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ぼくの話
気がついたら見られていた。
きっかけはアレだろう。
昼休みに早川とサッカーをしていた時のことだ。
早川の乱暴なパスのおかげで、ボールが彼女のとこまで転がっていった。
奴は一人で弁当を食っていた。
暗い奴。
今時珍しい、ただただ長い黒髪。
ガリガリに痩せた手足。
俯いた顔。
青白い肌。
いつもの癖でとっさに営業スマイルを作って、奴が拾ったボールを受け取った。
そう、思えばあの時からだ。
奴の視線を感じるようになったのは。
ふと顔を上げると、あの女がこちらを見ている。
陰湿な女に好かれるほど嫌なことはない。
声を掛けるわけでもなく、ただ僕を見つめ続ける奴の姿は、本当に気持ち悪かった。
「死ね」
「キモイ」
と通りすがりの生徒に囁かれるような女。
どうしてそんな女に僕が好かれなきゃいけないんだ!
この僕にそんな気持ちを寄せるなんて、おこがましいとは思わないのだろうか。
まさかこの僕が自分と釣り合っているとでも思ったのだろうか。
少しでも可能性があると?
この僕とお前が同じ人種だとでも?
僕があいつに殺意を覚えるまで、そう長くはかからなかった。