第2話
成績優秀。
スポーツ万能。
咲良優は剣道部に所属しており、中学のときに全国大会で優勝した経験もあるらしい。そしてなんと言ってもイケメン(私に言わせればたいしたこと無いけど)。人当たりがよくて、優しくて、気が利いて、笑顔が素敵(私は知らないけど)なのが、王子様として崇め奉られている由縁だ。
入学してわずか一週間で5人から告白され、2週間でファンクラブができた。
2ヶ月ともなると、「咲良優はみんなのもの同盟」が出来上がり、それ以来抜け駆けして告白した女子にはそれなりの制裁が待っているらしい。
ちなみに本人はというと誰からの告白も断っているという。
・・・ムカつくわ。
ビュンッ・・・パンッ
矢が放たれ的に当たり、乾いた音が響く。―――しまった。ちょっとズレたか。考え事をしながらではやはり上手くいかない。あいつの顔と思って射たのに。鼻に当てるつもりが眉間にブスリ。・・・まぁある意味命中かしら。
「なぁにニヤニヤしてんの?香奈。」
一人想像をめぐらせていると、後ろから声をかけられる。
「彩・・・。ちょっと憎たらしいやつの顔を思い描いてみたら眉間にヒットしたのよ。」
彩は私と同じ弓道部員で、中学からの付き合いである。中学でも部活が同じであったし、カラッとした性格で気兼ねなく話せて仲良くなったのだ。女子にしては高いほうである身長に、すらりと伸びた手足。短めの髪に細くすっきりとした顎。釣り目がちではあるが整った顔の彩は誰がみようと美人だ。見た目だけはね。がさつでイケメン好きのミーハーなのが残念でならない。
「なにまた咲良君のこと考えてたの?それって“恋”なんじゃないの?」
「なっ!?ちっ違うわよ!嫌いよ!!あんなヤツ!学校中の憧れの的を全部持ってっちゃって!私だって頭良いし可愛いのに!!!」
彩がにやにやしながらからんでくるのを、身をよじってかわし離れる。昔からつるんでいる彩には気が抜けてつい素を出してしまう。いつもはどうしてるかって?いつもはもっとお上品に猫かぶってるもの。当たり前じゃない。
「アンタのその堂々とした性格好きよ。」
「そりゃどーも。」
「って、それにアンタもそこそこ人気だから安心しなよ。」
「やだっ!一番がいいの!もっとちやほやされたいの!」
「そんな性格じゃなけりゃねぇ・・・」
私の言葉に呆れたのか彩はワザとらしくため息をつきながら道場を後にしようとする。この手のやりとりは日常のようなもので、私も彩も遠慮のない本音で話す。朝の道場で練習してんのなんて私たちくらいだしね。
「・・・って、ちょっと待ちなさいよ!」
どさくさに紛れて片付けを私一人に押し付けようとする彩の後を慌てて追いかけた。