レベルアッフ。
ただの思春期話ですから軽く読み流せば宜しいかと。
ぼくの経験値が10上がった▼
ぼくのレベルが1上がった▼
ぼくは火の魔法が使えるようになった▼
この世がRPGだったらいいのに、昔からそんなことをふと何回か想う機会があった。
別に、自分が勇者になりたいわけでもないし、モンスターと仲良くなりたいわけじゃない。
ぼくが憧れているのは世界観ではなく、自分たちのレベルが表記される所だった。
次のレベルまで1500。
魔法使いは魔法を使えるようになった。
そんな現実ではわからないことをゲームの中なら教えてくれる。
ぼくはそれがとても羨ましかった。
上にいくにはあとどれくらいの努力をすればいいのかわかる、何を覚えるのかも初めから決まっているから周りに無責任な期待をかけられることもない。
この世では『決めつけ』という概念がある。
できないと思っているからできない。
練習すればできる。
人に限界なんてない、諦めているだけだ。
一見励ましのような言葉にぼくは時々、底知れぬ恐怖を感じることがある。
一種の拷問のようにも。
努力する人は努力するものなんだろう。個人差はあったとしても。
それでもできない人はそれなりの絶望を味わう。
そんなとき、人はどんな言葉をかけるのだろう。
わからないけど、ぼくの場合はこうだった。
『努力が足りない』
ぼくはあと、どれくらいの努力をすればよかったのだろう。
ぼくはどれくらいの努力をしてこれたのだろう。
数値がないからわからない。
数値がないから励ますこともできない。
励まして欲しかったわけじゃない。
でもわからない。
がんばれない。
立ち上がれない。
自分のことが一番わかるのは自分のはずなのにそれがぼくにはわからなくなっていた。
何かができるようになるのに必要なのは月日じゃない、レベルだ。
そこにどれだけ早くたどり着くかだ。
ぼくは足を引きずった。
周りにはほふく前進しているのだと嘘をついた。
足に力が入らなかった。
それでもそこにたどり着こうとした。
諦められなかった。
人がぼくならできると思い込み、決めるけていたから。
そしてぼく自身決めつけていた。そしてそれまでのぼくを捨てたくなかった。
みんなに見放されたくはなかった。
このまま行けばいいのだと、そう信じて、疑わなかった。
だけどある日思った。
ぼくの目指すそれは、元々ぼくが得られないものだったのではないかと。
ぼくが死に物狂いで進もうとした前にはなく、それは上にあったんじゃないかと。
わかっていたんだ、努力なんて確かなものじゃない。
努力で全てが叶うのならこの世で泣く人は半数以上減る。
そんな世の中でも尚泣くのだとしたらそれは人が生まれたときと、死んだときだ。
そう思うとぼくの手は消えていた。
地面を必死に抑えて付けてきた腕は落ちていた。
今までの道のりが全て無駄に思えてぼくは後ろを振り返る目すらなくしてしまった。
努力は決して無駄にはならないと人は言う。
いつかそれは必ず役に立つからと。
ぼくはそれを負け犬の遠吠えだと返した。
望んだものが手に入らなかった者への慰めなのだと。
ぼくはそんなことを言ってもらいたかったわけじゃない。
でもぼくは負け犬だった。
自分が望んだものを、周りに望まれたものを手にすることができなかったのだから。
最初からわかっていれば良かったのに。
そうすればこんな思いをすることもなかったのに。
レベルがどこら辺なのかわかっていればぼくはもっと頑張れたかもしれないのに。
もっと前向きに別のことだって考えれたかもしれないのに。
そんなことを言えば人は『甘えだ』と言うだろう。
それでもいいとぼくは思う。それで歩ける人がいるのなら。
夜の空気は冷たく気持ちがいい。
車は多いけどこの高さじゃ車のガスの臭いは届かない。
下を覗けば上の星よりも明るく瞬いている。
なんてすてきな空に飛び込めるのだろう。
ぼくのHP、TPは共に0だとぼくは思う。
本当の所はわからない、表示されていないから。
でも0はいくら掛けたって0だ。そしてこの世には不思議な草なんてない。
それでいい、ここがRPGの世界じゃなくて本当に良かった。
手も足も目ももう役には立たない。
ならばぼくは残った口で何を残そう。
「ぼくのレベルは――」
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