いた。
「本当になにやってんだ俺」
目を覚ますと、気を失う前に感じていた倦怠感はまるでなく意識してみると魔力が体を循環しているなと、当たり前のように感じた。きっとあれは魔力が俺の体に馴染むようにしていたんだろうな。それを無理矢理放出して、気を失うとかアホらしい。でも寝ている間に魔力は正常に馴染んだようだし、これで倦怠感とおさらばなら良いか。
自分の体をよく見ると見覚えの無い服装だな。ジャージみたいな感じだ。この世界の服装だろうか、雨で濡れてるから動きにくさが半端無い。風呂に入りたいな。この世界、風呂あるかな。
とりあえず先に進もう。
雨に濡れながら進むのは嫌だが、寝床となる場所を確保するために歩かなければならない。横穴のある岩場とか最高だな。教官と過ごした二日間を思い出すな。
よく分からない生物を食べて、体に毒への耐性をつけさせるのだ。とか訳のわからないことをぬかしてくるから地獄の日々だった。あれで、死なないとわかっていても死ぬと思った。
何て言うサバイバルをしてた時代があったんだ。軽く回想していたら五分、十分と経過していた。体が完全に冷えきるのも時間の問題だし何とかして凌ぎたいところだ。
「魔法でなんとかなら無いだろうか」
なんたって魔法だしな。奇跡の力だしな。
さっき気を失う前に出てきた《魔力切れ》の人の足下には影があった。つまり実体があったということだ。炎を出せば、雨は当たる。理屈的にはそういうことだ。
どうしたら魔法が出せるのか、問題はそこだ。《魔力切れ》の人は想像したことと考えていたことがごちゃ混ぜになって出てきた俺の魔法だと考える。さらに必要なのは魔力。この三つが魔法を使うために必要な条件と考える。
さて、実践だ。
むう、失敗だ。
はぁ!「パリン!」失敗だ。
失敗だ。失敗に失敗を重ねるとこ数十回、成功はしなかった。俺が魔法で生み出そうとしているのは傘だ。とにかく傘に近いものを作ろうとしている。
魔力で薄い膜を作るということまでは上手くいくのだ。ただこれは放出という魔力を供給し続けている状態にあるので、再び気を失うわけにはいかないからこれは失敗だろう。
魔力をとどめたい。供給し続けなくて良い方法。もしくは最低限の魔力を供給するだけで済む方法だ。
(寒い・・・寒すぎる!)
なんでも良い、とにかく温まらなければ。近くの木陰で雨風を凌ぐことにした。なぜ最初からそうしなかったし。考えても仕方ない。枯れた木の棒が落ちてる。運が良いな、魔法で火くらいは簡単につけれるだろう。
「ファイア」
魔力を高密度にして、拳ほどの火になるように想像する。淡い青透明色をした魔力が赤くなり、暖かくなり、熱を持ったのが分かった。これを木の棒に移した。
「成功した。良かった・・・。ん?焚き火は木の棒を燃焼することで発生する熱量で体を暖めてるだろうから、・・・おお!そっか、その手があったか!」
ただ放出するだけと、何かを介している時では魔力の消費量が違うのだ。焚き火への魔力供給は行っていない、なのに燃え続けている。だから何かを介して魔法を使えば何とかなるかもしれない。
よし、焚き火が出来る内に打開策を考えねば!
死後の世界でのしごきで死なないから死ぬかと思ったと言ってますが、何故なら彼らは既に死んでいました。