#14
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「よし、じゃあ次はそちらの自己紹介を」
と、俺。
狭い部屋に12人も入るとぎゅうぎゅうだ。
………………
昨日ナトアシティに着いた俺達は、アイン達と次の日に会う約束をしたあと、まず宿を確保(勿論一人一部屋。一人金貨5枚だから良いじゃない!)。
そのあと、拠点をナトアシティに変更。これで、目的は完全に達成された訳だ。
そして血塗れの衣類の洗濯をルームサービスで頼んだあと、風呂に入る。
ゲームでは宿屋は金を払うと同時に画面がブラックアウト、そのまま六時間画面に『睡眠中』と白字ででかでかと書かれて操作不能になるという明らかにバグったシステムになっていた(恐らくゲーム内共通時間に合わせた結果だろう)が、こういうことが裏で行われていたなら納得できる。
ルームサービスについては……。使うことが出来なかっただけで有ったんだろう……多分。
そしてそのまま眠った。1ヶ月分の疲労はそれはそれは大きく、木製のやや硬めのベッドに寝転がってすぐに、ぐっすりと寝むってしまった。
朝。
普通に朝食を取った後、街で忍装束を買って姫に着替えさせた。
ついでに今まで姫の武器は初期装備の『小太刀』だけだったので、『光の小太刀』と呼ばれる所謂宝刀をみんなで金貨を出しあって買って、プレゼント。高かった(金貨6800枚也)。
服の方だが、忍装束とはいっても、どちらかといえば改造和服だ。
機動性を重視しているため、少々露出が多い(最も、顔と手足以外には鎖帷子がついている)、黒を基調として一部に紺を混ぜた服。
草鞋を履いていて、美しいカーブを描く足は黒いニーソックスで覆われている。
女物だから多少華美なのはしょうがないのかも知れないが。
腕は完璧に鎖帷子で覆われていた。
美しい銀の髪は三つに縛って、それを中央で三編みにしてヘアゴムで留めて垂らしている。
「どうかな……」
姫の恥ずかしながらといった感じの問いかけに、野郎共(三人)の意見は一致した。
『イイ!』
「うん、かわいいよ、姫」
「ですよね。よく似合っています」
サラとフィアも褒めると、えへへ、と姫は頬を赤くした。
その後、そのままアイン達のパーティー専用の建物に直行。
そこで〈大福〉のメンバーと会い、たった今、こちらの自己紹介が済んだところだ。サラの『一応こっちも自己紹介しましょう』という提案による。
………………
「え……じゃあ、僕から」
アインが手を挙げる。
広めのテーブルで、思い思いの場所に座っている。一応俺の横には右にサラ、左に姫がいる。
狭さは異常なぐらいで、閉塞感が凄まじい。他にも部屋は有るのだが、一番広い部屋がこれらしい。
「えーと……ま、まあ、一応〈大福〉のリーダー張らせて貰っているアインです……〈召喚士〉で……ってそれは〈情報〉見れば分かるか。えーと……年齢は17……一応、男です……が、男性から告白されたことが十数回有ります」
コミュ障な面を少し出しつつも、さらりとカミングアウトするアイン。サラから一瞬凄い殺気が出たのを俺は見逃さなかった。
次に、昨日も見た〈黒魔術士〉の赤い髪の女の子が立ち上がる。昨日はあまり気にしていなかったが、歳は俺より下……恐らくは、中学生か小学生かも知れない。
「次はワシだな!ワシの名前はグーテン!15歳じゃ!」
そして衝撃の一人称&語尾。
赤い髪はおかっぱで、大きめで右が赤で左が青の両目は所謂オッドアイと呼ばれるものだろう。
顔は整った童顔で、だが背は姫やサラより高い。
