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18/37

#18

Loading……

冷や汗がつーっ、と頬を伝う。


……忘れていた。


これは、竜族のみが持つ特殊スキル、〈恫喝〉。竜相手に戦うときは、最も警戒すべきことなのに。

対象の制限はなく、只単にその咆哮を聴いた者の言動・移動を含む一切の行動を禁止する。つまりは、肉体的攻撃・防御は勿論、詠唱等も全てが禁じられる。

例え死霊グールや使い魔でも、果ては精霊までも同様の目に遭う。しかも不思議なことに耳がない者等も同じ目に遭う。


拘束時間は15秒。


15秒なんて随分と短く聞こえるかも知れないが、こういった戦闘等は1秒、いや、0.1秒が命取りとなる。

それは今もゲーム時も同じ。15秒なんて、滅茶ぐべっ


「……!」


突然、顔面に驚異的な痛みが走ったかと思ったら、そのまま後ろに弾き飛ばされていた。


地面で弾んで、宙を舞う。


周りから見れば、俺はさぞ美しい放物線を描いていることだろう。

視界の端に尻尾を振り切った黄色い竜が映った。ちっ……。


受け身も取れないままに、頭から着地。

瞬間、首に絶望的な痛みと音が走った。

ガリガリと頭皮が剥がれるんじゃないかというほど激しく頭部を擦りながら転がる。


と、途中で金縛りが解けた。

だがしかし、勢いが付いた身体は今更どうともしようがなく、そのまま壁に叩き付けられる。

例によって凄まじい勢いでHPが減っていく。


「翔!」


フィアが素早く詠唱を始める。


……あれ、なんかデジャヴ。


かなり減ってしまったHPは直ぐに上昇を始めた。助かった。


ビルが素早く駆け寄ってきて、大丈夫か、と言いながら俺を助け起こしてくれた。

「大丈夫……だ。多分」

「多分て……」

服をぱたぱたと叩きながら立ち上がる。

ぐいっと手の甲で口の辺りを擦ると、ベッタリと血が付いた。


「……くそっ!サラ、ボム、全力で殴れ!姫!隠れとけ!ビル!縛れ!」


サラとボムが頷いて、そのまま攻撃用意を始める。

ビルがぶつぶつと詠唱すると、突然、辺りに冷気が満ちた。

すぐに、冷気の渦から、氷が出来始める。

最初は小指の先程度のそれは金平糖のように見る間に大きくなって、すぐにボウリングボール程の大きさになった。


スキル、〈アイスプリズン〉。やはり行動制限スキルだが、〈チェーンバインド〉とは違い、移動制限だけでなく、言動制限もかかる。しかもその制限事項はいずれも禁止レベルの束縛力を持つ。

即ち、〈恫喝〉とよく似たスキルで〈恫喝〉を防ごうということ。毒を以て毒を制す。〈アイスプリズン〉の耐久力は〈チェーンバインド〉に並ぶ程度で、隙を作り出すことぐらいは出来るだろう。


発動まで5秒。


サラがその間に、〈波動〉による連撃を叩き込む。

その攻撃を喰らいながらも、ドラゴンが口をばっくりと開けた。

その口の中から、コオオ……という音と共に眩いばかりの光が漏れ出す。


「げっ!やっば!」


サラが反射的にばっ!と伏せると、その上すれすれをばちばちと電気を纏ったぶっとい光線が走った。

その光線は壁に衝突すると、とんでもない孔を穿ちながら走り抜ける。

光線が近くを通ることで生まれた物凄い風が顔を煽る。実際にはあれが光線なのかは謎だが。

空いた孔の向こうには、壁の向こう側に偶々開いていた空洞の姿があった。


「……」


立ち上がると、冷や汗をだらだら流すサラ。

直撃すれば即死だろう。死なずとも、大ダメージを喰らう上、〈麻痺〉のバッドステータスが追加されてしまう。


サラの上を、幾つかの氷塊が飛んでいった。

「〈アイスプリズン〉!」


ビルが叫ぶ。

今や乗用車程度の大きさは優にある氷塊が次々にドラゴンにぶち当たっていく。


──ゴァアアァァァアァアアア!


