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第15話 モノづくり

「ヴェルナードーーー! いるーーー?」


 洞窟に向かって声を張り上げると、自分の声が反響した。この洞窟はかなり深いのでこうして声が響く。

 そしてこんなによく響くのなら、僕にはやるべきことがある。


「ヤッ――」

「――ヤッホーはやめてよね。頭に響くんだよあれ」


 暗闇から黒い影がヌッと顔を出した。

 この洞窟の主人、ヴェルナードさんだ。


「いやーこうも綺麗に反響するとやりたくなっちゃうんだよねぇ。血が騒ぐっていうのかな?」

「……かな? じゃないよ。やられる身にもなってほしいって何回も……」


 この先は知っている。何回も聞いたお小言だ。

 10:0で僕が悪いのでこういう時は素直に頭を下げるに限る。

 

「ごめんごめん」

「何度も聞いた台詞だね」


 しかしこの手は何度も通じない。悲しいことだ。

 怒られるのがわかっていてやるなという教訓だね。

 

「スミマセンでした……」

「直す気は?」

「あるよ。でもこの反響を前にすると血が……」


 ヴェルナードに大きなため息をつかれた。

 だけど十年も友達で居れば、本気で怒っているかどうかぐらいはわかる。

 流石の僕でも人の嫌がることを何回も繰り返さない。

 ヴェルナードも口ではこう言っているが、こんな気安いやり取りを楽しんでいるのだ。

 

 それはたぶん、ヴェルナードがずっと一人だったから。

 ヴェルナードは生まれてから僕と出会うまでの約百年間、孤独だったらしい。

 他人……というか他龍と話したのは一度きり。どうやら先代の黒龍が極悪だったらしく、生まれた時に白龍が説明に来たのだとか。


 そんな事情もあり、本気で嫌がらない限りは僕も盛大にふざけていく。

 僕も楽しいし、ヴェルナードも楽しい。最高の関係だ。


「……何かイヤなこと考えてない?」

「ノンデモナイヨ!」


 裏声で言うと、またため息をつかれた。

 

「……はいはい。わかったよ。それで何の用? ていうか来るの早すぎない? ボクたちさっき別れたばかりだよね?」

「そうだね」

「寂しくなるねって言ってたよね?」

「そうだね」

「早い再会だね」

「まあいいじゃんいいじゃん。用はあの子のことだよ。ルシア=ノヴァリスって言うんだって」

「ノヴァリス……。もしかして公爵家……かな?」

「あれ? もしかして偉い人?」

「まあ貴族だね。それも公爵だからかなり上。神王国だと王、フィレイン、公爵の順だから三番目」

「フィレ……?」

「フィレイン。預言の巫女が代々継いできた名前だよ」

「なるほど?」


 聞いたことのない単語だが、なんとか神王国固有の役職……というよりも貴族位だろうか。

 さっきちょろっと預言を信仰……って言いかけてたからそこにまつわる貴族位なのかもしれない。


「でも三番目か。かなり高いね。敬語とか使った方がいいかな?」

「いきなり変えたら変でしょ」

「たしかに」


 唐突に敬語にしたらなんで敬語にしたのかと不審に思われる。貴方が貴族とは知りませんでしたなんて言えない。僕は一人で住んでいる設定なのだ。

 誰から聞いたんだよ、となる。

 

「まぁそこはあまり気にしないでいいと思うよ」

「根拠は?」

「ここに来るってことは力になりたいと思うぐらいには良い子だったんでしょ? なら大丈夫だよ」

「確かにその通りだね」


 まだ数回会話しただけだが、あの子が自分の貴族という地位を笠に着るような人物には見えなかった。

 確かにヴェルナードの言う通り、あの子がイヤな子だったら僕はここに来ていないかもしれない。

 

「それより名前が聞けたってことはちゃんと回復したんだね?」

「うん。足の石化は治らなかったけどね」

「あの石化はほとんど呪いだからねぇ。でも安心したよ。それで? 用って?」

「これ! 見てほしい!」

「出たそのスケッチブック……。今度は何を閃いたんだい?」

「車椅子!」


 スケッチブックを広げて見せると、ヴェルナードは近くまで首を動かしてまじまじと見つめた。

 人間サイズのスケッチブックだからいつも体勢がキツそうになる。そこは本当に申し訳ない。


「……ふむ。なるほどね。簡単に言うと……動く椅子?」

「そう! 自分で動かせるようにタイヤに取っ手もつけるから足が不自由でも移動できる!」

「よくこんなのが思い付くね」

「ホント不思議だよねぇ」


 自分でも不思議に思う。

 

