ハンカチの中の女の子
私はとある雨の日、自転車で商店街を走っていた。私の住むマンションは商店街の近くにあり、私はその時、商店街をはさんで家と反対方向の、ピアノの先生の家へと向かっていたのだ。私は急いでいたので、前方にある赤いものを認識したのは、その上を自転車で通り越した後だった。すぐに止まって振り返ってみると、その赤いものは、ハンカチだった。近くに行って拾ってみると、ハンカチには、金髪で、目は青く、桃色の頬をした、とてもかわいらしい女の子がいた。そう、柄ではなく、本当にハンカチの中にいるように、リアルに見えたのだ。ただ、顔の真ん真ん中を通り抜けた自転車のタイヤの跡が、それが絵柄である事を証明していた。ごめんなさい。と思いながら、私は、そのハンカチを、近くにあったポストの上に置いた。そしてまた、超特急で走り出した。まるで、なにもなかったかのように。
ピアノのレッスンが終わり、また私がポストの前を通った時、ハンカチはなかった。
よかった〜。持ち主が持って行ったんだ~。それにしても、タイヤの跡、洗ったら落ちるかな~。
私がそんな事を考えながら走っていると、目の前に、また赤いものがあった。それは、さっき拾った、あのハンカチだったのだ。あれ?私は不思議に思いながら、ハンカチを、近くのガードレールの上にかけた。
しかし、その次の朝、商店街を通り抜けて学校に行こうとしたら、そのハンカチはガードレールの上ではなく、そこよりも私の家に近い、八百屋さんの前の道に落ちていた。次の日も、また次の日も、そのハンカチは、どんどん動いて、私の家の方へと近づいていった。
そしてある日、ハンカチが商店街から消えていた。私は不思議に思ったが、ホッとしていた。だが、家に帰ったら、私の家のドアの前に、金髪の女の子が立っていて、手で顔を覆い、泣いていた。私が、「どうしたの?」とたずねると、女の子は、顔を手で覆ったまま、「私、怪我しちゃったの。」と答えた。私が、どこを?と聴くと、女の子は顔から手をはずしながら言った。「お顔なの。」女の子の顔は、とても悲惨な状態だった。鼻は無残にも潰れて血が噴き出していて、唇は真ん中を引き裂かれ、上下2本ずつ前歯がなかった。私がそれを見て言葉を失っていると、女の子は言った。「ねえ、お姉ちゃん、私のお顔、治して。」そして、ジリジリと近づいてきた。
私は、意識を失った。