第二十四回:JZS160
恐らくW210やW211に強い影響を受けたのだろう。これの次代、ついこの間まで製造販売されていた先代レクサス・GSこと、GRL190の顔のデザインまでも影響を与えた、ハイビーム側を小さくした異型系丸目4灯の先駆車でありアリストという車を象徴する車だと思う。
ジウジアーロデザインだった147系と異なり、この車は全てをトヨタ自身が手掛けた事はよく知られている。その為ヴィジュアルの面から147系と比較されて駄作扱いをされがちな車だが、筆者はそうは思わない。
特に、トランクリッドに態々分けて設けた2つのライト部に、バックランプやリアフォグではなく敢えて普通の尾灯を兼ねた制動灯を配置するセンスは、虚を突かれたという意味で中々斬新な趣向で格好良かった。実際、もうデビューして15年以上経つ訳だが、外観でも性能でも最近の車とそれ程遜色はない、と筆者は思う。事実上最後まで販売されていた2JZ3LL6のターボエンジンを搭載していた車だったというだけでも貴重な車だ。
この160系で特筆すべき事は、何よりもトヨタ自身がアリストを単なるスポーティーな高級車から高級感のあるスポーツセダンへと、その特徴をより濃い方に重点を移行させた事だろう。白盤の独立型3連メーターと3本スポークのT字型ステアリングホイール等、大切な高級感を犠牲にしてまで、これ付けとけばスポーツカーぽくって格好良いだろ?な如何にもな装備を満載していた。筆者自身はこのようなスポーツセダンに凄く食指が反応するので大満足だが、一般的な高級車としての評価を下せば、アリストは大きく損ねたと言わざるを得ない。
実際、車に疎い家族や知り合い等、たまたま目に着いた160系が話題に上るとこのような話になる事が多い。曰く、図体の大きいだけの安物でしょう?
とんでもない、クラウンよりも上級な歴とした高級車だ!筆者がそう言うと、何故か皆吃驚する。そして、北米では否現在日本でもレクサスブランドの主力車種GSとして、元セルシオのLSのすぐ下のプレミアムカーとして販売されている事を教えると目を丸くする。……というのは冗談だとしても、大多数の非車ヲタ及び車に興味のない一般人にとっては、160は所謂高級車というものから大きく外れる存在のようである。かく言う筆者も、160のメーターフードの、メーターの仕切り壁と一体構造になったプラスチック感丸出しのパネル部品の造形は擁護出来ない。ダサいとか格好良いとか議論する以前に、素直に安っぽいと感じる事を禁じ得ないからだ。
さらに、ジウジアーロが手掛けた先代、レクサスの第一の旗艦車種として衆目を大いに集めて鳴り物入りで日本に上陸した次代と比べれば、160系の存在の薄さ、ないし華のなさが露呈する事はある種致し方ないようにも感じられるのである。
日本にレクサスブランドが上陸する前に、既に北米では同ブランドのGSとして売られていた160アリストであるが、実は日本で売られているトヨタブランドのアリストと、彼の地で販売されていたレクサスブランドのGSとの間では、ある1つの点で明確な差別が図られていた。それは、レクサスブランドの方がNAエンジンのS300と同じくV8エンジンのS400(後期は430)に対し、日本の方はV8エンジンこそ投入されなかった(クラウン・マジェスタと客層が被るため)ものの唯一2JZエンジンにターボ仕様のV300が先代と同様専属投入されているのだ。
勿論、単なる排気量で比べると4LのV8エンジンを載せた北米の方が最上グレードであるが、アリストの本質上1番の人気はターボエンジンのV300である事は満場に一致するところだ。その為、北米地域に住んでいた車好きの中には、S300にターボチャージャーや各種過給器をボルトオンで後付けし、V300もどきを自力で組み上げる猛者も多かったと聞く。
最後にアリストのデザインにおいて言及するとすれば、外観の全体のフォルムの形状であろう。その造形は所謂FRセダンの特徴を全て網羅した手本のような車であるが、まるでV6エンジンを搭載しているかのように、ボンネットが前の方に大きく傾斜をつけながら下がっている。その実、直6エンジンの2JZが鎮座しているのだから、初めてこの事実を知った時は大いに驚愕したものだ。
直列6気筒は、左右に3本ずつシリンダーを分けてV型になるように配置させたコンパクトが売りのV型6気筒エンジンと異なり、前から後ろに向かって6本のシリンダーを1列縦隊で直立に配置させたエンジンである。その為、左右方向はV型や水平対向型と比較して場所を取らないものの、前後方向ではシリンダーの数だけ場所を大きく取ってしまう。
そういう訳で、8気筒未満はL型が当たり前だった古い車種では、ノーズが延びる分運転席から見る前方の景色の下端にボンネットフードの先端が見える場合があり、その左右の端に緑色や青色の標識灯が付いている事が多かった。流石にこのランプは廃れてしまったが、この間まで執拗にL6エンジンに拘っていたBMW等では、今でもボンネットが見える車種が結構ある。
一方、160アリストは同じ様に直列6気筒を搭載していながら、車内からボンネットを見ることは難しい。だから標識灯がバンパーの左端にある収納可能なポールの先端に取り付けられている。これは、その頃の2JZ系エンジンがそこまでコンパクトなサイズになっている、及び車体の設計が進化してこのサイズでも大きなエンジンを載せられるだけのスペース且つ安全性の確保が可能となっている事を示している意味で、まさに喝采に値すると筆者は考えている。
しかしながら、直6エンジンの小型化の可能性に限界を見たのか、この160系を最後に2JZ系、次の170系クラウンで1JZ系の開発をトヨタは中止し、新しいV6のGR系エンジンに完全に切り替えてしまった。現在、トヨタの販売車種でL6エンジンを採用している車種は存在していない。
しかも残念な事に、時代はL4エンジンへのダウンサイジング、より小型化、軽量化の方向へシフトしつつある。さらに悪い事に、上から見ると杭のように思える直列6気筒エンジンは、高速時での正面衝突事故において、エンジンが車内へ突き破ってき易い危険からその安全性も疑問視されている。少なくとも冗談でなく、筆者の生きている内に新しいL6エンジン搭載車には巡り会えないかもしれない。
そう考えると、少しならず残念だと筆者は思う。




