第7話 不老不死
「やあ。何をしているんだい? レン」
「おはよう? ヴェル……ナード?」
目を覚ますと、ヴェルナードが僕の顔を覗き込んでいた。背景には清々しいほどの青空。木漏れ日が顔に降り注いでいる。
つまり、僕は寝っ転がっていた。森の中で。正確には倒れていたと言った方が正しいか。
しかも寒い。めっちゃ寒い。なんか既視感。
「何でこんな寒いんだ……?」
「それはそんな格好をしていれば当然だろう?」
さも当然とばかりに言われ、僕は自分の身体を見た。素っ裸だった。何故?
「……あれ? 僕、何をしてたんだっけ?」
ひとまず身体を起こしてヴェルナードに聞いてみる。そもそも何故ここにヴェルナードがいるのか。それすらわからない。
「レン。キミ……死んだね?」
「死んだ……?」
衝撃的な一言。何を言っているのかわからなかった。
「『何言ってんだコイツ』みたいな顔しないでくれるかい? ほら……そこ。見てみなよ」
ヴェルナードが指差す先を見る。
するとそこには僕がいた。
「……? ???」
目を擦ってみるが、見間違いではない。あれは僕だ。僕が白目を剥いて口から泡を吹き、死んでいる。
全く情けない姿だ。でもその顔は非常に整っている。
「やっぱり僕ってかっこいい……よね?」
「だからボクに人類種の美醜はわからないって……。いやそういうことではなく。自分の死体を見て言うことはそれかい?」
「不思議だねぇ」
「不思議なのはキミだよ。レン」
若干、呆れられているような気配がした。いや訂正。大いに呆れられている。
なにせため息が大きい。ドラゴンため息だ。
「まあ冗談はさておき……」
「冗談ではないだろう?」
「コホン。冗談はさておき。これ、どういう現象かわかる?」
まさか自分の死体を見ることになろうとは。不思議なこともあったものだ。
「ちなみにどこまで記憶があるんだい?」
「今日は朝日が昇る前に目を覚ましたんだ――」
一晩経ち、僕は恐怖と戦いながら早速食べられる植物を探しに……。
「前過ぎるよ……。死ぬ直前でお願い」
「あの木の実を食べたんだ」
僕は木になっている薄緑色の果物を指差した。
とっても美味しそうな香りがしたので食べてみたのだ。
「そうしたら目が回って……」
「死んだ、と……」
「状況から見るに……ハイ」
「これ美味しい匂いがするけどめちゃくちゃマズイんだよね。ボクは絶対に食べないよ」
「たしかにマズかった……」
例えるならばそう。牛乳に三日漬け込んだ雑巾を食べたような感じ。食べたことはないけど。ないよね……?
しかしとにかく不味かった。ゲロマズだ。この世にあれほど不味い食べ物があるとは。
「でもヴェルナードがめちゃくちゃマズイって言ってる時点で毒かなぁ。以後気をつけます。スミマセン」
「とりあえず服を着なよ」
「まさか自分の身体を追い剥ぎすることになるとは……」
「バカなこと言ってないで……」
「スミマセン……」
僕は自分の死体から衣服を剥ぎ取って手早く着替えを済ませる。するとヴェルナードが神妙な面持ちで僕を見ていることに気付いた。
「……レン。キミの不死は多分……魂と紐付いてる。不死の中でもかなり強力なモノだよ。おそらくバラバラの粉々になっても死なない」
「痛いのは勘弁してほしいかなぁ……」
想像するだけで痛々しい。なにせバラバラの粉々だ。だけど僕はそれだけ凄惨な状況になっても死なないらしい。決して試したくはないけれど。
「でも、どういうこと?」
「ここに出来立てほやほやの死体があります」
「イヤな表現だなぁ」
あんまりな表現に僕は苦笑をこぼした。そんな僕の反応をヴェルナードは華麗にスルーする。
「そしてもう一つ身体があります」
次に僕を指差す。
「確かに言われてみれば。普通再生とかだよね?」
今の状況は僕が思っていた不死のイメージとは大きく異なっている。
致命傷を負っても無制限に再生し、死なない。
僕は勝手にそんなイメージを持っていた。要するに再生するから死なない。だから不死。
だけど僕に起こった現象は違う。
「一度完全に死んでるね。魂が身体から離れたあとに新しい身体を再構成してる。そしてその速度がかなり早い」
「もしかして見てた?」
「いや。ボクが異常な魔力の高まりを感じて駆け付けた時にはすでに終わってたよ」
「なる……ほど?」
よくわからない。とどのつまり、僕の不死は死なない不死ではなく死んで復活する不死ということか。
「まあほとんど無敵だね」
