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第6話 名前

「それはさておき、ドラゴンさんって呼びにくいよね?」


 小屋を掃除しながら一言。思ったことを言ってみた。

 庭(予定)で猫のように丸くなっていたドラゴンさんに向けて。


「急だね。唐突にどうしたの?」


 ドラゴンさんはゆっくり首を上げると、鎌首をもたげ、小屋の中を覗いてきた。天井の抜けた屋根から。

 僕はその朱の瞳を見つめ返す。

 

「呼びにくいよね?」

「圧がすごいね。それにキミが呼び始めたんだろう?」

「たしかに。言われてみればその通りだね。ちなみにドラゴンさんには名前はないの?」

「名前をつけるのは人類種の習性だろ? ボクには必要ないよ」

「でもずっとドラゴンさんなのもなぁ。せっかく友達になれたんだし」

「………………」

「ドラゴンさん?」


 僕の言葉にドラゴンさんはポカンと口を開け、目を瞬かせていた。

 初めて見る表情だ。これは困惑だろうか。


「……ボクとキミは友達なのかい?」

「……え? 違うの? すこし悲しいかも……」


 いや、結構ショックだ。

 友達だと思っていたのは僕だけだったらしい。

 でもこれだけ話して昼食も共にしているのだ。流石に友達だろう。……ちがう?

 

「ああいや、そうではなく!」


 ドラゴンさんはあたふたしていた。これも初めて見る表情だ。なんだかおもしろい。


「だってボクは真龍種だよ? そしてキミは人類種。だろ?」

「……え? だろって言われても……。それってなにか関係ある?」

「……え? 種の違いは大きなものだよ?」

「うーん。僕にはよくわからないや。ドラゴンさんは僕と友達になるのはイヤ?」

「もちろんイヤではない」

「ならいいんじゃない?」

「いい……のか?」

「何か問題ある?」

「……言われてみるとない……かな?」

「じゃあ友達としてよろしく」

「なんか押し切られた感じがするけど……。うん。よろしく」

「ってことで名前を考えよう!」

「あぁ。そこで繋がるんだね。わかった。そういうことならいいよ」


 許可が出た。とても嬉しい。

 そして初友達がドラゴンなのもなんかいい。ロマンだ。

 

「やった! ちなみにかっこいい感じがいい? それとも可愛い感じ? てかドラゴンさんって男の子? 女の子?」

「……怒涛だね。すごい剣幕……。そして真龍種に雌雄の概念はないよ」

「へー! どちらでもなく、どちらでもある! って感じ?」

「なんか知能指数が低くなってないかい?」

「ばかにしてる?」

「してないしてない。……そうだな。どちらかと言うとかっこいい方がいいかな?」

「わかった! 考えてみるね! ちょっとまってて!」

「日が暮れるまでにお願いね?」

「そんなにかからないよ! 失礼だなっ!」


 とはいえ名前は大切なモノだ。

 一生に一度の一点モノ。それも寿命という概念のない真龍種(ドラゴンさん)にとって、普通の人間よりも遥かに永い時間を共にすることになる名前だ。

 意味合いとしては非常に重い。だからこそ真剣に考えなければならない。


 ……だけど困ったな。


 本当なら意味を持たせた名前だったりを考えたい。

 だけどいかんせん僕は空っぽだ。何かを由来にしたり、意味を持たせたりすることはできない。


 ……まあそれは仕方ないか。


 空っぽなのも僕の持ち味だ。そう思うことにする。

 ならばその代わりに心を込めよう。そしてとびっきりかっこいい名前を――。



 

「――ヴェルナードってどうかな?」


 しばらく考えた後、小屋の外に出てドラゴンさんに直接伝えた。

 首を上げたドラゴンさんが目をぱちくりと瞬かせる。


「……」

 

 しかし何も言わない。さすがの僕も不安になってくる。気に入らなかったのだろうか。


「だめ……かな?」

「あぁ。ごめんごめん。驚いてたんだ。正直キミのことだからトンチンカンな名前が出てくると思っていたよ」


 僕はドラゴンさんにどう思われているのだろうか。とても、とても気になるところだ。

 

