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第十三回:JZS150

 戦後60余年。たった半世紀ちょっとの間に、日本は世界有数の自動車大国にのし上がった。

 トヨタ、日産、本田技研、三菱、マツダ、富士重工、ダイハツ、スズキ、光岡、いすゞ……。大なり小なり有名なメーカーがこれだけ揃っている国も、USAとドイツを除けばそうあるまい。

 かつてはペットの車(笑)と嘲笑されていたのに、今は見よ!日本車は安全と耐久性に信頼のおける自動車として世界中の道路を闊歩している。


 さて、そんな日本の自動車達を、1955年から優に半世紀以上、製造元が変わる事なく連綿と牽引してきた唯一の現役モデルがある。トヨタのクラウンである。

 日本人の、日本人による、日本人の為の高級車。クラウンとは如何に?と一言で表せばそんな言葉が出てくる。


 そして、そんなクラウンを象徴するモデルを歴代のクラウンから1つだけ選ぶとすれば、この150系であると筆者は思う。

 歴代最初の全販売モデルがモノコック車である型式である、と同時にクラウン史上最後のハードトップである共に、上品かつ鋭利な格好良さと何処か親父臭さが漂うスタイル。特に後期型のフロントグリル周りとリアの尾灯周りのデザイン等、これ程までにクラウンらしさを踏襲したモデルがあるだろうか……。


 150系クラウンを冠する、ロイヤル、セダン、マジェスタの3車種において共通する一番の特徴は、丸みの中に四角く角張った誇張を含めた、非常に和風な意味で保守的な独特のエクステリアデザインである。同じ保守的な外観でも、四角いボディーや鋭利な構造物に丸みを持たせているアメリカ的、ないし欧州的なデザインを標榜する日産やホンダのような他の国産メーカーの車とは一線を画している。

 特に特徴的なのは、やはりその顔つきだろうか。大きなフロントグリルを持つ厳つい強面になりかねない顔面をしておきながら、その目は何処までも優しさに満ちていると錯覚する程のタレ目である。それでいて全体のバランスは非常によく取れているから、逞しさの中に親しみを感じられる物になっている。


 程良い曲面を見る者に意識させつつ、すっと前から後ろへと流れるように上がっているドア部分のサイドライン。緩やかなヘの字を描くようにボンネットからトラックリッドの取付け部までを結ぶピラーとルーフの描く形状。如何にも80点主義のトヨタらしい、基本に何処までも忠実な車造りに徹している所が、この車を良車にせしむ重要な一因となっている。


 ハードトップのロイヤルにしろ、セダンにしろ、筆者はどちらかと言うと後期型の方が好みである。

 その理由は、勿論年式の新しい方が前期型にはない新装備が付随していてスペック的に平均値がより高くなっている、という事も無くもない。が、一番の理由はテールランプ周りのデザインが筆者好みに一新されている事。そしてフロントフォグランプがヘッドライトの外側、ポジションの隣からバンパー下部のウインカーの内側隣へ移されている事等、全体の雰囲気が一気に今様に刷新されているからである。


 尤もハードトップの、ハザードとフロントフォグをバンパーのエアロ孔の外側に隣り合わせで取り付けるという手法はY32の頃から日産が散々やり尽くしてきたデザインのやり方であるし、他のメーカーもやっていた事ではあったが、ヘッドライトとフォグランプが一体型になっているか当たり前だった110系から140系までのクラウンから、他の車種のようにフォグランプがバンパーの方へ分離された170以降の現行車まで至る系譜を橋渡しする存在として、150系の存在意義は大きい、と筆者は考えているのである。


 クラウンの外見上の変遷以外に、150を重要視せざるを得ない要素が幾つかある。


 まずはセダンにおいて、170系がハードトップでなくなった為に、ハードトップのセダン形態として設定されていたタクシー用のクラウン・セダンが150系を最後にして消滅した事である。150系が生産を終えた後、トヨタには純粋にクラウン家の正当な子女と問えるようなタクシー用営業車やそれに類する車種は販売されていない。