喧しい咆哮を上げるドラゴンだが、今度の分はどうやら〈恫喝〉ではないようだ。身体は縛られなかった。

ぶち当たった氷が次々と合体して一体化していく。

そのまま暫くすると、ドラゴンは氷山のようなものに身を囚われた。


………………


「……そもそも竜とは世界を統べる絶対の王者であります」

カツン、と杖を鳴らしながら、レベル99である〈賢者〉の翁は、玉座にどっしりと構える王に告げた。


タムスダム王国タムスダムシティ中心にある、高く聳え立つ王宮。

その最上部に、王の間は存在した。


「圧倒的な知と武。そのいずれも、我々ノンプレイヤーが持たざる力、王者の器です。

ですが、彼等に無い『道具を作るための道具』を作るということが我々に出来たからこそ、我々は竜と対等の地位に立ち、時には彼等を従えることすらも可能でした。

これは即ち『Bug』──竜という絶対の存在に立ち向かえる我々を、自然は何故か作り出してしまった。

ですがそれでも、竜とはノンプレイヤーを遥かに凌ぐ存在に変わりはありませぬ。彼等にとって、我等など虫けらにも劣る存在でしょう。先ほど、立ち向かえる、と言いましたが、それすらも彼等から見てみれば蚊に咬まれる程度の事としか認識していないかも知れない。

