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第十九回:VCV10、VCV20

 1980年代末、トヨタは自社ブランドを高級車として世界に広める為、当時開発中だった初代のセルシオやアリストを中心とした高級車専門ブランド、レクサスを北米トヨタで立ち上げた。

 しかしこの時、北米ではビッグスリーの各ブランドが軒並みFRからFFへと趣向を転換した後であり、最後の砦であった高級車市場の動向もそちらの方へシフトしていた。この為、至急ながらレクサスブランドにも中~上流層向けのFFセダンのラインナップが急がれたのである。

 同時期、空前のバブルに湧いていた日本でもミドルクラス級の高級車の要求が高まっていたが、トヨタのカローラ店にも3L以上の高級車が存在しなかった。

 こうして、日米のそれぞれの需要に答える為に先代のカムリ・プロミネントを元に開発され、1991年にレクサスブランドとカローラ店で販売された車が、2代目レクサス・ES、またの名をトヨタ・ウィンダム、VCV10である。


 この車が世に出た当時は殆ど赤ん坊だったのでCMとか当時の反響など全く記憶に残っていないが、やけに格好良い車だなと感じた事を筆者はよく覚えている。というより、あの頃の車達の例に埋もれず、今見ても10系ウィンダムは格好良い。適度に釣り上がった目と小さな口元、背の低いフォルムをシャープな曲線に身を包んだボディー。昨今の車のデザインの走りとも言える。


 ESも含めて都合4代(前身のカムリプロミネントも入れると5代)続いているウィンダムの系譜で、10型は唯一4灯プロジェクターランプを採用している車である。

 ただ、今度行われる次期型への移行では、GSで取り入れられた事もあり、再びESに4灯プロジェクタータイプのヘッドライトが採用されるのではないか、と筆者は密かに期待していた。が、またしてもロー側2灯プロジェクターでハイ側クリスタルカットの、トヨタのお家芸とも言える複合構造を採択したようで、少し残念である。


 VCV10で一風変わった所を探すとすれば、それはインパネのセンターコンソールの上部にあるエアコンの送風口だろうか……。

 何故か3つ口である。この手の通風口の配置は2つというのが定石だが、どういう訳だか初代ウィンダムは真ん中にもう一つ仕切りを設けて送風口を3つに分けていた。

 助手席、運転席、そして真ん中の3つ目は後部座席に送風する為の、トヨタらしい配慮のような気がしないでもないが、訳が解らない。というのも、大概センターに設けられる穴というものは、後部座席の方に力強い風を送り込む為の物だからである。特にVCV10のような後部座席にエアコンの風口を空けていない古いセダンでは……。


 後部座席の、運転席側、助手席側、真ん中のそれぞれに適度に風を配分する為か……?それはそれで、前席という障壁がある以上無意味なような気が……。


 10系をさらにシャープに、もっと優雅に進化させたのが、次期型となったVCV20である。プロジェクターランプが普通のHIDのクリスタルカットへと様変わりしてしまったが、フロントバンパー下にフォグランプを配置、20系セルシオっぽいリアコンビランプ、10系の時に妙に目立っていたサイドドアラインの出っ張りを失くすといったデザイン的な改善をし、レクサス系のミディアムクラスの高級車としての地位を堅実に歩んでいたモデルだ。


 特に20系については、登場時のCMが印象的だった。

 白い蛍光灯のライトが延々と照らす、真っ白な光に満たされた何処までも続く長いトンネルの中、その奥から1台の銀色のウィンダムが突進してきて目の前で停車する。

 車のCMで車が道路を疾駆している。これ自体は別に不思議でも何でもない。ただ、VCV20のCMには、人間というのが一切出て来なかった。


 たとえ、車がその主体のそれといえども、欧米他諸国と違い、日本の車のCMで登場人物が一切でないCMは今も昔もまずあり得ない。広く知られた露出の多い有名人を使おうが無名の劇団員を雇おうが、まず安っぽいドラマ仕立てにして人物にもピントを当てるか、運転手がハンドルを握りつつ満足気に微笑むショットを挿入するか、まず人を使ってそれがいい物である事を抽象的に見せ掛けた具体例をもってして、視聴者へある意味論理的説得に徹する。最近のやたらとエコを連呼する安易なCM軍も根本の所では同一であると筆者は思う。宣伝とは概ねそういう物だ。人を説得するのに一番有効なのは人に説得させる事だ。そうでなければ通販の宣伝マンなど必要でなくなってしまう。


 その常識を、トヨタはウィンダムのCMで覆した。

 ただエンジン音を唸り上げて疾走する1台の乗用車、ピタっと急停止してカメラの方を睨みつけてフェードアウトする間際に、メーカーとモデルの名前を淡々と告げるダンディーな声をした男性声優のナレーション。ただそれだけの短い映像なのに、見る者にはっきりとその存在を知ら示す、そんな鬼のような気迫をウィンダムは纏っていた。


 そんな幼少時な体験がある所為か、筆者は10系も20系も好きな車だが、何方かというと意欲作の先代よりも洗練された次代の方が好きである。

 尤も、それは同じモデルの前期型と後期型の、どっちが好きか、と云う物に極めて近い物であるが……。

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