第18話 朝食
「それじゃあ朝ごはんにしようか」
「あっ! あの! レン様!」
「な、なに?」
ルシアが食い気味に迫ってきた。机に身を乗り出す勢いだ。テンションが高い。
「昨日いただいたお料理はなんというのでしょうか!?」
「え? お粥……だけど……?」
一瞬、「何か変なモノでも入れちゃってたかな」なんて思ったが、ルシアの瞳はキラキラしていた。
だから多分違う。
「おかゆ……ですか。もしよければ作り方を教えてもらえませんか? その……美味しかったので」
頬を赤らめて視線を逸らすルシア。整った顔と相まって破壊力がすごい。こんな表情で頼まれたらなんでも頷いてしまいそうだ。
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
「では?」
「もちろんいいよ」
「やった!」
ルシアが小さくガッツポーズをする。
いつも敬語だからこんな年相応の反応もするんだなと少し驚いた。
「それは良いんだけど別に難しくないよ?」
「え!? あんなに美味しいのにですか!? 驚きです……」
「じゃあ今日の朝食もお粥にしておく? 目玉焼きでも作ろうかと思ってたんだけど……」
見たところかなり回復しているようだし、普通の食事でも大丈夫かなと思っていた。
だけどこんなに気に入ってくれたのならお粥にしてもいい。病み上がりなのは事実だし。
「……ぇ。目玉……ですか? な、なんの……?」
ルシアが青い顔をして自分の目を指差す。どうやら勘違いをしているらしい。ベタすぎてすこし可笑しい。
「目玉っていうのは例えだよ。そういう風に見えるってだけ」
ちなみに、この目玉焼きも卵を使ったものではない。
なにせこんな場所で養鶏なんて出来るわけがない。
僕が知っている卵に似た食感と味の実がなる植物があるのだ。黄身に当たる部分は緑色だけど。
「そうなんですね。驚きました。しかし……そちらも気になりますがお粥も捨て難いです……」
ルシアは「むむむ」と眉をひそめて唸り出した。なかなか表情豊かで可愛らしい。
そんな姿が可笑しくて僕は笑いを堪えきれなかった。
「なんで笑うんですかっ!? 私は真剣なんですよ!」
「いや、可愛らしくてね」
「かわっ!? そ、そんなお世辞は……」
「別にお世辞じゃないんだけどね。でも食欲があるならどっちも作ろうか?」
回復に向かっている証だろう。ならば栄養を摂ったほうがいい。あまり詳しくはないが、そんな気がする。
「いいんですか!?」
するとルシアはキラキラとした瞳で身を乗り出してきた。足が石化していなかったら立ち上がっていたかもしれない。さっきよりも勢いが増している。
「作り方も教えるよ」
「ありがとうございますっ!」
「じゃあキッチンに行こうか。僕が押しても大丈夫?」
「はいっ! おねがいしますっ!」
僕はルシアの車椅子を押しながらキッチンへと向かった。
ルシアの質問に答えながら料理をすること数十分、僕らは二人で食卓を囲んでいた。
「これが……目玉焼きですか……。確かに目玉ですね……」
ルシアが出来上がった目玉焼きを感心したように見つめる。いつも食べているものがこんなに珍しがられているのはなんだか新鮮な感じだ。
「でしょ? でも美味しいから」
「はいっ! 香りだけで美味しいのはわかりますっ!」
「それはよかった。あっ……これをかけるのも忘れないで」
「これは?」
「果物? ……の搾り汁?」
僕は棚から小瓶に入った液体を取り出した。
無色透明の液体だが、味は醤油そのまま。僕は目玉焼きといえば醤油派だ。
「なぜ疑問系なのですか……?」
「僕もよくわからないんだよね。でも味は保証する」
自分の目玉焼きに少しかけてからルシアに瓶を手渡す。するとルシアもおずおずと自分の目玉焼きにひとかけ。
「じゃあ食べようか。いただきます」
そして僕はいつものように両手を合わせる。するとルシアはそんな僕を見て小首を傾げていた。
小柄だからか、なんだか小動物みたいで可愛い。
「いただ……?」
「あぁー」
僕は十年前にしたヴェルナードとの会話を思い出した。
……なつかしいなぁ。
毎回食事のたびに口から出る言葉。これがなんの挨拶なのかはまだわかっていない。だけど言わないと違和感がある。
「挨拶みたいなものだよ」
