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第二十三回:W140

 創世期から世界の自動車産業を支えてきたその長い歴史において、何度となく変革を越えてきたメルセデスだが、その中の1台が90年代のW210の登場とW211に始まるメルセデスデザインの変貌であった。如何にも昔の高級車らしい角張ったデザインからシャープな流線型、もとい流動的なカーブを意識させる新しいデザインへの移行。メルセデスが身近になる中、新しく入ったメルセデスオーナーと古くからのファンの間で評価が二分され、賛否両論に議論が盛んになった時代だった。


 そんな中、一足早くデビューしてしまった為にその流れに乗り損ねた感が漂うのが、今回のW140、及びW202である。


 W201の後継車でCクラスとして新たにデビューし、リアコンビランプのデザインにその後のメルセデスデザインの予兆を確かに実感するW202と異なり、W140に関しては完全にその当時の去りゆく旧時代の名残のような雰囲気を感じる、Sクラスという硬派なセダンであったと筆者は思う。


 角張って威圧感もある威風堂々とした大柄な体格、W124を感じる造形でありながら、その遙か上を行く質感は、まさに最高グレードのSクラスを名乗るのに相応しい。この次のW220では、Sクラスはフラグシップとは名ばかりの、下位階級のEクラスやCクラスの上位互換な車に成り果ててしまったように常々感じている筆者としては、メルセデスらしい色に染まりながらも旗艦車種として強烈にその個性を放っていたW140という車が好きである。


 個性といえば、現行W221は、Eクラスは勿論の事Cクラスにも一足早くモデルチェンジを済ます事が出来た事で、本来のSクラスらしさを取り戻せた感がある。それどころか、W204の全体のフォルム、そしてW212のデザインの一部にもその影響下に置く、本来のフラッグシップとしての役割を取り戻したようにも思われる。


 さて……、前言を翻すようにも聞こえかねないが……。尤もW140もそこまで個性的な車である訳ではない。はっきり言って、内装やインパネのボタン類の配置は、それなりの独自性を発揮していると云えど、W126の焼き直しである。

 ただ、W140をW140足らしめたのは、テールライトの小さな変革であった、と筆者は考えている。


 メルセデスの伝統として、尾灯のガラスカバーにくっきりとした何筋もの水平な凹凸した窪みがある、という特徴がある。これは、あまりにもよく知られた話でもあるけれど、たとえ車に泥や雪がこびり着いてライトカバーが汚れてしまっても、凹った方に付着し難くする事で点灯時に後続車へ自車の存在を認識させやすくする、そんな効果を狙ったものである。

 これは、現行型の全てのメルセデス・ベンツにも今でも受け継がれている。が、最近の車種は昔と異なり、その凸凹がはっきりとは見分け辛くなっている。ウインカーやバックランプの位置を調整してその部分へ出っ張りを設けたり、途中で何らかのパーツを挟んだり、もしくは溝そのものの深さをずっと浅くして、凸凹を目立たせないように工夫しているのである。


 これは、単純にLED等、低電力で高輝度のライトを安価で製造出来るようになった時流の変遷の結果でも無論あると思われるが、筆者にはW140の、特に後期型の正面から見ると単なる滑らかな平面にも見えなくもないあのリアコンビランプこそ、こうした変化の全ての始まりではなかったか?と強く思えてならないのである。

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