表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/37

#15

Loading……

「ん~、わかっていることは殆ど同じか」

ボムが呻く。

相手の情報でこちらが知らないのは無かった(但し土地系の情報を除く)。逆に、相手は知らないことが多かったので、漏れ無く教えてやった。

「だねぇ……」

アインがトントンとペン先を机に落としながら言う。

「それにしても、翔達、よくこんな……何があってるかも分からない状況でパニックにならないね」

「それはお前らも同じだろうが」

普通こんな意味が分からない状況に閉じ込められた人間はパニックを起こすだろう。若しくは現実逃避を図る筈だ。

「ん~、確かに」

アインが頷く。

「取り敢えず、僕らはゲームの世界、またはそれに類似した世界に巻き込まれた……で、良いよね?」

「ああ。まあ恐らく類似した世界だろう……こいつをみてみると、な」

姫をぐいっ、と親指で指し示す。当然、人格の話だ。

今の状況は姫からしてみれば、何故か勇者が二倍いることになるだろう。そこに気付くかは甚だ疑問だが。

よく考えれば、姫に色々訊けば良いのでは……と思って、やめた。まずもってこの世界に元々いる者と、俺達転送された者の身体等が同様に作られているとは考えづらかったし、何より姫は元深窓の令嬢だ。何か訊いて得られる物が有るとは到底思えなかった。

「でもでもっ、それにしては不可解じゃないかしらん?」

俺が考えていると、ティティがアインの後ろから覆い被さるようにしながら、ほら、操作盤、と言う。

おーっと、そのままアインに後ろから抱きついた!

これはアイン選手、大ダメージを負って……

「うん。ティティの言う通り、そういう話なら操作盤が出るのはおかしいよね?」

なんとアイン選手、顔色一つ変えない!ここに紳士がいるーっ!

ほんっと、とことんまでに異性に興味を持たない野郎だぜ……。

「……ね?翔」

「あ、ああ。確かにそれはそうなんだが……」

ヤバいヤバい、また意識が持っていかれていた。

いやー……恐ろしいものだねぇ。ホント。

「つまり、そっちもその点については何も分からない、ということじゃな」

グーンが言う。

確かに最初は、ゲームの世界に入り込んだものだと確信していた。事実、何らかの別世界に巻き込まれた事自体は間違いではないだろう。

だが今、それがゲームの世界かと問われれば俺はそれに自信を持ってYesと言える──なんてことは、絶対に無いだろう。

「……ええ。考えれば考えるほどこんがらがります。……例えるならそう、メビウスの輪」

「まあねぇ。考えても考えてもおんなじ場所をぐるぐる回っている気分だから。まあいずれ分かるんじゃないカナ?」

とフィアとサラ。

だがそのあと、コイツ──サラが言った言葉は俺しか聞き取れていなかっただろう。

いや、敢えて俺だけに言ったのかも知れない。


「その内に、嫌でも……ね」



………………


「姫は自分の事をどういう風に認識しているんだ?」

アイン達の拠点からの帰り道、本当に何気無く訊いてみた。

結局、あのあと堂々巡りするばかりの話を何時間かして、結局何も得られぬままに出てきたのだ。

既に夕陽は落ちて、空は一面の黒に閉ざされている。街の明るさが邪魔をして、星の光は届かず。ただただ、大小二つの月が悲しく冷たく、光る。


自分の事をどういう風に認識しているのか。

それに対しての姫の返事は素っ気なかった。

「ノンプレイヤーよ」

「ノンプレイヤー……意味、分かってるのか?」

「まあ、『世界中の人間』を引っくるめてそう言うわね」

「はい?」

「だから、人間に特に区別を付けない場合は『ノンプレイヤー』よ」

「え?どういうこと……?」

「翔、恐らく『地球人』と同じ感覚だと思いますよ」

フィアが何かを察したのか、話に挟まってきた。

「『地球人』?」

「ええ。日本人、黄色人、そんな区別を付けない場合は、私達は言うなれば『地球人』ですよね?」

「ああ」

その場合は火星人とかと区別がつくと思うんだが……まあ恐らく、『その星の中で』等といった言葉が『区別を付けない』の前に来るんだろう。

「なるほど……何と無くだが分かる」

ビルが頷いた。

「なかなか、複雑だな」

「そだね。でもまあ……さして問題にはならないでしょそんなこと。それより明日辺り……」

ボムが思案し始めると、それを遮るようにサラがひらひらと手を振りながら話を変えた。まったくもって、この状況を問題視していないみたいだ。

おかしいな、森の中ではきちんと問題視していたんだが。価値観が変わることでもあったのか?

「……に行こう。隊長、聞いてますかー?」

「ん?ああ……」

それとも。サラは……


「よしっ!じゃあ宿に帰ろうっ!」

「サラ、元気ですね……」

「あそこならレベル上げに丁度良いから!」

「姫にとっては地獄だと思いますが……」


何か隠しているのか……?


