プロローグ
スカイ・テルス通り 12番地
* * * * *
「お母さん?……」
僕はまだ10歳だった。この社会のことは何も知らない子どもだった。あの岩壁の向こうに何があるかなんて、そんなこと考えもしなかった。目の前にある現実に着いていくことで精一杯だった。
「お父さん。お母さんが死んじゃった……」
「誰だ?お前……俺に息子なんていない!」
「どうして?僕は何もしてないのに、悪いことなんてしていない!」
* * * * *
たった10歳の少年に、突如襲いかかった悪魔の手。平穏な家庭ならではの、温かい朝食の時間。何の前触れもなく、少年の目の前で、母親は爆発して死んでしまった。少年の目に映った最後のものは、母親の憎しみが詰まった目。その瞬間から、母親に対する愛情は消え去った。残ったのは恐怖だけ。「お母さんは、僕のことを憎んでいる」そう感じとった。
黒いスーツを着た男たちが、少年を倉庫のような場所に連れ去った。真っ暗で何も見えない場所。
壁の向こうで、男たちが言い争う声がする。耳を澄まし、会話を聞き取ろうとしたが、わかったのはたった3文字の言葉。
それは、“キ オ ク”
少年は、真っ暗なところで何時間も待ち続けた。ここから出られる時を……
すると突然、扉が開いた。その明かりは、少年には眩しすぎるものだった。反射的に目を瞑ってしまう。
次に目を開けた時、少年はあの家の前にいた。お母さんとお父さんと暮らした家。そして、お母さんが死んだ家。少年は走って家に入って行く。
ダイニングのテーブルで、お父さんがいつものように食事をしていた。少年は部屋の異変に気がつきもせず 必死でお母さんのことを話した。真っ暗なところに連れていかれたことも。だが、覚えていわけがない。記憶がないのだから。
その時少年は、部屋の家具や壁紙が違うことに気がついた。お父さんも別人のようだった。
少年はたった10歳で、ひとりとなってしまったのである。文字どおり孤独に……
そして、この少年が行くべきところは“地獄”
追放された者が、行くところである。