「ほとんど?」
「うん。レンが……というよりも不死者が気を付けなきゃいけないのは封印だね。死にはしないけど死んだ状態にされるから。しかも死ねずに魂を拘束される。よって輪廻に還れない。最悪だよ」
「輪廻とかあるんだ」
「……?」
ヴェルナードは「常識だろ?」みたいな顔をしていた。常識らしい。
「ちなみに対処法とかってある?」
「まず第一がそもそも不死者ってバレないようにすること。見た感じ、レンは再生能力のない不死者だからこの隠蔽は難しくないと思う」
「たしかに」
傷付いても再生しないのならば普通の人と同じだ。
死なない限り、不死だとはバレない。自分でポロッと言ったりしない限り。
「本当に気をつけてよ?」
半眼で念を押された。解せぬ。
「レンは抜けてるからねぇ」
「ぐぬぬ」
何も言い返せないのが痛いところだ。
「ちなみにバレたら?」
「バレるつもりなの?」
「もしもだよ! も・し・も!」
「不安だなぁ。けど封印の術式によって違うからなんとも言えない。身体を縛る方なら即自害をおすすめするよ。レンの不死は身体から魂が離れれば復活するから」
「痛いのは嫌だなぁ」
だけど土壇場でそんなことは言っていられないだろう。封印されるぐらいなら死んだ方がマシだ。
……こういう言い方で本当に死んだ方がマシなことってあるんだなぁ。
なんて考えていたらまた半眼を向けられた。思考を読まれている気がする。読めないはずなのに。
「ただ問題は魂を縛る方だね。レンとはかなり相性が悪い」
「なにそれ怖い」
「だけどそんなのが使えるのは龍王国の龍帝レベルだからあまり深く考えなくても良いかも」
「なにそれカッコいい!」
龍帝!
響きからしてすでにいい。一度会ってみたい。
「まあとにかく封印には気をつけて」
「ちなみに封印ってどうやってやるの?」
「魔術だね。敵対してる時に不死者だとバレて、尚且つ敵が撤退しなかったらほぼほぼ封印に動かれるからわかるよ」
「あー。なるほど」
撤退しなければ決め手を持っているということ。
たしかにヴェルナードの言う通りだ。
「つまりはバレないようにしましょうってことね?」
「重要性をわかってくれたようで何よりだよ。だけど相手が撤退に動いたら絶対に殺さないとダメだよ。特に人類種相手は。数が多いから広まるのも早い」
「んー。言ってることはごもっともだけど人殺しはなぁ。やだなぁ」
どうやら僕には人殺しに対しての忌避感があるらしい。当然のようにダメなことだと認識している。
「ならバレないことだね」
「わかった。気を付ける」
人を殺したくないのなら【不老不死】だとバレるな。そう言われたら気をつけるしかない。
「ありがとねヴェルナード」
「どういたしまして。あと、ひとつ聞いても良い?」
ふと、思い出したようにヴェルナードが聞いてきた。
「ん? なに?」
「どうして昨日の今日で森に入ったの? リンゼルンとかが来たら食べられちゃうよ?」
リンゼルン。昨日の熊のことだ。
「んー近ければ何とかなるかなって。お腹空いてたし。てへっ?」
かわいこぶって舌を出したらため息をつかれた。
本日二度目のドラゴンため息、頂きました。
「キミねぇ……。今度から森に入るときはボクを呼んでよ」
「……どうやって?」
「……」
「……」
無言の視線がぶつかる。
全く考えていなかった。ヴェルナードはそんな顔をしている。
「ヴェルナード。キミ、結構おっちょこちょいだろ?」
「キミに言われたくないよ。魔術が使えれば楽だったんだけどなぁ」
「悪かったね! 使えなくて悪かったね!!!」
まったく。ひどい言い草だ。涙が出てくる。悲しい。
「あとで魔導具でも作って持ってくるよ。だから次からは呼んでくれよ」
「魔導具なんて作れるの? 鍛冶師かな?」
「魔術でやるんだよ。だから鍛冶師じゃなくて魔術師ね」
「知ってるヴェルナード? 言葉は時として鋭い刃になるんだよ?」
「ごめんごめん。あとで持ってくるから待ってて」
「軽く流しやがって!」
悔しい。ホントに悔しい。
……魔術、使いたいなぁ。
僕は改めてそう思った。
ご覧いただきありがとうございます!
「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は
下にある☆☆☆☆☆を押して、作品の応援をよろしくお願いします!
ブックマークも頂けたら嬉しいです!
何卒よろしくお願いいたします。




