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第4話 魔術

「ちょうどいいね。魔術というものを見せてあげるよ!」

「ウッキウキだね? 自慢かな? 当てつけかな?」

「見たくないの?」

「見たいです! たのしみです!!!」

「……」


 ドラゴンさんはなんとも言えない顔をしていた。

 だから僕は深く頭を下げる。直角90°。

 

「よろしくお願いします!!!」

「仕方ないなぁ。じゃあキミのためにゆっくりとやるね」

「お願いします!」


 頭を上げると、ドラゴンさんの眼前に光の粒子のようなキラキラと光る物質が現れた。

 マナ、エーテル、魔力。どの呼び方が正しいのかはわからないが、たぶん似たような不思議エネルギーだろう。

 そんな仮称魔力が次第に形を成していく。すると、やがて文字のような模様を描き出した。

 知らない文字だ。


「この粒子が魔力。これを操作して魔術式を記述するんだ」


 仮称魔力はどうやら本当に魔力という名前だったらしい。


「魔術()? ということはやっぱりこの一つ一つは文字? 数字? なんだね?」

「正確には魔術定数って名前。世界に定められた力ある文字だよ」

「なるほど。魔術定数を組み合わせると魔術式になる?」

「そうそう。あってるあってる。そしてこの魔術式に魔力を流すんだ。そうすると……」


 魔術式が深緑色に強く発光する。

 次の瞬間、パッと光の残滓を残して消えた。次の瞬間、突風が吹き荒れ、熊?の首が飛んでいく。

 首から鮮血が噴水のように噴き出した。そして熊?の巨体が音を立てて地面に崩れ落ちる。

 ほとんど見えなかった。まるで不可視の刃だ。


「風属性?」

「よくわかったね? そうだよ」

「他にはどんな属性があるの?」

「基本属性の地水火風。上位属性の樹氷炎雷。特殊属性の光闇無。基本属性と上位属性は同じモノだから七種類だね」

「結構多いんだね」

「特異属性を含めるともっと増えるよ。ただ滅多に使い手がいないから覚える必要はあんまりないかな。そういうのがあるって知っておけばいいレベル」

「なるほどね。かっこいいなー。使いたいなぁー」

「キミの魔力じゃ式すら記述できないよ」

「悲しいね」

「そうだね。お昼ご飯はお肉だよ」


 食材となった熊?へと向かうドラゴンさん。その足取りは軽かった。悲しみに暮れる僕とは大違いだ。


 ……というかアレ、食べるの?




 ドラゴンさんに火を起こしてもらい、昼食に。

 食材はもちろん先ほどの熊?だ。正式名称を聞いたがなんか言いにくかったので熊でいい。

 あれは熊だ。腕が六本あったけど、熊だ。熊ならばまだ食える。

 

 ちなみに辺り一帯に積もっていた雪はすでに除雪済み。ドラゴンさんの火属性魔術のおかげだ。

 もちろん、小屋は燃えていない。少し黒くなっているが燃えていない。そこはご愛嬌だ。

 ドラゴンさんは意外とおっちょこちょいなのかもしれない。


 そんなこんなで僕の記念すべき初めての食事は熊の丸焼きだ。

 小屋にナイフがあったので、解体は僕がやった。

 

 うそです。吐きました。ドラゴンさんがやってくれました。僕はドラゴンさんが大きな爪で器用に解体していくのを見ていただけです。


 だけどこれからは自給自足の生活をしなければならないのだ。慣れなければ生きていけない。

 なので近いうちにできるようにならないと。

 できなければ、待っているのは餓死だ。


 ……【不老不死】は餓死で死ぬんだろうか。


 気になるところだ。だけど決して試したくはない。

 

 閑話休題。


 僕は太めの木の枝に突き刺さった肉の塊を手に取った。

 調味料なんてオシャレな物はない。だから焼いただけ。

 

 はい。味気ないとか言った人は黙るように。なんて言ったってドラゴンさんによるドラゴンブレス(仮)での調理だ。それだけで特別だろう。

 初めての食事としては特別感があればそれでいい。なんて言ったって特別だ。特別なんだ!


「いただきまーす」

「……なんだいそれは?」


 熊肉に食らいつこうとした瞬間、ドラゴンさんにツッコまれた。


「台無しだよ……。ドラゴンさん……」


 記念すべき初食事なのに。一口目なのに。

 

「……? ごめん? それで、今のは?」

「いただきます? なんだろ? 食事の挨拶的なものかな?」


 記憶がないからよくわからない。だけど口をついて出た。言わないとなんだか気持ち悪い。


「……ボクの知識にはない挨拶だね。マイナーな宗教かな?」

「もしかして僕はここよりも僻地の生まれなのかも?」

「相当だねそれは。でもボクの言葉は伝わってるよね?」

「ばっちり」

「不思議だね」

「? 不思議かな?」

「不思議だよ。だってそんな僻地なら言語が違ってもおかしくない」

「そういえばドラゴンさんの言語(それ)は何語なの?」

「これは人類語。人類種の中で一番普及している言語だよ」

「もしかして合わせてくれてる?」

「うん」

「優しいね。ちなみに他の言語は?」

『これが森霊語(しんれいご)