 今現在も、クラウン・セダンと銘打ったモデルがトヨタのカタログに記載されているではないか、と反論なさる読者も居られるかもしれない。だが現行のXS10は、コンフォートと同じように80マークⅡのシャシーを流用した車である。コンフォートやクラウンコンフォートと同じように内外装のデザインをクラウンっぽく見せているが、筆者はこの車を正当なクラウンとして認める事が出来ないでいる。

 何かが違うのである。デザインを似せただけでは醸し出せない風格とか、トヨタの本気のような気迫が、現行のクラウン・セダンからは感じないのである。もう格安の営業車として割り切って造りました、という感じと言えばいいだろうか……。サクシードやハイエースのセダン版と表せば理解して貰えるだろうか……。高級っぽい車であって、断じて高級車ではないのだ。エンジンがどのグレードを選択しても2L4気筒一択な所とか、妙に小さいホイールの所為で心なしかずんぐり体型の背高のっぽに見える歪な箱型のデザインとか……。


 兎に角、150系を最後にしてハードトップが廃止された所為で、クラウン・セダンの存在価値は、タクシー営業用の車両としての利用を除けば、完全に消失してしまった。


 セダン程は無いものの、魅力が半減して久しいのがマジェスタである。


 そもそもマジェスタとは、JZS140の項目でも述べた通り、アリストをベースに創り上げられた奇異なクラウンである。と同時に、その全く異なる属性の車から造り込んだ事がマジェスタの最大の魅力的な点の1つだった。

 ところが、どういう訳か150系からは、マジェスタは純粋にクラウン由来の派生車種として、本家のロイヤルと全く同じ車体を改造するというコンセプトに鞍替えされてしまった。

 クラウンから外観だけを小手先に模様替えしただけだから、ディテールや雰囲気がクラウンのそれと同じで当然。先代の140のように、細かい所までクラウン、クラウンしていながらその実ベース車はアリストという、周囲をあっと言わせる新鮮な驚きはもうそこには存在しない。

 しかもそのエクステリアにした所で、どう見てもキャデラックを激しく意識している事を思い切りちらつかせているスタイルである。


 はっきり言おう。150以降、170、180、200……。これらのクラウン・マジェスタは、従来のロイヤル、170からはロイヤルサルーンとアスリートとハイブリッドだが、と差別化を図って独自路線を突き進もうとする140とは真逆を指向しながら、結局クラウンから一歩も逸脱する事が出来なかったという意味で、失敗作だ。


 いやいや、V8のサウンドは至高だし、その辺の車と比べれば格段に乗り心地も宜しい、と反論される読者も居られるかも知れない。実際、筆者もマジェスタ自体は良い車だと思うし、何方かと言えばどれも好きな車だ。しかし、マジェスタ以外のクラウンから一線を画す、という根本的なコンセプトから見れば、大雑把な外見なら兎も角、細かい部位や形而上的な見地から判断すると、クラウンと云う物に依然として取り憑かれている時点で失敗だと言わざるを得ない。

 もっと言及すればパンチが足らないのだ。え?これ、ベースがクラウンなの?!そんな驚きが……。


 先の年末、とうとう200クラウンもマイナーチェンジを迎えて後期型へとアップグレードし、次のモデルチェンジまでのカウントダウンが切られるようになった。

 各自動車誌によると、次期クラウンは最近の風潮に便乗してフルサイズからダウンサイジングされ、直列4気筒2.5Lエンジンを主体とするミディアムクラスへと変貌するようだ。が、もしも次代にもマジェスタがモデルとして設定される場合、トヨタの開発陣には是非、クラウンから突き抜けた、目を見張るような驚きに満ちる変身を遂げたマジェスタを世に送り出して欲しい。そう、切に願う。


 ついでに欲を言えば、そろそろ新型クラウンを基礎とするタクシー用の5ナンバー車を新造したらどうだろう。……と思う筆者なのである。

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