第21話 騎士
「そういえば、ルシアってどうして騎士になったの?」
クッキーを食べた後の昼食後、なんとなしにそう聞いてみた。ただ単に気になったのだ。特に深い理由はない。
「私、ですか……?」
「うん。あっ……。言いたくなかったら言わなくていいよ」
もし話したくないのであれば、それはそれで構わない。ただの雑談だ。別にどうしても知りたいわけではない。
しかしルシアは首を横に振った。
「あぁいえ、そういうわけではないんです。大した理由でもないので……」
「聞いてもいい?」
「はい。レン様は前にお話ししたお祖母様のことは覚えていますか?」
「覚えてるよ。預言の巫女だっけ?」
当代預言の巫女。
ゼスマティア神王国で二番目に偉い人だ。そしてルシアを冷厳山嶺へ送り込んだ人物でもある。
鬼かな?
「昔、私も小さい頃にお祖母様に聞いたことがあるんです。お祖母様はなんのために預言の巫女になったのですか――と」
「今の僕と同じだね」
「そうですね」
「お祖母さんはなんて答えたの?」
「『民を守るためです』」
ルシアは真面目な顔をしてそう答えた。
きっと預言の巫女も同じような表情で同じ言葉を口にしたのだろう。
そう思わせるだけの迫力が今のルシアにはあった。
「お祖母様はお祖母様にしかできない方法で民を守ると言いました。それが預言者としての使命だと」
「使命……ねぇ」
僕にはよくわからない感覚だ。
なにせ僕は毎日をテキトーに生きている。使命なんて大層なものは持ち合わせていない。
「私はその時のお祖母様に強い憧れを抱いたんです。あの時のお祖母様は泰然としていて……その、かっこよかったんです」
「でも預言者にはならなかったんだ?」
それが不思議だった。
預言者に憧れたのならば自分も預言者に。そう考えるのが普通だ。
だけど現にルシアは騎士になっている。
するとルシアは苦笑しつつ少しだけ俯いた。
「残念ながら私に預言者としての才能はありません。預言者というのは天恵があってこそなので」
「……無神経だったね。ごめん」
僕は頭を下げた。
どうやら預言者というものは僕の【不老不死】と同じ天恵だったらしい。
天恵は選べない。なぜならば生まれた時から持っている異能だからだ。僕もなろうとして【不老不死】になったわけではない。
完全に失言だ。
「いえ、大丈夫です。そこはもう割り切っているので」
「割り切っている?」
「はい。確かに預言者の才能が無くて悔しい思いをしたことはあります。ですが、俯いたところで預言者になれるわけではありません。それに、民を守る方法は一つではありませんから。ですから私は私の手で民を守るべく剣を取りました」
ルシアは「まだ見習いですけどね」なんて苦笑していた。だけど立派だ。
僕にはそんなルシアが輝いて見えた。
それは誰にでもマネできることではないから。
……強い女の子だなぁ。
僕はルシアのことをそう思った。
「それで騎士か……」
この選択をするまでにルシアはさまざまな決断をしたことだろう。それは間違いなく大した理由だ。
純粋に尊敬する。だけど同時にすこし複雑な感情を抱いた。
……なんだろう。この感情は。
僕は頭を悩ませて、この感情を言語化していく。きっとこの言葉はルシアに言わなければならない。
そんな気がした。
「……そうだね。ルシアは胸を張っていいと思う。大した理由じゃないなんて言うのは……少し悲しい? いや悲しいとも違うかな? 寂しいが近いかも」
考えた結果、なんとも締まらない言葉になってしまった。自分の語彙力が恨めしい。
「要はルシアに大した理由じゃないなんて言って欲しくないんだ。それは大した理由だよ。ルシア。僕は尊敬する。……まあ僕が言えた義理じゃないけどね」
少しお節介だったかなと僕は苦笑する。しかしルシアはそんな僕とは対照的に目を見開いていた。
「……そのようなことを言われたのは初めてです」
するとルシアは大切なものを包み込むように胸の前で両手を小さく握った。
「そうですね。レン様の言う通りです。これは自分の目標。ならば私が胸を張っていないとダメですね……」
ルシアは苦笑まじりにも微笑んだ。
どうやら僕のぐだぐだな言葉はちゃんとルシアに届いたらしい。
「うん。その方がいいと思うよ」
「ありがとうございます。やはりレン様に会えてよかったです」
「僕もルシアに出会えてよかったよ」
預言の巫女の思惑はどうであれ、それは紛れもない僕の本心だった。
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