「聞いたことのない挨拶ですね。レン様はどちらの出身なんですか?」
「それがわからないんだよね。記憶喪失なんだよ僕」
「………………え?」
サラッと言ったらルシアがぱちぱちと目を瞬かせていた。まあ気になるのはわかる。
「まあその話は食べながらにしよう。冷めちゃうから」
食事は温かいうちに食べるに限る。冷めてしまったらおいしさ半減どころの話じゃない。
「あっ。そうですね。では私も……! いただきますね!」
僕と同じように両手を合わせるルシア。ホントに素直な女の子だ。
そして目玉焼きを一口。
「わぁー! これも美味しいですね! 目玉焼き!」
「それはよかった」
口にあったようで何よりだ。
「明日は私が作ってみてもいいですか?」
ルシアは飲み込みがすさまじく早かった。
おそらくキッチンにある魔導具はルシアが見たことのないものばかりだったはずだ。
なのにも関わらず、一度説明しただけで使い方を把握していた。
だから任せても平気だ。もちろん、見守るつもりではあるが。
「もちろんだよ。楽しみにしてる」
「ありがとうございますっ! ……それで、記憶喪失というのは? あっ。私が聞いても良い話ですか?」
ルシアが控えめに聞いてくる。
……良い子過ぎない?
普通にそんなことを思った。
素直で可愛らしく、気遣いまでできる。もしかしたらこれが標準なのだろうか。
思えばヴェルナードも良いドラゴンだ。
……いや、そんなことはないか。もしかしなくても僕って相当運がいい?
人間、良い人もいれば悪い人もいる。
それが普通だ。たまたま僕が出会う人物が良い人たちなだけだろう。
すると僕の沈黙を勘違いしたのか、ルシアが不安そうにしていた。
「……ダメでした?」
「あぁごめん。ちょっと考えごとをしてた。もちろん大丈夫……なんだけど、語れることは少ないんだよね。それでもいい?」
「はいっ! もちろんですっ!」
頷いてくれたので、僕は自分の事情をルシアに話した。
十年前、突如として冷厳山嶺で目覚めたこと。そして友達に助けられてここで暮らしていることを。
「十年前……。幼かったでしょうに。大変でしたね」
「あー。まあね……」
僕はふいっと視線を逸らした。
僕の見た目は15歳から18歳ぐらいだ。十年前といえばかなり幼くなる。とてもこんな過酷な土地で暮らしていけるような年齢ではないだろう。
だけど実際は【不老不死】。歳をとっていないだけだ。しかしバレるわけにはいかない以上、説明するわけにもいかない。
「……?」
「と、友達がいたから」
「でしたらそのご友人には感謝ですね」
ルシアも訝しんでいたようだが、聞かないでくれた。
それにしても笑顔が眩しい。罪悪感が募っていく。
「でも転移……ですか。それも冷厳山嶺に……。俄には信じ難いですね……」
「やっぱり転移って難しいの?」
「それはもう。神王国でも四方神将のお一人が使えるらしいですが、制約がかなり厳しいと聞いたことがあります。なんでも魔力が多い土地への転移は難しいのだとか」
「四方神将……?」
「あっ。失礼しました。私が所属する神国騎士団の長ですね。四人いるんですが、それぞれ東西南北を守護しているので四方神将と呼ばれています。転移魔術の使い手は東方神将ですね」
「なるほど」
僕に話してしまってよかったのだろうかとも思ったが深くは追求しないでおく。藪蛇になったらめんどくさい。
とはいえ、そんな実力者でも転移は難しい。となると僕を転移させたのは一体何者なのだろうか。
……まあ気にしても仕方ない……か。
十年経っても記憶は戻らない。そんな気はしていたが僕の予感は当たっていたということだろう。
でも別に構わない。ヴェルナードと楽しい日々を送れているから。
だから僕は前向きに考える。ポジティブシンキングというやつだ。
「まあ過去のことはあまり気にしてないんだ。大切なのは今と未来だからね」
「前向きですね。素敵だと思います」
「その方が人生楽しいしね」
なにせ無限の人生だ。
過去なんて山ほど積み上がっていく。ならば僕が視るべきは未来。先だ。
「その通りですね」
なんて言って、ルシアは微笑んだ。
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