だからこそ竜は、昔から崇拝の対象として、時には神にも匹敵する存在として、我々は認識してきました」

滔々と蘊蓄を垂れ流す老人。


「……」


だが、それに王は一切興味を示さない。

どころか、ふわぁ……と欠伸を掻いた。

翁は渋い顔をすると、続けた。

「だからこそ、サー国は脅威であるのですよ。我々には想像も出来なかったし、先ず、その発想は無かった。

まさか、その竜に匹敵する迄のからくりを造り出すとは……」

最初から何処か苛々とした素振りを見せていた王は、

「問題としているのはそこではない!機械竜よりも今はよっぽど、我が孫娘の方が大事なのじゃ!何が勇者じゃ!只の人拐いではないか!」

とこめかみに青筋を浮かべつつ、怒鳴った。

そんな王を見て、翁はふうっと溜め息を吐くと、

「落ち着きなされ。

王の気持ちも分かります。ですが、待てば海路の云々という言葉も有ります。

信じましょう。彼等は、あのプレイヤー達は──」

そこで翁は何かを躊躇うかのように一度言葉を切ると、何かを思案するかのように考え、再び口を開いた。


「我々の『英雄』になる者共です」

「保証は?」

きし、と玉座をやや軋ませつつ、王が意地悪そうに訊いた。

翁は今度は、躊躇わずに告げた。


「私の命をお賭けしましょう」



………………


「うらああああああ!」


氷漬けになったドラゴンに急接近する。ボッ!と蒼い剣の刃が炎を纏う。


「効いたらいいカナッ……!」


少し後ろでは、サラの双剣が眩ゆいばかりの光を纏う。


「〈炎神〉!」


〈剣士〉のみ使えるスキルの一つである〈炎神〉は、非常に単純なスキルだ。ただ単に、攻撃力を通常(俺の場合は一撃9000~10000程度)の3倍~20倍にする荒業。

ただ、その効果が絶大故に支払うMPがかなり大きいのだが、そこは我慢だ。

因みに、名前から分かるとは思うが、風神はこれのシリーズみたいなもので、〈七刃剣技〉はこれの簡易版みたいなものだ。


「〈十字斬舞〉っ」


……で、サラの〈十字斬舞〉だが…………普通に刃を縦と横に素早く一回ずつ走らせるだけなのに、何処が『斬舞』なのか正直ぜんっぜん分からない。

が、少なくとも俺の〈波動〉より遥かに強いことは確かだ。多分〈炎刃〉も優に越える。


どっ!と跳躍する。

跳躍と同時に上半身を捻り、

「うらっ!」

ドラゴンが間合いに入るか否かのところで、その捻りを元に戻す回転と腕力で刀を左から右に袈裟に斬り下ろす。

炎を纏った刀は氷漬けのドラゴンを斬り──

『イエロードラゴン HP:171062/300000』


見なさい。それでもドラゴンに対してはこの程度なのよ。


圧倒的過ぎる。単純な攻撃力で行けば最上級のスキルなのに、まさか半分も減らせないとは。

氷は割れない。当然、味方の攻撃で割れてしまっては意味がないので、使用上、そうなっているのだろう。便利……ではあるが、非常に不思議な話だ。


そこにサラの攻撃が入る。

サラのスキルの中で最高、というわけではないが、火力が安定しているため、サラはよく使う。というのも、これより攻撃力が高いスキルは外すことがあったり、低ダメージになったりする確率があるからだ。

「うりゃあっ!」

サラは俺より後ろから跳躍。

逆手で持った双剣をふるう。

美しい×印が空中に描かれる。


『イエロードラゴン HP:99818/300000』


それでもこんなもん。泣きたくなってくる。

「やっばいね……早く倒さないと」

サラが俺の隣に来る。

「くっ……もういっちょ!〈波動〉!」

「〈波動〉!」

と俺とサラが同時に唱える。

しかし、その攻撃が届くか、というときに、ドラゴンを固定していた氷が突然、弾けた。

大小様々の氷塊が宙を舞う。

キラキラと光る空間の中心に、再び姿を表す黄色い竜。

だが、ギリギリまで接近していた空気の刃は避けられなかったようで、ドラゴンは正面からそれを諸に喰らった。


ヒュガッ!


『イエロードラゴン HP:897/300000』


しかもどうやらクリティカルヒットだったようで、たかが〈波動〉二発ではとても考えられないような大ダメージを与えることが出来た。これはチャンスだろう。


だがしかし、まだ生きてる。


そして、俺とサラはドラゴンのすぐ近くにいる。

つまり。

「ぐっ!」

「うわあっ!」

サラが直ぐに攻撃体制を取ったが、攻撃を放つ前に尻尾であっさりと俺ごと薙ぎ払われた。

きりきりと宙を舞い、落下地点にいたボムを押し潰しつつ、べしゃっ、と地面に落ちるサラ。

それを視界の端に捉えつつ、俺もごっ!と壁に叩き付けられる。

「うあっ!」

少し壁から離れたところにどさっと落ちる。再び凄まじい速度で減少するHP。ついでにいうと、MPも意外とヤバい。強いスキルを使いすぎた。

フィアがすぐさま回復に入ろうとする。だが、

「フィア!回復より殴れ!」

もう一人の攻撃職、〈黒魔術士〉のボムはサラに潰されて倒れている。だが、既にドラゴンのHPはかなり削られている。

今なら〈白魔術士〉の自衛用の攻撃スキルでも殺せるはずだ。

「いいえ。回復します」

しかしフィアは指示を聞かず、そのまま回復を始めた。

「ばかっ!全員やられるぞ!」

「やられません。翔、忘れていませんか?」

「……は?」

「このパーティーにもう一人、攻撃専門の職を持った者がいることを」


言われて、視界の端に、短刀を構えたままドラゴンの背後へと素早く駆けていく一つの影が見えた。

その後ろから、ビルの援護魔法が飛ぶ。


「〈忍者〉。忘れちゃかわいそうですよ」


いつの間に留め具が落ちたのか、纏まりが無くなった美しい絹のような銀色の髪をたなびかせて、彼女は跳んだ。


そしてそのまま、


「〈閃斬〉!」


To be continued……

文章力よ上がれ

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