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第2話 出会い

 木々を薙ぎ倒しながら降り立ったドラゴンが呆然とする僕を睥睨する。

 縦に裂けた黒い瞳孔に朱い虹彩。それはまるで宝石のように美しかった。


 ……あぁ。これは死んだな。


 僕はどこか他人事のようにそう思った。

 なにせ相手はドラゴン。人である僕はドラゴンから見たら地を這うムシケラでしかない。

 それに、逃げたところですぐに追いつかれるのは目に見えている。

 

 ……あれ? ドラゴンって()()()()()()()()


 ふと疑問に思った。

 なにかが食い違っている気がする。

 そんな感慨を抱いた。だけど思い出せない。


 ……まぁいっか。考えても無駄だ。


 これから僕は死ぬ。

 ただの人間である僕がドラゴンになんて勝てるはずがない。

 だから僕は、潔く諦めた。

 両手を広げ、目を瞑る。

 なるべく痛くありませんようにと祈りながら。

 そして、その時を待った。


「……………………?」


 しかし待てど暮らせど痛みはやってこない。

 不思議に思って片目を開けると、やはりそこにはドラゴンがいた。だけど僕を見ているだけで何もしてこない。


「あれ? 食べるんじゃないの?」


 呟くと、ドラゴンが眉をひそめた。

 妙に人間的な表情変化。そう思ったのも束の間、ドラゴンが口を開けた。

 

「……食べないよ。気になって来ただけだ」

「わー! 喋ったぁ! ドラゴンって喋れるんだぁ! すごいなぁ!」


 パチパチと拍手をしていると、ドラゴンは驚いたように目を見開いた。


「……キミ。僕が怖くないのかい?」

「……? 会話ができるのに?」


 ドラゴンがパチパチと目を瞬かせる。そして苦笑を浮かべた。


「不思議な人類種(じんるいしゅ)だね。そんなキミは何者? わざわざこんな僻地に何の用?」


 変な言い回しだ。

 

「人類種?」

「キミ、人類種だろ?」

「珍しい呼び方だね。たしかに人類だけど」

「……? 何を言っているんだい?」


 ドラゴンが眉を顰める。

 だから僕は頭にハテナを浮かべた。


「……」

「……」

「そうさ! 僕は人類種だ! それで君は?」

「めんどくさくなったろうキミ……」


 心底呆れたように半眼を向けられた。ドラゴンというのは表情が豊からしい。とてもわかりやすい。

 

「まあいいや。ボクは真龍種(しんりゅうしゅ)だよ」

「しんりゅうしゅ? ドラゴンじゃなくて(りゅう)なんだ?」

「ドラ……? りゅ……? なんだいそれは?」

「……え?」

「……え?」


 二人して首を傾げる。正しくは一人と一頭か。

 ともあれ、僕も違いはよくわからない。なにせ記憶がないのだから。口をついて出ただけだ。

 でも目の前のドラゴンさんを龍だと思うと、かなり違和感がある。だから多分ドラゴンなのだ。

 

「それでドラゴンさん。ここはどこ?」

「話を逸らしたね……。そしてドラゴンではなく真龍種だよ」

「わかったよ。それでここは?」


 ドラゴンさんが半眼で見つめてきた。言外に「本当にわかってるのかこいつ」と言われているような気がする。

 

「まあいい。ここは北の最果て、冷厳山嶺(れいげんさんれい)だよ」

「れいげんさんれい……」


 口の中で言葉を転がす。

 しかしやはりというべきか。聞いたことのない地名だ。記憶喪失なのだから当然か。

 

「まさかキミ、転移に失敗したのかい?」

「転移?」

「そう。ボクはここに空間の歪みが起きたから来たんだ。キミだろう?」

「ごめん。わかんない。僕は気付いたらここにいたんだ」

「気付いたら……?」

「うん。記憶喪失なんだ。自分が誰なのかも、ここが何処なのかもわからない」

「記憶……喪失。すこし触れてもいいかい?」

「……? どうぞ?」

「失礼……」


 ドラゴンさんが大きな腕を上げ、繊細な手つきで僕に触れる。その爪先はひんやりと冷たかった。


「これは驚いたな」

 

