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#17

Loading……

「ったく、何で俺が……」

愚痴を溢しつつ、ぱしゃぱしゃと宝石のように美しい水の中を進んでいくボム。


軈て、幾等かの金貨と幾つかのアイテム、それと何らかの書籍を持って上がってきた。

著しくHPを減らしてしまったボムに、直ぐにフィアが回復魔法をかける。

「……前々から私思ってたけど、そんなほいほい回復魔法使っていいの?」

姫がフィアに問うた。

「うん?あ、MPを無駄に使っていないか、ですか?まあそれは確かに使っているかも知れませんが……それより、いざというときに回復されてなくて……という方がよっぽど怖いですから」

そう言うとフィアがびしっ!と姫に向かって人差し指を立てる。

「備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖、ですよ!」

「……成る程」


「その本は何だ?」

と俺。

「どうやら製法書らしい」

ほら、というとボムはそれを投げ渡してきた。

片手で受け取って、適当にぺらぺらと頁を捲る。

成る程、剣の鋳造書に見える。

矢鱈と分厚いそれには、刃も柄も弧を描いた美しくも奇怪な剣の図が幾つも描かれていた。

当然鋳造法も描かれているものの、専門用語や意味不明な文字がふんだんにちりばめられていてあまりにも複雑でさっぱりだ。

「……さっぱりだな。ま、取り敢えず仕舞っとこうか?」

「だね。ボム、持ってて?」

ビルとサラが横から覗き込みつつ言う。

「また俺!?」

「何か文句でも?」

「あるよあるある!あるに決まってんだろーがーっ!」

「それ以上は放送禁止ですよ……っ」

なぜかフィアが若干焦り顔になりながら言う。まさかフィアもあれを知っているのか?


「ま、兎に角ボム、お前が持て」

と俺。

「ちえっ……」

ボムが渋々アイテムボックスの中にそれらを突っ込む。

横ではサラが金貨を財布の中に突っ込んでいた。


………………


「そういえばさ」

洞窟内を歩きながらサラが右手人差し指を立てながら言う。

今いるところはさっきネズミを退治した所よりも更に奥深い場所。

壁はぬらぬらとした嫌な光沢を帯びていて、湿度は滅茶苦茶高い。このじめじめとした感じが本当に気持ち悪い。

「今更だケド、この世界でもレベルアップってするカナ?」

「そりゃ……そうだろ。俺みたいにレベルダウンすることが有るんだし、第一、姫がついさっき滅茶苦茶今レベルアップしてたじゃねえか」

基本的に、パーティーでモンスターを退治した場合、例え戦闘に参加せずともその退治の場に居れば経験値(EXP)は全員に等しく与えられる。

又、当然だが、レベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要なEXPは多くなる。

先程、高レベルモンスターを俺達と撃退した姫には、つまるところ高レベルプレイヤーが貰えるEXPを貰えた訳だ。

するとどういうことになるか。


~回想初め~


『テッテテ~テテテテ~♪ノンプレイヤー〈エル〉の〈忍者〉レベルが15から16に上がりました』


「「「……」」」


『テッテテ~テテテテ~♪ノンプレイヤー〈エル〉の〈忍者〉レベルが16から17に上がりました』


「「「……」」」


『テッテテ~テテテテ~♪ノンプレイヤー〈エル〉の〈忍者〉レベルが17から18に上がりました』


「「「……」」」


『テッテテ~テテテテ~♪ノンプレイヤー〈エル〉の〈忍者〉レベルが「「「うるさい(よ)!」」」18から19に上がりました』


~回想終わり~


15から19に一気にレベルがアップしない故の悲しさである。


「…………そういえばそうだったね……」

とサラ。


暫くの沈黙。


このパーティーにおいて、移動中に一番喋るのは俺とサラなので、俺達が静かになれば全体も静かになる。


「えーっと……あと一匹高レベルモンスター片したら出ようか?」

その沈黙に耐えかねたのか何なのか、ビルが前からこちらを振り向きながら訊いてきた。

唐突な提案だったが、

「だな。特に目的有ってここに入った訳でも無いし」

と同意する。

本当はサラが一体何を思っているか知りたかったが、それきり全く怪しい素振りを見せないものだから、忘れかけていたぐらいだ。やはり俺の思い違いなんだろう。


そんな事を考えていると、少しだけ前を歩いていた姫が急に立ち止まり、

「……それじゃあ、こいつで最後かしら?」

道から横に別れた少し暗い小径を指差した。


「ん?」


姫の指した方向を見る。

そしてそのまま、

「こいつは……」

「これは……」


俺とサラが同時に絶句した。


ビル達三人も、少し先行していたので、どうかしたかと言いつつ戻ってきて、


『……!』


同様に絶句した。


姫だけが例によってキョトンとしている。

喋りたいが、脳内で言葉が回るばかりで音にならない。

結局、暫く口をぱくぱくさせた後、

「…………姫、強制離脱装置の離脱先がきちんとナトアシティになっているか、確認しておけ」

「え、何で?」

やっとのことで言葉を絞り出した。


そこにいたのは、巨大な黄色い、大きな羽の生えた蜥蜴のようなモンスター……即ち、竜。

電撃的な黄は暗闇で美しく映える。

完璧な蛍光色は、つまりは完全な警告色でもある。

レッドドラゴンや、ブラックドラゴンには劣るものの、トップクラスのモンスター。


名はやはり単調に『イエロードラゴン』。


センスを疑うが、もしかするとその単調さが芸術かも知れないと、少し血迷ったことを考えてしまったのもきっと、この竜の所為だから。


一応のゲーム上の設定では、こいつは竜族の番人。


下手に刺激しなければ、守るべき持ち場から離れることは無いだろうが、悲しいかな、


──ゴアァアァアアアァァアァア!


