#10
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じゅうう、と肉が焼ける音と香りが空間に染み込んでいく中、ふと、白い空間で言われたことを思い出した。
『……貴様は、自然と復活する。考えろ。それが一体、何を意味しているのか……』
正直、意味がわからない。
自然と復活する。それはゲームの時から変わっていないことで、且つ、俺達にとってすれば当然のことだ。
もし、安全とは程遠いこんなところに放り出されて、しかも命は一つ限り。
それは、余りにも理不尽だ。
『……貴様には、勇者としての自覚が無いのか?』
なのに、何故だろう。
「俺は……」
こんなに気になっているんだ。
………………
がさりがさりと草葉を押し退けながら進む。
『静寂の森』は名前の通りで、ときたまゴブリンやポイズンワーム(要は『毒』を主要攻撃術とする芋虫)ぐらいしか出ないままに、森を抜ける事が出来た。
森を抜けると──
美しい朝焼けだった。
闇に覆われていた草原を美しく眩しい光が照らし出す。
まだ海までは幾らか有るようだが、それでも、ここに来て初めて、よくこんなに歩けたな、と思った。
何日歩いたのだろうか。
1ヶ月?そんなものだろうか。
現実とは違って、汗は一時的らしい。
つまり、何日も風呂に入らなくても、激しい運動をしても体が臭くなったりベタベタになったりすることはなく、衣服も汚れこそついても、臭くなることはなかった。
ざっ……と草を踏みしめる。
そのまま、前にばさりと倒れ込む。
土の匂い。青臭い草の匂い。
安心できる自然が広がっていた。
「隊長……何やってんの……」
サラに呆れた顔で見られても気にせずに、ごろごろと転がる。
朝露のせいで体に草が張り付いたが、気にしない。
思えば何年ぶりだろうこうやって自然と触れたのは。
解放感に包まれる。
あと少し。あと少しで、目標は達成される。
………………
今、俺達は現実世界でいう北九州辺りにいる。
海を渡るのは簡単だった。
何故なら、港町が有ったからだ。
そこで朝から宿を取り(一人金貨五枚という破格だった)、体力を全快にする。
宿で休めば体力が全快する。ここら辺りも、特にゲーム時と変わっていないようだ。
泊まるとき注意を払ったことは、身元がばれないようにすることだ。情報が回ってきているかも知れない。
姫はフードを深くかぶせる。
俺は刀を初期装備の『長剣』に変えた。
他の奴等も極力喋らず、緩やかにチェックイン。
そのまま、軽く食事をとったあと、次の日の朝まで眠りこけた。
そして、次の日の朝。
フェリーが出ているようなので、それに乗る。
フェリーで敵に遭遇することはなく、普通に海を渡り終えた。
そして、今。
「国境越えた~!」
位置情報を示すウインドウには、『ナトア国・北九の港』と示されている。
「遂に来たね~」
「「疲れた」」
「ビルもボムも情けないですね……」
盛り上がる俺達。それはそうだ。まさかこんなに徒歩で移動するとは思わなかった。
普通は『飛行挺』や『飛行獣』と呼ばれる都市間移動専用機を使うのだから。ただ、これは主要都市しか立ち寄らない為、場合によって歩くことになるが、それでも今よりはずっと短い距離だろう。
「あの……」
「うん?」
気付くと、姫が俺の袖をくいくいと引っ張っていた。
「どうした?」
「その……連れてきてくれて有り難う」
「……礼なんか要らないだろ」
くしゃり、と姫の頭に手をのせて少し動かす。
少し屈んで、目線を合わせる。
「俺達は仲間なんだしな」
姫の頭から手を放し、ぎゃあぎゃあはしゃぎ回っている馬鹿どもを眺める。
あ、ボムがサラに抱きつこうとして蹴り飛ばされた。……ゴールデンボールを。あれ、とある文献によると内臓らしいね。熱に弱いから外に出ているだけらしくて。
「お゛お゛……っ」
……悶絶しながら踞るボム。そこに追い討ちをかけるビル(満面の笑み)。あ、杖はそうやって使うものじゃ以下略。
俺につられて、姫もそいつらに目を向ける。
姫の目にそれがどう映ったのかはまるで分からないが……。
「……うん!」
その笑顔が素敵だったことはきちんと目に焼き付けた。
To be continued……
みじかっ