 ドラゴンさんは目を大きく見開き、爪を離す。


「キミ、空っぽだよ」

「空っぽ?」

「うん。なにもない。まっさらな状態。生まれたばかりだと言われても信じられる」

「実は僕……生まれたばかりなんだ」

「息を吐くように嘘をつくね……」

「冗談さ。ともあれ、ドラゴンさんは記憶が読めるの?」

「ドラゴンではなく真龍種ね。記憶は断片的になら、ってところかな。相手が許可した場合に限るけど」

「ほへー。すごいねー」

「キミ、ぼんやりしているってよく言われていただろう?」

「よくわかったね。そうだ……よ?」


 たしかによく言われていた……ような気がする。

 記憶はないけど、なんとなくそう思った。


「まっさらじゃないね。まっさらなのに」

「よくわからないね」

「他人事だなぁ。……まあいいや。だけど困ったな」

「困った……?」

「ボクの姿を見られた以上、タダで帰すわけには行かない」

「……やっぱり食べる?」

「食べないよ……」


 ドラゴンさんが大きなため息を吐いた。


「気が抜けるなぁ」

「まあでも帰る場所もないんだけどね。というかドラゴンさんも姿を見せなければよかったんじゃ?」

「転移なんてしてこなければ無視してたさ……。だけどあんな異常現象はさすがに看過できない」


 どうやら僕はとんでもないことをして現れたらしい。全く身に覚えがないけれど。


「まあでも、誰にも言わないよ。ドラゴンさんが困るなら」


 僕の言葉に、ドラゴンさんがじっと見つめてくる。

 どうやら判断に困っている様子だ。気持ちはわかる。怪しい人間の言葉は信用してはいけない。


「なんとなく害意がないのはわかるよ。だけどキミ、口を滑らすだろう」

「……」


 僕はすいっと目を逸らした。無い話では無い。自分の性格がなんとなくわかってきた。

 

「…………」


 ドラゴンさんの視線が痛い。突き刺さるようだ。

 すると再び大きなため息を吐かれた。


「仕方ない……か。信じることにするよ。……その髪と眼じゃここら辺の国じゃないだろうし」


 なるほど。つまり僕が口を滑らせても問題な――。


「――いや、滑らせないでよ?」

「……もしかして考えてることも読める?」


 三度大きなため息。

 ドラゴンさんは器用に指先で自分の顔を指差した。


「書いてあるよ」

「ぐぬぬ。……気を付けます。でも髪と眼?」

「そこまで覚えていないんだね。ほら」


 ドラゴンさんが地面の雪に顔を近付ける。するとフゥッと黒い炎を吐いた。


「わー。黒い炎なんて初めて見たよ。かっこいい!」

「ありがと。ほら反射で見えるだろう?」


 見れば炎で雪が解け、小さな水たまりができていた。覗き込むと、そこには黒髪朱目の少年がいる。


「これが僕かぁ。おそろいだね」

「そうだね」


 僕は黒髪朱目。ドラゴンさんも黒色朱目。同じ色だ。

 

「それにしても……かっこいい?」


 水面に映った顔は比較的整っているように思える。


「ねぇドラゴンさん。かっこいい?」

「頑なだね。真龍種だって……。そしてボクに人類種の美醜はわからないよ。だから聞いてもムダ」

「そうなんだ。残念。……よっと」


 立ち上がり、手についた雪を払う。

 するとドラゴンさんは目を細めた。


「ここら辺の人種じゃないことだけは確かだね。黒髪は見たことがない」

「ということはここら辺に人がいるの?」

「いるよ。人類種の足だとここから一ヶ月ってところかな?」

「遠いね……」


 まさかの一ヶ月。手ぶらの僕ではいくら頑張っても辿り着けないだろう。

 だけど今なら()がある。


「ねぇドラゴンさん。頼みがあるんだけど……」

「キミ、物怖じしないってよく言われてなかったかい?」


 僕の言葉を遮ってドラゴンさんが呟いた。僕は頷く。


「たぶん? 言われてたような気がする。それで頼みがあるんだけど……」

「残念だけど乗せてはいけないよ。さっきも言ったけどここに真龍種がいるって知られたらいけないんだ。大変なことになる」

「大変なこと?」

「討伐隊を組まれるね」

「じゃあだめかぁー」


 希望は打ち砕かれた。

 だけどそういうことならば諦めるしかない。


 ……というか討伐隊って……こわぁ。


 物騒なことこの上ない。


「そうだなぁ。ボクの住処の近くに昔人類種が住んでたっぽい小屋がある。そこで準備を整えるのはどうかな?」

「ホントに!?」

「ホントに。ボクも出来る限りは協力するよ」

「……優しいんだね。ドラゴンさんは」

「キミは面白いからね。興味が湧いたんだ」

「面白い?」

「うん。だって普通、人類種ならボクを見た瞬間に逃げるよ。話しかけても攻撃されるし」

「僕は平和主義者だからね。争いごとは嫌いなんだ」

「真龍種相手にそれが言えるのが面白いんだよ」

「そっか。ならよかったよ」

「うん。じゃあ乗って。小屋まで案内するよ」


 ドラゴンさんは背を屈め、乗りやすくしてくれた。


「土足でいいの?」

「ふふっ。いいよ」

「なんで笑ったの?」

「そういうところが面白いんだよ」

「馬鹿にしてる?」

「してないしてない」

「そっか。ならいいや。じゃあ乗るね。ありがとうドラゴンさん。よろしくおねがいします」

「だからドラゴンじゃなくて真龍種だよ。ちゃんと掴まってて」


 龍が羽ばたき、蒼穹へと飛翔する。

 これが()と龍との出会いだった。

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