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近くを歩く猫の足音さえ完全に把握できる少年の五感でも感じ取られないような。まるで、次元を超えてそこに落とされたような『何か』は、丸く無機質な中が空洞の金属………。
それは、この世のものとは思えないほどに綺麗な、金と銀の華の装飾が施された少し大きな飴玉サイズの鈴だった。
少年の背後突如として現れた鈴は自然の摂理に逆らわず、そのまま加速して落下していき--、
「ッ!!」
すんでのところで気配に気づき振り返ったが時すでに遅し。
地面と接触しリンッと一つ澄んだ音が耳に響いた途端、幾戦の地獄を駆け回った少年の身体は、意志の命ずるのとは裏腹に脆くも崩れ落ちていった。
崩れ落ちた少年の身体は、さほど時間はかからずに近くに転がる鈴と共に薄れていき、やがて元々存在していなかったかのように掻き消えた。
街中で喧騒が、逃げ惑う人達の悲鳴が聴こえた。
悲鳴が上がった辺りの中心、街中の噴水広場の辺り一面はまるで何かに爆撃されたかのように大きく窪みができあがっていた。
人が逃げた筈の広場にはまだ充分に無数の人影があった。
いや、むしろ爆撃があったのを機に逃げる市民とはまた別の、迷彩柄の軍服を身にまとった武装化した軍人たちが集まってきていた。
規則正しく冷静な、正確で素早い足つきで今自分たちが一番敵視するものを取り囲み、目の前にいるたった一人の対象の逃がすまいとしていた。
しかし軍人たちの心境たるやその全員が並々ならない緊張感で押しつぶされそうだった。
目の前にいるたった一人のまだ幼さの残った端正な顔立ちの少年を前に、戦場で生き残る術を学び尽くした大人が--防弾チョッキやライフル銃などで完全武装した目標を確実に消すことに特化したプロが脅えているのだ。
その光景は誰が見ようと『異様』の一言に尽きたに違いない。
数十、数百人の間に流れる緊迫した空気。
永遠に続くのではないかとまで思えたそれを破ったのは数百の狩人ではなく、その獲物である一人の少年のほうだった。