『あ、それわかる』

「え……?」


 同じ言語で返すとドラゴンさんが目を大きく見開いた。とても驚いている。


『じゃあこれは? 真龍語(しんりゅうご)

『それもわかる』


 一転して眉をひそめるドラゴンさん。その気持ちはわかる。

 

「おかしくない?」

「たしかにおかしいね」


 いくら僕でもこれがおかしいことはわかる。でも何故こんなにわかるのかはよくわからない。


天恵(ギフト)は【不老不死】だしなぁ」

天恵(ギフト)って一つしか持てないの?」

「うん。魂には許容量があるから基本的に一つだよ」


 よくわからないが、ドラゴンさんが言うのだからそうなのだろう。もしかすると僕の許容量は結構多いのかもしれない。なにせ【不老不死】だ。


 ……あれ? もしかして魔力がないのって……。


 ふとそんな思いに駆られた。


「ドラゴンさんドラゴンさん。もしかして僕の魔力が少ないのって【不老不死】に許容量が取られてるから?」

「ん? 違うよ? 単に才能がないだけ」

「残酷だぁーーー」


 現実は非情ナリ。

 

「じゃあ言語学者だった……とか?」

「うーーーーーん。それで説明付くのかなぁ……? 気持ち悪いぐらい発音も完璧だし。それに真龍語なんてどうやって……」

「まあいいじゃんいいじゃん。便利なんだし」

「全くキミは……。能天気だね」

「バカにしてる?」

「してないしてない。お肉冷めちゃうよ?」

「そうだった」


 せっかくのドラゴンさん謹製ドラゴンブレス(仮)熊肉だ。冷めてしまっては勿体無い。


「邪魔したのはドラゴンさんだけどね?」

「いいから早く食べなよ」

「そうだね。いただきまーす」


 大きく口を開けて一口。熱々の肉汁が飛び出し、顔に撥ねた。


「あっつ!」

「はい。お水」


 ドラゴンさんの指先に魔術式が記述され、水がちょろちょろと飛び出した。

 

「ありがとう」


 お礼を言って顔にかかった肉汁を洗い落とす。ついでに水も飲む。凄まじく美味しかった。

 まるで天然の湧水のようだ。


「このお水美味しいね。魔術で作り出したのに……」

「魔力の純度が高いと美味しくなるんだって。それで、お肉は?」

「肉! って感じ」

「それだけ?」

「うん。肉」

「うーん。これを物足りないって感じるのはやっぱり僻地生まれじゃないと思うんだよね」

「物足りないなんて言ってないよ?」

「言葉にしなくてもわかるよ」

「スミマセン。少しだけ、ほんの少しだけ物足りないって思いました。調味料を使えばもっと美味しいんだろうなって」

「調味料かー。ここら辺の木の実で代用できるかも?」

「ホントに!?」

「わからない」

「えーーー。テキトー言った?」

「まあ研究してみるのも面白いかもよ?」

「話を逸らしたね? でもたしかに時間はあるかぁ。なんていったって【不老不死】だから」


 文字通り時間は無限にある。僕にも、ドラゴンさんにも。

 ならば美味しい食事を求めて試行錯誤するのも悪くないかもしれない。

 別に急いで人の街を目指す必要もないのだから。


 ……あれ? よく考えたら別に行かなくてもよくない?


 人の街に向かおうとしていたのは生きるためだ。

 安全に平和に。命が脅かされないように。

 だから別に深い理由があったわけではない。言うならば生存本能。

 

 だけど僕は【不老不死】らしい。

 ならば死なないわけで、この森でも生きていける。

 問題は……。


「……ねぇドラゴンさん。僕って本当に【不老不死】なの?」

「……試してみる? 痛くしないけど?」


 ドラゴンさんが指で首をクイってやった。

 

「……いや……結構です」


 怖い。普通に無理だ。

 だからドラゴンさんの言葉を信じよう。


 ……それに。


 ボクはドラゴンさんを見た。見た目の(イカ)つさに反してとても心優しいドラゴンさんだ。

 きっと言わなくても僕が生きるために手を貸してくれるだろう。多分。

 

 だから僕は、そんなドラゴンさんに美味しい食事を食べさせてあげたかった。


「がんばろ」

「楽しみにしてるよ。美味しい食事」


 ニカッと爽やかな笑顔を浮かべるドラゴンさん。

 そう言われては仕方ない。とびっきりの料理を作ってやろうじゃないか!


 ……まあ知識なんて何もないけど。


 だけど時間があればいつかはできるだろう。きっと……。

 

「任せて!」


 僕はそう決意して、もう一口熊肉にかぶりついた。やはり味はほとんどしなかった。

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