第八回:5代目ルーチェHT後期
最後のルーチェである。
といっても、地味過ぎてあまり人々の印象に残っていなさそうな感じがある。三次ベンツという蔑称を出せば、嗚呼あの車、と思い出す人がいるかも知れないが……。
1.8Lの2ローターのロータリーターボエンジンを搭載したグレードもあるという特異な車なのに、デザインは驚く程平凡な車である。凡庸さで言えば先に取り上げたY32に引けを取らない。
しかし、Y32に感じるダサさはこの車には存在しない。たとえベンツの二番煎じと揶揄されようと、マツダの高級車として看板を背負う事を誇りに思い、それに命を掛けるような堂々とした気概が、見る度に押し寄せてくる。
どう見ても面白味のない角張った車なのに、不思議な魅力を醸し出している。筆者は、この車を目撃する度に、奇妙な高揚と鳥肌が立つ程の震えを禁じ得ない。
後継機となったセンティアが曲線を基調とした優美な女性っぽいデザインをしている為に、余計に男らしい無骨な造詣に惹かれてしまうのだろうか……。
正直に言うと、筆者はマツダがセンティアやルーチェ級の高級セダンのモデルを復活させる日を心の底から熱望している。
一時期はフォードに接収され掛けたり、会社その物の存亡も怪しい時期もあった。が、アテンザやアクセラといった、かつてのカペラやファミリアのそれを受け継いだ新規開発車種の市場での台頭や、ミラーサイクルエンジンを改良した第3のエコカーの新技術の底力と世間での注目度を鑑みると、そろそろ手始めにミレーニア辺りの階級の車へ着手しても良い頃合いではないか、と思うのだ。やはり、高級車の無いマツダは寂しい。
でも、唯一のロータリーエンジン車だったRX-8の販売中止のニュースを耳にすると、そんな妄想の実現などまだまだ遠いのかな、と遺憾に思う今日この頃である。