「……失礼だな。僕も時と場合は弁えるよ。それで?」

「うん。気に入った。ありがとう。今日からボクはヴェルナードと名乗るよ」


 胸に手を当ててホッと息をつく。気に入ってくれたようでなによりだ。とても嬉しい。

 

「よかった。よろしくね。ヴェルナード」

「うん。よろしく。……って、どうしてキミはそんなにキラキラとした瞳で見ているんだい?」

「僕のも決めてくれるかなって」


 なにせ名前がないのは僕も同じだ。

 ならば僕はヴェルナードに名前をつけて欲しい。

 

「人類種ではダメなのかい?」

「それは名前ではないよ。僕にもかっこいい名前を付けてよ。ヴェルナード」

「うーん。まあわかった。少し待っててね。考える」

「日が暮れるまでに頼むよ?」


 ニヤリと笑ってみせるとドラゴンさん改め、ヴェルナードは苦笑を浮かべた。

 



 ヴェルナードが考えている間、僕は小屋の掃除を再開した。

 小屋の大きさは本当に小屋と言ったサイズだ。

 木製のベッドが一つと、書き物机が一つ、あとは暖炉が一つ。それ以外は何もなく、広くもない。

 だけどそれで十分だ。暖を取れて、寝れるならばそれでいい。


「よし! こんなところかな!」


 ヴェルナードが吹っ飛ばした屋根から落ちた木材を撤去し、ベッドのシーツを干す。

 これで完璧だ。夜には眠れるようになっているだろう。


「あとは薪が必要だね」


 だけどこれもほぼ解決している。

 原因は先ほどヴェルナードが使った風属性魔術。そのおかげで地面にはバラバラになった木々がたくさん転がっている。

 これを使えば当分は持つだろう。

 僕は落ちている木片を拾って暖炉にぶち込んだ。


「ヴェルナード! 火をくれるかい?」

「……」

「ヴェルナード?」

「あぁ。ごめんよ。なに?」


 どうやら真剣に考えてくれているらしい。どんな名前になるのか楽しみだ。

 それはそうと今は火が欲しい。こういう時に自分で魔術が使えれば楽なのになとしみじみ思う。

 火一つ起こすのも、身一つじゃかなり大変だ。


「暖炉に火をもらえる?」

「わかった。はい」


 ヴェルナードが爪の先を暖炉へと向ける。すると小さな火が薪に向けて放たれた。


「ありがとう。助かったよ。また明日もお願いできる?」

「もちろんいいよ。明日もお肉持ってくるね。さっきのはもう残ってないし」


 先ほどの熊肉はヴェルナードが平らげてしまった。綺麗さっぱり胃の中だ。

 

「助かるよ。なるべくはやく自給自足できるようにがんばらないとね」


 美味しい料理を作るためにも。


「それでヴェルナード。思い付いた?」

「うん。とりあえず案が三つある。まずは――」

「――待って!」


 僕はヴェルナードの言葉を遮った。


「それを含めてヴェルナードに決めて欲しい」


 三つも案を出してくれたのは嬉しいが、最後の最後までヴェルナードに決めて欲しかった。


「ごめんね。三つも考えてくれたのに」

「ううん。ボクの方こそ無神経だったね。じゃあ……」


 ヴェルナードが考え込むように視線を地面に向けた。そして数秒の沈黙を経て口を開く。


「――レン。……って名前はどうかな?」

「レン……」


 口の中で反芻する。

 なんだかしっくりと来た。まるで本当の名前がレンだったんじゃないかと思えるぐらいに。

 そんなはずはないが、そうだったらいいなと僕は思う。


「ありがとう。じゃあこれから僕はレンだね。よろしくヴェルナード」

「気に入ってくれてよかったよ。よろしくね。レン」


 ヴェルナードが爪の先を向けてきた。僕は握手の要領でそれを握る。

 こうして名もなき人と龍は名を得ることとなった。

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