………………


翌日。


早朝。


皆とナトアシティの城門前に向かう。

姫はまだ眠そうで、こくりこくりと舟を漕いでいる。

頭が前後に揺れる度に、三編みで一つにまとめた美しい銀髪が踊る。

気温はさして低くなく、姫やサラのように多少露出が多かったり薄着でも全く問題ないようだ。

「よしっと」

少し右の靴がぶかぶかと浮いているのに気付いて、屈んでバチン、と靴のバックルを締めて、止める。

その間にサラと姫は俺を待ち、他のメンバーは少し減速して進む。


「ほら隊長。行くよ?」


「ん……」

立ち上がって、膝の辺りをはたく。

考えづらい。サラが俺達に何か隠しているとは。


「翔……」

くいっ、と袖を引っ張られた。

振り向く。……姫だ。

「何か悩み事……?」

睡魔に蝕まれているとろんとした目でこちらを見上げるように見てくる姫。


いつもの強大な意思を感じさせる青い瞳は、今は濁ったように見える。がしかし、結局はそれは見えるだけであり、──それでも、姫の新しい一面を見たような気がした。


──今まで寝起きなんて気にしていなかったからな。


ふと、そこに何か思うところが有ったが、何を思うかが掴めない。


「……いや、何でもない」


……俺も寝惚けているのだろうか。


「……そう?」

姫がふわり、と返事をする。

実は重い姫の身体が、今は不安定なとても軽い物に見えて。

それは果たして、姫が寝起きのせいなのか。

それとも、


俺の精神が──。


「……?」


サラが不思議そうな顔で上目遣いに俺の顔を覗き込むが、気が付くと顔を逸らしていた。


「???」


サラが更に不思議そうな顔をする。


少し離れた所からそれをボムが見ているのに気付いたが、敢えて見ない振りをした。


軈て、大きな城門が見えてきた。


………………


『深淵の洞窟』は、高レベルモンスター犇めく危険な空間だ。

ここは、ナトアシティからほんの数キロ北西に行った所にある、『深淵の洞窟』。俺達は今、その中を歩いている。

同様に高レベルモンスターが犇めく『夢幻の深林』と双璧をなす、高レベルプレイヤー・高レベルパーティーのみが挑むことを許された最狂の洞窟。

──とはいっても、実はこれより遥かに攻略が難しいダンジョンもある。つまり、ただ単に有名なだけだ。

レッドドラゴンが出る『滅却の火山』なんて、これの比ではない……それに、やはり『滅却の火山』すらも上回る、即ち高レベルチーム(パーティーの規定人数6人を上回る隊のこと)専門のダンジョンも存在する。

とはいえ、

「トップレベルなのは間違いないけどな……」

確かに、レベル上げにはぴったりだ。


軈て、泉のような場所に差し掛かる。

暗きを照らすために俺が持つ松明に煌めいて、美しく輝くパープルの水はしかし劇薬で、触れればたちまちダメージを負うことになるだろう。

水の間に渡された一本の道……水面から僅か数センチしか離れていない狭い道を慎重に歩く。

「洞窟はこれだから嫌いなんだよ……」

ボムが溜め息混じりに言う。

以前(当然ゲーム時)、ダメージを負うと知らずに紫の泉の中を走り回って結果死亡、レベルダウンしたバカだからしょうがないかも知れない。

因みにその時は俺とビルが一緒にいたのだが、自滅してゆくボムを二人してばか笑いしながら見ていたのも、今思えば懐かしい。

「もう一度馬鹿やってみるか?」

とビル。

「いや、もういい……」

ボムが暗い顔をしながら言った。

「あーその話。前に聞いたときはびっくりしたよ~」

とサラ。当然だ。俺は最初見たときは遂にイカれたのかと思ったぐらいだ。

「何だっけ?『うわ、凄く綺麗だ!今まで洞窟って名前で敬遠してたけどこんなに綺麗だったらもっと早く来るべきだった!なんかこれ、HP回復してくれそうじゃないか!?宝石みたいだ!』…………余りにも衝撃的すぎてすぐに覚えたよ」

「うわぁあぁああぁぁぁあ!止めろ!止めてくれ翔ぅう!」

「そのままばしゃばしゃばしゃ。みるみる減るHP」

「うおぁぁああぁあぁぁあ!ビルも恥ずかしいから止めてくれ!」

隣ではサラが笑いながら姫に説明している。姫も既にツボっているようだ。

「……皆さん。盛り上がっているところ申し訳ないのですが……馬鹿やらないといけないかも知れませんよ?」

すると突然、フィアが進行方向向かって左、紫の泉の中心付近、松明からの光が届かずに暗い空間を見ながら、まったく真剣に言った。

「へ?」

と俺。

「ひよっ?」

続けて姫が、しゃくり上げるように言う。直前まで笑っていた所為だ。

サラもビルも笑うのをやめる。それほど、フィアの声は真面目だったのだ。

そして、全員の目にはっきり映ったことだろう──暗闇からこちらを見据える、巨大な二つの赤い目が。

誰が言うともなく、ぽつり、とある言葉が空間に木霊した。


「────敵襲」



To be continued……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