ローブは使わず、無駄な装飾のない青い服の上にやはりマントを着けている。それに反して、赤いブーツを履いていて、ピエロみたいになっている。
「特に言うこともないが、宜しく頼むのじゃ!次!」
そしてさらりと次の人に回す。
「あーじゃあ……俺っすね……」
やはり昨日も見た〈黒魔術士〉が立ち上がる。
群青の髪(ビジュアル系髪型)で、やや長身か。はたまたそれは、近頃ちびばっかり見ている所為なのか。
「あー……見ての通り、〈黒魔術士〉っす……19歳。名前はスカイっす……」
ぼそぼそと陰気に話すスカイ。前髪で左目が隠れているため、陰気さが増している。
何の細工もない黒のローブを着ていて、足まで黒いブーツ。これも陰気さを増す原因かもしれない。それにしても皆さん語尾がお綺麗ですね。
「んー……ま、一応……〈大福〉の金銭管理役は俺っすね……」
さっきサラが『今はパーティーの金銭管理役任せて貰ってまーす』と言った所為だろう。非常に無益な情報だ。
「それ以外に特に話すことはないっすね……じゃあ次……」
「はーいはいはいはいはい!あたし!あたしの番ね!!?」
白いローブを着てしかもフードをかぶって顔が全く見えなくなっている女の子(多分)が勢いよく手を挙げた。
「……フードを取ったら?」
「はうっ!」
アインが優しく声をかけると、今やっと気付いたようにフードを外す女の子(多分)。
その中から現れた顔は……何とも、凄まじいものだった。
美しすぎる。
それを表現する言葉を俺は持っていない。
その女の子(確信)はがたがたと椅子を鳴らしながら五月蝿く立ち上がる。
長い金髪を一つに纏めている。姫とはまた違う薄い青の瞳。
しかもこれは……種々のパーツの色は違うかもしれないが、この女の子はほぼこの顔で現実世界にも存在しているのだ。現実世界でそこらにごろごろ転がっているアイドルとは一線を画す可愛さ。
「じゃあ仕切り直し!」
声は澄んでいて、甘くも丸くも無いが、しかし非常に女性的で魅力的だ。
「あたしはねー、5年前からこのゲームを始めたの!でね、まああたしの性格に合ってるんじゃないかなと思ってね、〈白魔術士〉を選んだの!これが失敗策でね、攻撃力が弱いの何のって……」
但し非常に姦しい。
「だって回復職だし」
ビルが呆れ顔で言う。
「その時点では知らなかったのよー、それで名前で選んでみたの!説明きちんと読んどけば良かったわ~」
「あのね、ティティ。今は自己紹介。経歴は置いといて、自分の年齢、名前、特徴を簡潔に言ってね」
アインがやれやれといった雰囲気の笑顔で告げる。こいつはこのにこにことした表情を絶やすことは中々無いだろう。
「あ……ごめんなさい。えっと、18歳。ティティって言うわ。特徴はね~、可愛いことと、意外と気が利くところと……」
「はい、次の人」
アインがあっさり回した。
ぷー、と頬を膨らましてアインを睨むティティ。
〈大福〉は〈召喚士〉1、〈黒魔術士〉2、〈白魔術士〉2、〈騎士〉1の極端な『魔術士』中心パーティーなので、残りは〈白魔術士〉1人、〈騎士〉1だ。
「じゃあ私ね……」
静かな声が響いた。
不満そうな顔をしていたティティの顔も一瞬で真面目になる。
声を発したのは灰色の質素なローブをかぶった女性。
威圧された訳ではない。母親の前に突き出された気がしたのだ。即ち……
「年齢は……隠す必要も無いわね、47よ。名前はとみ子。この中では一番高齢かしらね。情報を見れば良いけど、まあ格好でも分かるわね、〈白魔術士〉よ」
ゆっくりと灰色のフードを頭から外す女性。黒い髪をお団子で纏めている(なのにフードをかぶっていたな)。この人が発する圧倒的な穏やかさが母親を思い出させたのだ。
(何でこんなゲームをやっている?)
