第十七回:JZX90
筆者の中で、6世代以上連続して神車として認定し続けている車種が1つだけある。旧マークⅡ、現マークXである。
昔ながらのハイソカーとしての高級車的な品格とスポーツ車としての性能や格好良さ、全車3ナンバーに拡張されて以後もその独特のクールな性格で日本の高級セダン市場を席巻してきた。クラウン等と共にトヨタを象徴するモデルとして今尚降臨している。
その中で、特にマーク兄弟の各グレードの中でも最高峰に位置し、人気の高いツアラーVがカタログの中に初めて登場したモデル。それが90系である。
高級車こそターボを!……この90系と続く100系に至る時代。今から思えば、バブル以上に日本のセダンの黄金期なのだったのではなかろうか。好景気は経験した事がないものの、この時代に子供時代を過ごす事が出来て、筆者は凄く幸せだったと思う。まだ多く走っていたバブル時代の名残達に混じって大通りを疾駆する白い90マークⅡを、憧れを込めた眼差しで見送っていた幼少時が懐かしい。あの頃も不景気だと大人達は呟いていたけれど、まさかあれから10年も経たぬ内に、マークⅡも含めてあれだけも多くのセダンのネームがこの世から消滅するなんて……。正直考えもしなかった。
さて、感傷に浸るのは程々にしておいて、JZX90である。
先に記述した通り、81からの流れを色濃く継いだのが90系の3兄弟である。
その特徴は主に、マークⅡか、それ以外に分かれる。
マークⅡは、内装や中身のスペックは他の兄弟と同一の物を流用されているものの、長男らしく特権を振りかざしたのか、遠目でもすぐ見分けがついてしまう位、他の兄弟とは外見的に差別化が図られている。
具体的に主なデザインの相違点を列記すると、まず、ヘッドランプのレンズの形状とその間のフロントグリルの形が他の2車と大きく異なる。チェイサーとクレスタはどちらかと言うとタレ目のような、柔和な印象を与える面構えをしているのに、マークⅡはつり目で見るからに戦闘的な顔立ちをしている。まるで、3人兄妹の中の1人だけの男の子を見ているような錯覚に陥りそうになる。
ついでに、チェイサーとクレスタはフロントフォグがヘッドライトレンズの真ん中寄りに付けられているのに対し、マークⅡだけは100系と同じく外側に配置されている、という違いもあったりする。
次に、リアの構造も大きく違う。
90系は、普通の車と比べると比較的大きな上下に幅のあるリアバンパーカバーを装着したモデルだが、チェイサーとクレスタはまあ普通と言えるサイズであるのに対し、マークⅡのそれは度を越して大きい。トランクリッドと車底で仕切った後部の面積の大半をバンパーカバーが占める車両なんて、筆者の知る限り90マークⅡしかない。
トランクリッドの上部こそ厚く造られていたが、テールライトがそれ以上に細かったのだ。
おまけに、トランクリッドの開口部のセンター部分も狭かったから、開口部が高い所為でトランクルームに段差がある事も手伝って、大きくて重い荷物の出し入れをする時は難儀したそうである。まあそれでも、13クラウンとかY31のようにトランクの上端までしか開けられない古い時代のセダンと比べたら幾分かはマシなのではないか、等と筆者は思うのだが……。
そうそう、90マークⅡと言えば、道交法の改訂を見越して全新車にハイマウントストップランプが取り付けられ始めた世代のモデルでもある。その中でも90マークⅡには面白い装備があったという記録がある。
その頃、セダンにも、ワゴンのようにリアウインドウにワイパーがオプションで付いている事があった。今でもワゴン主体のスバルのレガシーB4等には標準で装備されている。
しかし当時、今と違ってハイマウントストップランプを車内に据え置きで設置する時に、リアワイパーと干渉させない術が無かった。
普通ならその時点でストップランプを上から吊るすか、リアウィングを付けてそこに持ってくるかという措置を講ずるが、トヨタは凄い事をやってのけた。なんと、ストップランプを手前に持ってきたのだ!
それならリアウィングを装着するのと変わらないではないか、と思いがちだが、そこはトヨタ。若干手前に持ってきたのである。ワイパーのすぐ目の前のトランクリッドがモニョっと土手のように少し膨らんでいて、そこにストップランプが……。これこそ本当の珍装備だ、と筆者は思う。
閑話休題。兎に角、90系の中でマークⅡだけ、トヨタに取り分け優遇されていたのである。その本意では定かではないが、その後マークⅡだけが生き残って現代のマークXへと引き継がれた動向を見るに、コロナ・マークⅡからの伝統と無関係ではあるまい、と筆者は思っている。
チェイサーとクレスタ。この遠目に見たら同じ車としか思えない2台も、90系になってから、80系と比較すればかなり分かり易いデザイン的な差異を与えられている。
その違いを端的に擬人化するなら、チェイサーはいつも無愛想にしているジト目が印象的な双子のお姉ちゃん、クレスタはキョトンとした目が愛らしい柔和で好奇心も旺盛な妹、と云ったところか。もっと言及すると、筆者はチェイサーには男勝りで格好良い、クレスタには内気だが芯の強いという心象を抱いている。
まあ、ただ単にその後の100系になった時の様相を知っているからこそ、過去のデザインへ無意識にそれを投影している可能性も否定出来ないが……。
ここまで来ると、70系から80への変化、そして90系へと至るマーク3兄弟の変遷は、同じ車種を基幹として曖昧模糊に分岐して似たようなスタンスに立っていた3台に、段階的に別個の個性をそれぞれ持たせる為の、戦略的な途中経過の産物だったのではないかとさえ思えてくる。
その結果、それぞれ3台にどのような個性が与えられたのか?それはいつか100系を取り上げた時に後述する事にしよう。
チェイサーに面影が似ているからって、要らない子扱いにしてごめんね。……と、至極私的な懺悔をして、今回は終わろうと思う。