バクの夢のタネ
夜の森の奥。
バクはそっと目を覚ます。
今日もまた、誰かの心に迷い込んだ悪夢を食べに行く。
そして代わりに良い夢を、その人の夢の畑へ植えに行くのだ。
バクは鼻先で夜の空気をすくった。
「うん、今日は少し苦い悪夢の匂いがするね」
そうつぶやいた……。
悪夢は黒い霧のように漂い、眠る人の胸の奥に絡みついている。
バクが、その悪夢の匂いを辿って近づいていく。
悪夢はバクの足音に気づいて震えた。
「怖がらなくていいよ。君はもう、ここで終わりだ」
バクは大きな口を開けて、黒い霧をひとすくい、またひとすくい。
食べるたびに、霧はふわりと甘い香りに変わって消えていく。
悪夢を全部食べ終えると、バクのお腹はぽんっと少し膨らむ。
でもそれは重さではなく、あたたかさ。
悪夢を浄化した証。
バクは静かに眠る人の枕元に座り、お腹の中のあたたかさをそっと手のひらに移す。
すると、手のひらの上に小さな光のタネがぽっと灯った。
バクはそのタネを、眠る人の胸の奥へそっと吹き込む。
光の種はゆっくりを沈んでいき、やがて心の中で目を出す。
その夜の夢をやさしい色に染めていくのです。
ある人には、海辺の風が吹く夢。
ある人には、子どもの頃の懐かしい景色。
ある人には、まだ見ぬ未来の希望の光。
バクは植えた夢がどんな形になるか知らない。
でも、どれもその人にとって必要な優しい夢になることだけは、確信している。
どうか……安らぎのぬくもりの中で、良い夢を。
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