行き着く果ては…
ここは、なんだって見える。
朝なら朝日に照らされて、少しずつ起き出す街並みが。昼ならサンサンと照らす太陽を避けながら歩く人並みが。夜なら月と街のネオンが輝くビル達が。空がとても近く感じるし、風がやたらと強い。真下には、米粒より小さい車や人が見える。もうすぐ終わる…色のない世界から抜け出せる…もうすぐ、もうすぐ…。
僕には、愛する人がいた。たった1人の存在。真っ白な僕の心のキャンバスにたくさんの色を付けてくれた。鮮やか過ぎて眩しいくらいの色達だった。世界が今までとは、全く違って見えた。一生の恋だと思ったけど…彼女は、死んだ。17歳の春に。
彼女は、末期の癌に犯されていた。でも、悲しい顔一つしなかった。クスリで抜けてしまった髪の毛のショックも、痛むはずの全身の苦痛も、全部1人で背負った。そして、笑っていた。僕には、人がこの世からいなくなってしまう現実が見えていなかった。むしろ、この時には、何も見えていなかったのかもしれない。
その時は、突然やってきた。いつものように面会に向かっていた。病室に入ると彼女の姿はなく、静まり返っていた。最後に逢う事も出来ずに、彼女は、静かに息を引き取ったそうだ。その瞬間から、なんの色も見えなくなった。暗やみではない。形があっても色がない。僕は、すべての色を失った。桜が満開の晴れた日だった。
彼女は、最後に手紙を残していた。 *愛するハルへ*
こんにちわ、ってそんな始まり変だよね。あなたがこの手紙を読んでいるという事は、私は、病気に勝てなかったんだね。情けなくてゴメンね。でもね、最後まで諦めなかったよ。私は、ハルともう一度一緒に桜並木を歩きたかったの。あの時が短い私の人生の中で一番の幸せだった。私がいなくなっても、あなたの輝かしい人生は、あり続けるわ。普通に大人になって、自然に結婚をして、いつまにか年老いて…幸せになってください。たくさん幸せになってください。
最後にあなたの人生に幸多かる事を祈りながら、目を閉じます。
アヤ
冷たい風が吹き抜ける。何もない。ここには、僕以外何もない。アヤの声が聞きたい。最後に…
「アヤ、もうすぐだから。もうすぐアヤの元に行くから。」
手には、黄ばみかかったアヤからの手紙が握られていた。ハル、17歳。アヤ、16歳。短すぎる人生に2人は、何を見たのだろう。残すもの、残されるもの、生きたいと願うもの、死にたいと願うもの。愛は、時より残酷な結末を迎える。
笑っていた。ハルは、死んでも笑っていたはずだ。
生きる事と死ぬ事は、決して遠く離れているものでは、ないと思います。「死」という選択が正しかったのか、間違いだったのかは、本人でなければわからないと思います。