「それでどう?」

「タイヤのゴム? がよくわからないな。弾性を持つ必要は?」

「んー。多分走りやすいんじゃないかな? クッションになるし。そのままフレームを剥き出しだとガタガタしそうな気がする。……たぶん」


 自分でもよくわかっていない。

 ただないとマズそうな気がしている。

 

「まあキミがそう言う時は大体必要だからいるんだろうね。このゴム以外ならすぐに作れるよ」

「ゴムは?」

「うーん。アテはある。けど仕留めに行かなきゃ」

「仕留め……野生生物の素材か」

「そう。弾性の皮を持ってるのがいるから。肉も美味しいよ?」

「好都合だね。頼んで良い?」

「任せて。あとで仕留めてくるよ」


 そう言うとヴェルナードは次々と魔術式を記述していった。数多の魔術式が浮かんでは消えていく。

 するとまず地面が盛り上がり、四角いキューブが出来た。と思ったら黒い部分以外がサラサラと崩れていく。

 

 前に聞いたら、これは地面から不純物を取り除き、鉄を抽出する魔術らしい。


 そして加熱と成形を繰り返し、瞬く間に車椅子が出来上がった。

 まさに早業だ。


「こんな感じかな?」

「流石! 完璧だよ! ありがとうヴェルナード! ちょっと乗ってみるね」

「うん。どんな感じか聞かせて」


 車椅子に着席。そしてタイヤの取っ手を掴み、動かす。

 一応動いた。だけどものすごく力がいる。それに地面が平らではないとはいえ、やっぱりガタガタだ。


「うーん。やっぱりタイヤにゴムはいるかな……。かなり力がいるし、このまま使ってたら歪みそう」

「なるほどね。そういう感じのゴムか。やっぱり必要だったね」

「まあでもひとまずは十分だよ。家の床は平らだからここまで力は必要ないと思う」

「わかった。でもなるべく早く用意するね」

「ありがとう。助かるよ」

「いえいえ。なら車椅子はこれでいいとして、あとはアレじゃない? 石化してるなら前にキミがやってたみたいに保護した方がいいんじゃない?」

「あー確かに。忘れてた」


 石化した部分は衝撃に弱くなる。

 僕みたいに死んだら元に戻る人間でもなければ、砕けたらそのままだ。

 流石の僕も砕きたくはなく、山嶺の中腹ぐらいに生えるふかふかの植物でクッションを作って保護していたのだ。そのことを今の今まで完全に忘れていた。


「前に作ったクッション材余ってる?」

「確か余ってたような……探してくるよ」


 洞窟の奥に引っ込んだヴェルナードを待つこと約五分。両手にモコモコを抱えて戻ってきた。


「あったよ」

「結構あるね」


 ドラゴンの両手に抱えられるほどあるのだから結構多い。だけどこれだけあれば足りなくなることはないだろう。


「靴みたいにした方がいいかなぁ」

「形は見た? 立った状態で石化してた感じ?」

「そうそう。そんな感じだった」

「それで靴だと履く時に大変かな。巻くような形にした方がいいかも」

「じゃあそれでいこう。お願い」

「任せて」


 再び、魔術式を記述するヴェルナード。

 両手のモコモコが凄まじい速度で形を変えていく。

 そして数分もしないうちに帯のような形になった。


「はい。これでどう?」


 ヴェルナードから帯を受け取り、触感を確かめる。


「もこもこのふわふわだぁ」


 ひとまずこれをつけていれば大きな衝撃でも加えなければ砕けることはないだろう。


「ありがとうヴェルナード。これで試してみるよ」

「また何かあったら教えて」

「うん。その時はよろしくね。じゃあ僕はいくよ。またねヴェルナード」

「またねレン」


 僕は出来上がった車椅子にモコモコの帯改め、石化用保護クッションを載せて、来た道を引き返した。

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