そう俺が思うと、女性は、皺が寄りだした顔で、くすりと微笑んだ。
「『何でこんなゲームをやっている?』みたいな顔をしているわね」
「あ、いや……」
「いいのいいの。主婦は暇なのよ。私もこのゲーム、十代がやるものとばかり思っていたわ。思っていたけど……」
とみ子さんはゆっくりとフィア、ビル、ボムの顔を順番に見た後、
「……そうでもなかったみたいね。とにかく、宜しくね。何か困った事があったら何でも相談してね。亀の甲より年の劫……ね?」
そう言うとすっ……と静かに座った。
「じゃあ、〆だね。きっちり頼むよ」
アインが言うと、鈍く金属的に光る鎧に身を包んだ男が立ち上がる。九分九厘、こいつが〈騎士〉だろう。
「おっす!オラ悟く」
「よし、次の人」
「ちょっとー!?」
アインがさらりと流した。つか次の人いないだろ。
「待って!すまんかった!真面目にやるから!」
涙ながらに訴える〈騎士〉。メンタル弱いな~。
「ま、隊長よりはマシだケドね」
「ちょっと待て。その人の心の読み方を教えてくれ」
「気合いだね」
「気合いなの!?」
ごほん、と〈騎士〉が咳払いをする。しかしどうやらそれは俺達の私語に向けられたものではなく、己の緊張を振りほどかんが為にやったようだ。
「えっと、23歳。正義です。せいぎと書いてまさよしです」
何故みな年齢を先に言う。
「え~……ま、所謂『壁』です。『囮』でも有ります」
「ふぅん、自覚は有るんだ」
ボムが頬杖を突きながら言う。
「ええ。でもまあそれでパーティーに貢献出来るならね」
「立派な心がけだな」
ボムが小馬鹿にしたように言うが、正義は全く気にする様子は無かった。
「さて」
と切り出す俺。
「自己紹介は済んだ。まぁ、これからお互いの為に仲良くやっていきたい」
「本題は?」
アインはこういう前置きを極端に嫌う。
「さて、じゃあ先ずは情報交換からいこうか」
バサリ、と机半分を埋める大きな白地図とそれと同じサイズの白紙を広げる。さっきここに来る前に文房具屋で買ったものだ。
「何でもいい。確認されていることを全て、書き出していこう」
アインが何処からかペンとインクを出してきて、机の上に置いた。
………………
金属の光沢は果たして、美しいのだろうか。
ひたすらに鈍くあり続けるその光沢は、光を持つ反面、内に闇を孕んでいるように見える。
更に言えば、光は金属自らの物では無いのだ。そう思えば逆に、光を拒んでいるかのように見えないこともない。
即ち、この機械国は──
「ゲーム時以上の闇を孕んでいる気がするなぁ……」
黒き鎧に身を包みし〈剣士〉は静かに呟いた。
彼は下ろしていた腰をゆっくりと上げた。
だが、がしゃり、と鎧のパーツとパーツがぶつかり合って喧しく啼く。
次の瞬間、彼は自らの足にナイフを突き立てていた。
鎧の隙間に突き刺さったナイフから、赤い液体がぽたぽたと滴る。
──この痛みだ。
「くくっ」
──痛みを感じる瞬間と、人を殺した瞬間だけ、自分が生きていると実感出来る。
軈て痛みは消え去り、傷は塞がり、血は滴らなくなった。
それでも、
「くくくく……」
傀儡はあくまでも静かに……笑っていた。
………………
「ひいっ!?」
「どうした、サラ」
サラがいきなりビクリ!と飛び跳ねた。サラが座っていた椅子がガタガタと揺れる。
「いや何か……凄まじい恐怖が」
「え?恐怖……ああ」
サラは見える人なのだ。もしかすると何かいけないものを見てしまった危険性もある。無視が一番だ。
「分かっていることはこんなものなのか?」
グーテンがほんの数十分で凄まじい量書き込まれた紙を見ながら言う。
そのまま、
「それとさっき言い忘れたのじゃが、グーテンは言いづらいでな、グーンで構わんぞ。パーティー内でもそう呼ばれているのでな」
「分かりました」
フィアが返事をした。
To be continued……