空間そのものがびりびりと激しく震える。


──こいつが護っていたのは、今俺達が立っている道そのもののようで。


「……滅茶苦茶ヤバイからだ」


姫の質問に答える。

どくん、と自らの鼓動が一際大きく聞こえた。


………………


「ここはどこカナ?」


──金属に囲まれたこの国に訪れるのは実に何回目だろうか。


(いや、初めてだね。ゲームの時は毎日のようにこれに似た国に訪れたケド、残念ながら、現実に訪れることになるとは思わなかったなあ……。)


その〈武士〉の女の子はそう考えると、街に多く高く聳える金属的光沢を持った建造物とは明らかに調和しない赤と白とでカラフルに彩られた煉瓦敷きの道をゆっくりと歩き出した。


そのまま暫く歩いて、軈て、小さな広場に出た。とはいえ、それでも円形のそれの直径は随分とあった。

擂り鉢状に窪んだ広場の中心には、小さく簡素な噴水がある。

気だるそうにとぽとぽとほんの少量の水を垂れ流す噴水は、まさにこの国の雰囲気を表していた。


(ふむ……ところで、あのバカ達はどこに行ったんだろ……?)


彼女はそう考えつつ、更に中心に向かって歩を進めた。

両手を後頭部の辺りで組んで、いかにもつまらなそうに歩く。が実のところ、彼女がこの状況に相当興奮しているのは、やや紅潮したピンク色の頬から見て取れた。


と、

「なあ姉ちゃん。んだ?タマってんのか?」

「そうだよ……顔赤くしちゃって。俺達と遊ばねえか?」

後ろから突然、見るからに下衆な二人組が彼女に話し掛けた。


無視して歩き続けながらも、おや、と彼女は心の中で首を傾げる。


──彼等はどう見てもノンプレイヤー。

なのにナンパしようとはどういった了見か。


別に彼等の誘いに乗るのも悪くはないが、どうせヤっても全く上手くないだろう。だったら意味がない。不快なだけだから早々に退場願いたいものだ。


それにしても、ゲームの時にはこんなおかしな行動を取るノンプレイヤーはいなかった。


──やはりこの世界は『ゲームの世界』に似た世界なのだろう。


「おいおいどうしたよ?」

「大丈夫、怖くないから」


……等と考え事をしている彼女に、執拗に言い寄る二人。


「なあねぇちゃ……むごっ!」

「ぐぶっ!?」


いつの間にか、その口に彼女の拳が突き刺さっていた。


気だるそうな顔をしながら、


「このまま頭を割るのも容易いケド……どうする?」


と気だるそうな声で告げる女の子。

すぐに、さっ!と二人の顔が青ざめた。


「…………ふぃはへん。ふぃはへん!」


軈て、片方が何か言い出した。恐らく、『すいません』だろう。

もう片方は何も言わずに、ただぼろぼろと涙を流している。脅しとはやはり凄まじいものだな、と彼女は改めて確認した。


「……ふん」


腕を振って、二人を後ろに投げ飛ばす。こんなちんけな奴らとヤって愉しいわけがない、と思う彼女。結局判定基準はソコなのだろうか。

べしゃっ、なんて音がしそうな程に石畳に強く叩き付けられた二人は、苦しそうにもがく。


「うわぁ……ばっちいなぁ……」


二人の涙と涎でまみれた両手を彼女は何処からか取り出したふきふきとハンカチで綺麗に拭き取った。


そのまま気を取り直して、噴水に向かって再び歩き出す。


軈て噴水に辿り着くと、その縁に一人の〈剣士〉の男が座り込んでいるのを彼女は見付けた。


「……やっぱりねぇ。非常時はここに、なんて言うから来て正解だったよ」


彼女は男の姿を視界に捉えると、溜め息を吐きつつ言った。


同時に、男の口元がにやけていたのも視界に捉えた彼女は、双剣の片方をすらりと抜いて。


男の前に立ち止まると、流れるようにその首筋に刃を当てる。


峰ではなく、きちんとキレる部分を、だ。大体両刃のその剣に、峰など存在しなかった。


すると、男の口元の笑みが更に濃くなる。

そんな変態的な男に対して、彼女が抱いた感想は(相変わらずだね……)だったが、口にする必要も皆無なので、別に言うことはなかった。


軈て男が、口を開く。


「……何をする?」

「────何か知ってるんでしょ、隊長。洗いざらい吐いて貰うよ?」


ニコリ、と彼女は満面の笑みで告げた。


………………



「翔っ、危ない!」



フィアの鋭い声が響いたかと思うと、直後、俺の右斜め前に稲妻が落ちる。

「危なっ!」

左足を軸に体を右回りに回転させ、ギリギリの所でそれを避けた。

がしかし、


──ゴァアァアアアァルルルルルル!


地を揺るがすかのような力強い、咆哮。


『!』

体がそれきり、金縛りにあったかのように動かなくなってしまった。


To be continued……

ああきつい

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