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第5話 秘策

「そういえばさっき言ってた秘策って結局なんだったの?」


 食事が終わり、一息ついたところで聞いてみた。

 森にはさっきの熊みたいな生物がいっぱいいる。ドラゴンさんが居なくなれば僕は食べられてしまうだろう。

 やはり死ぬのは怖い。

 これで秘策=【不老不死】だったらひっぱたくかもしれない。なんだか不安になってきた。


「……秘策?」


 ドラゴンさんが首を傾げる。しかしこれは冗談だ。表情を見ればわかる。


「非力な人類種にどうかお力をお貸しください……!」

「ボクがワルモノみたいじゃないか……。でももう終わってるよ」

「……?」

「さっきから襲われてないだろ?」


 言われてみれば確かに。

 どうやらもう安全圏になっていたらしい。

 だけどその正体がわからない。なぜ安全なのかの理由が知りたい。わからないと不安だ。


「なにをしたの?」

「結界だよ。結界魔術」

「ほう! 結界魔術!」

「キミって魔術好きだよね?」

「そりゃもう! だってロマンだし? 僕は使えないけど。使えないけど……。ホントに使えない?」

「残念ながら」

「雑草レベルだもんねー。ざんねんむねん……」


 肩を落としているとドラゴンさんに笑われた。これが持たざる者の気持ち……。


「ちなみにどのぐらいが安全なの?」

「範囲?」

「そう。よくわからなくて」

「じゃあ見やすくしようか」


 またもドラゴンさんが魔術式を記述する。

 今度も初めと同じ深い緑色だ。

 式が発光すると、放射状の結構な範囲の木々が薙ぎ倒されていく。

 心配になって後ろを見ると、小屋は無事だった。先ほどは少し焦がしていたから不安だったが、杞憂だったようだ。


「そんな不安にならなくても」

「だってさっき焦がしてたじゃん。不安にもなるよ」

「それを言われると痛い……」

「でもありがとう。わかりやすくなったよ。大体百メートルってところかな?」


 結構広い。だけどこれだけあれば畑も作れそうだ。

 土壌に期待。

 

「ひゃくめー……なに?」

「んー? 多分距離の単位? 知らない?」

「初めて聞いたね。どこの国のものだろう?」

「さあ?」

「やっぱ僻地じゃないのは確定だね。結構大きな国じゃないと規格なんて作らないよ」

「たしかに?」


 ドラゴンさんの言葉には一理ある。確かにその通りだ。


「でも大国には黒髪がいない?」

「その通り。東の果てに黒髪の民族はいるにはいるけど……」

「けど……?」

「まず朱目じゃない。それに閉鎖的な民族だから朱目なんて滅多に生まれない。だけど一番はあまり発展してないってところかな。転移魔術なんて高度な術式を扱えるなんて思えない」


 きっとドラゴンさんがそういうのならそうなのだろう。一体僕はどこの誰なのだろうか。


「疑問は尽きないね」

「やっぱり他人事だね。自分のことなのに興味ないの?」

「ないことはないけど、空っぽなんでしょ? 多分記憶は戻らないよね?」

「うん。希望を持たせても悪いからはっきり言うね。キミの記憶は戻らない」


 どうやら僕の予想は合っていたらしい。はっきり言ってくれて助かる。

 

「戻るべき()()がないからだよね?」

「そう。空っぽって言ったのはそういうこと」


 でもいい。僕がどこの誰であろうと、今ここにいるのは僕なのだから。

 

「大丈夫だよ。今を楽しく平和に生きる。それが出来れば満足だ」

「ホントに変わり者だね。キミは」

「こんな変わり者がご近所さんでごめんね?」


 冗談めかして言うと、ドラゴンさんは楽しそうに笑った。

 

「いいよ。これから毎日が楽しくなりそうだ」

「ご迷惑をおかけいたします」

「それは確定なんだね?」

「もちろん。なんなら今もかけてるしね?」

「こんなの迷惑の内に入らないよ」

「……本当に、初めて会ったのがドラゴンさんでよかったよ」


 僕はしみじみと思った言葉を呟いた。

 もし初めて出会ったのがドラゴンさんではなく、悪意を持った誰かや、先ほどの熊だったりしたら。

 きっと僕は悲惨なことになっていただろう。

 いくら不老不死で死なないとはいえ、だ。


 だから、本当に良かった。親切が心に染みる。


「ありがとね。ドラゴンさん」

「どういたしまして。これからよろしくね」

「うん。よろしく」


 ドラゴンさんが優しく微笑んだので、僕も同じように笑った。

 本当に、これからは楽しい毎日になりそうだ。

 

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