第9話
「香奈、あんたさっきから顔が百面相になってるわよ。キモチワルイ。」
隣では彩が怪訝な顔で私を見ている。
「はぁ?この私が気持ち悪いですって?そんなわけないじゃない!今日も私は可愛いわっ!」
色んな意味でふっきりれた私は絶好調だ。彩以外誰も見ていないというのに、髪を手で払い一番可愛いと思しき顔で決める。
「あいかわらずすごいわあんた。ま、いいけど。ね、今から咲良君のバスケの試合があるみたいよ。見に行かない?」
ちょうどサッカーの試合も終わり、彩が立ちあがる。どうやら彩のクラスの男子が勝ったようだ。
「何で私が!」
「ってか咲良くんと対戦するのあんたのクラスよ?応援しなくていいの?」
――知らなかった。
「まぁうちのクラスが出るんなら行ってやっても・・・・」
「よし!行こう!」
そう言って、まだ座っている私の腕をひっぱりむりやり立たせる。彩はそのまま、ぐいぐいと体育館の方へと進んでいく。
「あっ、ちょっとひっぱらないでよ~。」
体育館。咲良のクラス(1組) 対 私のクラス(2組) 。圧倒的に1組の応援側が多い。もちろん女子が、であるが。
しかも私たち1年生だけではなくちらほらと上級生も混ざっているみたいだ。彼女たちは体育館の2階の応援席から身を乗り出してエールを送っている。
女子D「咲良く~んがんばってぇ~!」
女子E「咲良くんこっち向いてぇ~~!」
女子F「きゃー目が合っちゃった!!」
と黄色い声は様々だ。・・・・あいかわらずうるさい。2組の男子はというと、ギャラリーの多さに、しかもその大半が咲良の応援ということにげんなりし、戦意喪失気味だ。
「・・・咲良が勝つのは気にいらないわ。」
「へっ?何か言った?」
応援席の手すりから身を乗り出し、階下のクラスの男子たちに手を振る。この男たちに勝ってもらわねば困るのだ。
「2組のみんな!絶対勝ってね~っ!」
私は2組の男子に大きな声で、しかもとびきりの笑顔で声援を送る。自ら男子に話しかけることも、ましてや大きな声で声援を送ることなどない。だからみんな驚いている。どうよ、この笑顔。せいぜいこの笑顔で頑張ってちょうだい。そして、
「2組勝つぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「おおおおぉぉぉぉっ!!!!」
男どもは単純だ。私の思惑通り、やる気を出してくれたようだ。
「珍しいわね。あんたがこんなことするなんて。」
「簡単に咲良に勝たれたらおもしろくないじゃない。それにこんなこと私からしてみればちょろいもんよ。」
「まぁ中学のあんたは姫・・・ってか女王だったしね。」
それから試合は最初からすさまじいポイントラッシュとなった。1組が決めれば、2組も決め、咲良が決めれば、2組も仕返し・・・・と、気づくと前半だけで、45(1組) 対 40(2組)と接戦であった。
「なかなかやるじゃん!2組男子!あんたの応援のおかげ・・・・香奈?」
私は彩の声も、うるさい女子たちの歓声にも反応せず、階下をじっと見つめていた。周りの声が聞こえなくなるくらい、目が離せなかった。あいつから。