第五回:C33、A31
今はティアナに統合されて消滅してしまったが、かつてどう云う訳かローレルとセフィーロは2台セットで語られる車だった。
別に似た者同士だった訳ではない。歴史の長さも違えば内外装のデザインも異なる。そもそもローレルは正統派FRの走り屋御用達のL6RBエンジン搭載のスポーツセダンであり、セフィーロはこのA31を除けばV6VQエンジンを載せたモダンな調子のお洒落なFF車である。
たった一度、セフィーロというモデルを立ち上げる為に、骨格、内装、原動機、後輪駆動の機構を同じ物を流用した為に、その後も兄弟車として格下に扱われ続けるという因果めいた物を、筆者はA31という車について感じられずにはいられない。
そもそも、本当にC33とA31は純然たる兄弟関係にあったのだろうか?
いや、厳密な意味では紛れもない兄弟車なのだが、その質感やその後のこの2車種の動向を鑑みるに、どうも違うように思うのである。
C33は6代目としてデビューするにあたって、大きな転換を目指し、見事成功したように思える。
早い話がイメージチェンジである。それまでは単なる、大衆車から高級車へのステップアップの登竜門的な役割を担うハイオーナーカー、所謂ハイソカーに過ぎなかった車が、スカイラインという上級スポーツセダンとシャシーやフレーム、メカニズムを部分的に共有して近縁の親戚筋になる事で、元々あった凡庸な高級感に加算する形でスポーティーな雰囲気も身に付けた。
実際、その効果はあったようで、現在でもローレルの中でC33はC35と並んでドリ車や草レース向けのレーシングカーとしてそれなりの人気を博している。
勿論VIPカーの素材としても申し分ない。あの威圧感のある悪そうな顔つきと、バブルらしい豪奢な内装は、まさしく古き良き高級車と言えるからだ。
A31と違って前期後期の区別はリアコンビランプの制動灯や方向指示灯の配置とトランクリッドのデザインの違いで見分けられるが、筆者は個人的に後期型の方が好みである。
ただ1つ惜しいのは、これはA31にも言える事だけれども、ホイールをハブに留めるボルトが5本ではなく4本である事位だろうか。ホイールを交換する時にハブも変えたら良いとは云え、高級車を名乗るのに4穴はないと思うぞ。同時期に販売してたコロナやカリーナですら5穴になってたぞ!
C33と同じ様な事情でA31も走り屋共に人気の車種であるが、此方は大分毛色が異なる様に思える。
スカイライン、というより雰囲気的にはS13シルビアに近い。前照灯と前部霧灯合わせて6つあるプロジェクターランプなど、完全にS13である。
もしかして、セフィーロは元々デートカーからファミリーカーへの乗り換えをアシストする為の足掛かり、仲介役を担うべくして開発された自動車だったのかもしれない。当時はまだファミリーカーといえば、レガシィによってステーションワゴンも根付き始めたが、4ドアセダン1択の時代である。有り得ない話ではない。
そう考えると、A32でマキシマと統合されて前輪駆動車となり、1代限りとは云えステーションワゴンがラインナップされていた事情も見えてくるような気がするのである。家族で乗る為の高級車。現在のアルファードやエルグランドが持つ物を、当時の開発陣はセフィーロという車に託していたのではないか?筆者はそう思うのである。
残念ながら、この気質は現行のJ32ティアナから完全に失われてしまった感がある。今のティアナには、大柄なFF車の高級車というアメリカンな価値観に立った視点とその結果しか感じない。
当然と言うべきか、あれだけ先代J31型が好評だったのにも関わらず、現行型は不評で、少なくとも日本での売り上げ高は大きく落ち込んでいるという。
筆者としては、次期ティアナには大いにダウンサイジングして貰って、ファミリー志向の高級車としてデビューして欲しい。