第二十九回:JZX100
トヨタのマーク3兄弟が揃った最後の世代であると共に、マークⅡ・チェイサー・クレスタ史上最も外面的な性格が分化されたモデルである。キリリとしたスポーツ性能と適度なロイヤリティーを持つ、長男らしく落ち着いた性格をしたマークⅡ。その名前の通り攻撃的なフェイスを与えられたチェイサー。そして最高の物という名に相応しくプレミアム感を満載し、曲面を多用した豪奢なデザインを与えられたクレスタ。どれもそれまでのモデルと比べて格段に質が向上した、最高傑作だと筆者は思う。
今回は90と同じようにJZX型のツアラーVを取り上げようと思う。
100系のツアラーVはそれまでのモデルと同様に内装共通でハンドブレーキを採用している等の特徴を継承していたが、面白い事にクレスタだけツアラーVではなくルサーンGというサブグレード名が与えられている。そう、クレスタではツアラー系の称号が全てルサーンに置き換わっているのである。
なんと驚いた事に、100系は長男のマークⅡではなく、末っ子のクレスタが特別扱いされているのである。今まではドアの形を変えてライトを少し弄った程度でチェイサーのコブ付きのようだったクレスタが、漸くにして完全に専用の外装を与えられたのである。
6連の異型ヘッドランプに、マークⅡやチェイサーより一回りが大きく角が丸くなった逆五角形のフロントグリル。滑らかに曲面を描くボディーサイドに、丸みを帯びて緩やかに屋根からトランクリッドを経由してリアバンパーまでストンと綺麗に落ちるライン。何処か妖艶で、それでいて青々と活発な大人になりかけている元気で清楚な少女のような、そんな趣が100クレスタからは感じられる。筆者は、車は銀色が好きな部類だが、クレスタに限ってはイメージカラーである白色も、まるで彼女が纏う白いワンピースを彷彿させるようで、非常にマッチしていると思う。というより、この車以上に白が似合うセダンなどあるのだろうか?
走りも大変素晴らしい。以前100系クレスタを運転する機会に恵まれた事があるが、あの1JZターボの加速、ハンドリングは、まるで彼女の華奢な外観からは想像さえ出来ない力強い物で、そのギャップに暫く興奮を覚えてしまった。それでいて、そっとアクセルを踏み込んでやると、静かに優雅に発進する事もあるのだから、とても不思議な感じがした。
これが、筆者がJZX100という車の魅力に取り憑かれている理由でもある。
クレスタと比べるとやや落ち着いた……、と言えば聞こえはいいが、ややオヤジ臭さの漂う保守的なデザインをしているのがマークⅡの外観の特徴である。
特にその背の低さが特徴であるハードトップの利点を熟知した、角々しい中にも少しずつ後ろ下へ流れ、最後にズドンと滝のように線が落ちるトヨタらしいルーフからCピラーのラインは男心を擽るものがある。
また、後期型では今ひとつになってしまった感があるけれども、前期型のリアコンビランプの複雑な模様とそれを生かしたランプ配置は、150クラウン・セダンやC20セルシオを彷彿とさせる意味で、トヨタ車を象徴する。シンボルと言えば、一番外側にフォグランプを配置した6連ヘッドランプも、トヨタ独特な物の1つである。
JZX100において、全体的にデザインが保守的なのにシンプルに成り過ぎた、またはもう既にある程度深みがあるデザインなのに余計にごちゃごちゃとさせてしまった、という観点から、特にリアコンビランプに関して後期型のそれより前期型のデザインの方が好きな筆者ではあるけれども、唯一後期型こそが素晴らしいと思うのがチェイサーである。
前期型こそ、あのライトレンズの形なのに真ん中にウインカーとバックランプを並べ、上下をテールランプで挟むという訳が分からん仕様にしたが、ウインカーとバックランプを上にし、赤いレンズ内に円弧状に切った反射板を2つ並べて片側2灯のテールランプにした後期型は、視認性の面でも印象に残り易い意味でも成功した。やはりチェイサーというモデルの性格からして、男っぽくて格好良く、より戦闘的なスタイルの方が好ましい。
チェイサーがデザイン的に優れていた点は、後期型⇔前期型の相互互換の改造に於いて他の兄弟がトランクリッドごとユニットを全取替えしなければならないのに対し、リアコンビランプのユニットだけで済んでしまうという点であろう。そう、チェイサーはフロントフォグの細かな形状変化とテールランプのデザイン変更しかマイナーチェンジ時に為されなかったので、前期型と後期型の間で加工なしに部品を流用させる事が可能なのである。
いかにもトヨタのハイソカーらしい。X80時代からの伝統のようになっているセンターコンソールを絶壁にした変異種異型T型インパネルのダッシュパネルを採用した、如何にもマークⅡ系の車の内装をしている。特にその質感と完成度の高さが、100系を名車せしめている。
JZX100は、インパネルがセンター部のエアコンの送風口を含めたメーターフードとそれ以外の部分に段階的な仕切りを付ける半一体型のパネルを装備した最後のトヨタの高級セダンだと筆者は考えている。特にエアコンの送風口の右側、デジタル時計の下にある微妙に押し難い位置にあるハザードランプの小さなスイッチがいい。センター部分のど真ん中にデンと構えた、昨今の機能性と実用性を最重視したトヨタ車のハザードランプの配置も好きだが、自己主張をしない控え目なデザインも悪くない。シンプルさと機能性を追求する事だけが機能美を極める訳ではない。JZX100に乗っているとそんな事を教えられる。
ただそんな100系でも惜しむべきは、前期型では高級感もあって視認性もいい白いバックライトのメーターを採用していたのに、下手にスポーツ色を出そうとしたのか後期型では何だか黄色っぽい汚いアーバン色のそれに変わってしまった事だろう。こういってはなんだが、左側に円弧型の速度計、右側に同形のタコメーターで方向指示器とATシフトのインジケーター灯を挟んだ昨今のトヨタらしいメーター配置をしたJZX100の計器配置にスポーツ系の赤色は恐ろしい程似合わない。
昔、XS10のクラウン・コンフォートの個人タクシーに乗ったら、そのタクシーの運転手が自慢気にメーターの色を赤く変えたのを見せてくれた事がある。滑稽過ぎて言葉が詰まってしまった。
何せ、車のインパネルはおっさん臭い絶壁型パネルのお堅いセダンなのに、メーターの色だけが赤くて運転手の手元を好戦的な輝きで照らしているのだから、似合うに合わない以前の問題であろう。ファッションや部屋のインテリアでも調和と相性が重要視するべき項目だそうだけれども、車だってその例外ではないのだと強く考えさせられる出来事だった。
上のタクシーに比べると、JZX100はドラッグレースやD1等のイベントでも常連するような不良色の強いスポーツカーではあるけれども、やはりスバルのインプレッサとか三菱のランエボのようなガチ仕様のスポーツセダンと同じカテゴリーに入れるのかと云えば、決してそうではない。あくまでレースカーとしての潜在能力も持ち合わせている、参加台数の少なさ故に、まさかこんな車も!と目立ちたい時に乗る色物という印象が強い。それ故にアーバン色は、筆者には違和感しか覚えない。
しかし、それでもマイナーチェンジの時に計器類のカラーリングを刷新するなんてトヨタも思い切った事をしたものである。少なくともそうした例を、100系マーク3兄弟しか筆者は知らない。




